【サッカー人気5位】【チームレポート】2023シーズン夏の補強を考察する(延長…

長野県フットボールマガジン『Nマガ』

西田勇祐の現在地。「(岩田)智輝くんから『頑張れ』と…」

「僕は誰よりもトレーニングしている」。19歳の若武者は、そう胸を張る。

今季、J1の横浜F・マリノスから育成型期限付き移籍で加わった西田勇祐。高卒1年目の昨季は出場機会が得られなかったが、今季はカテゴリーを2つ落とし、「J3でベストイレブンになる」と高らかに宣言していた。しかし、J3で首位を走るチームにおいて、出番はおろかベンチ入りすら叶わない状況。メンバーのローテーションがあった天皇杯長野県予選でも、チャンスが訪れることはなかった。

天皇杯(長野県予選)は自分もチャンスが来るかと思って準備していた。それでも入れなくて、心が折れそうになったときもあった」。横浜FMに同期入団した山根陸はJ1で活躍し、U-20W杯のメンバーにも選ばれている。山根も含めて「年齢の近い選手が活躍しているのを見ると、試合を見たくなくなるくらい悔しい」と吐露する。

そこで腐るのは簡単だが、西田が腐ることは決してない。彼のメンタルを支えているのは、トレーニングの量と“師匠”の存在だ。

“師匠”からのエール。「刺激しかない」

「試合に出られなくて、最近はいろいろな感情があるけど、昨日の自分に負けないようにと思いながら日々過ごしている」。周囲との競争に勝つことはもちろんだが、まずは自分に勝たなければ先がない。J3屈指の堅守を誇るチームにおいて、強度の高いメニューをこなしつつ、全体練習後にも自主トレーニングに励む。選手やスタッフが引き上げた後、彼一人だけが居残りでジョギングしている姿も珍しくない。

また、ピッチ外でも「筋トレもそうだし、食べるものとかサプリも誰よりもこだわっている」と話す。そういった努力の根幹にあるのは、自身が“師匠”と慕う岩田智輝の存在だ。

横浜FMに在籍していた昨季は“岩田塾”の門下生として、岩田が取り組むフィジカルトレーニングを模倣していた。その甲斐もあって、昨季の登録体重は72kgだったが、今季は74kgに増加。ピッチ内外で師匠の存在が原動力となっていた。

岩田はJリーグMVPの称号を提げ、今年からセルティックに移籍。物理的な距離こそ離れたが、「(岩田)智輝くんの誕生日(4月7日)に連絡をして、お互いの近況を話し合う中で『頑張れ』と言ってくれた。智輝くんも最初は活躍できていなかったけど、そこから試合に出てMOMにも選ばれていたので、刺激しかない」。出番がなくとも腐らずに取り組めているのは、圧倒的なトレーニングの量から得る自信と、師匠からの刺激があってこそ。その成果は体重や体脂肪率など、数値にも表れているという。

彼の努力は指揮官にも伝わっているようだ。天皇杯長野県予選決勝・松本戦(1-1/PK 5-4)ではスタンドから戦況を見守ったが、長野の“通例”として試合後にメンバー外の選手も含め、全員でサポーターに挨拶を交わす。ピッチに降りてゴール裏へ向かう西田は、後ろからシュタルフ監督の熱い抱擁を受けた。トレーニングに向かう際にも談笑する姿が見られるなど、指揮官との関係は近いものがある。それには同じ横浜育ちということも影響しているのかもしれない。

「(シュタルフ)悠紀さんは取り組む姿勢とかマインドをいつも評価してくれる。こんなに近くで接してくれる監督はいなかったし、いろいろなことを話してくれて、自分のメンタルも良い方向に向かっている。どの選手にも優しく接してくれていると思うけど、本当に素敵な人だと感じる」

ユーティリティ性を武器にJデビューへ

今季はシュタルフ監督のもと、3バックの左右やウイングバック、ボランチなど、複数のポジションをこなしている。もともとユーティリティ性を売りにはしていたが、長野のウイングバックは高い位置を取るため、攻撃力も求められる。キャンプではやや戸惑いが見られたものの、いまは積極的な攻撃参加からクロスを上げるなど、順応度を高めている。

クロスの質については「GKとDFの間に速いボール」というこだわりがある。昨季は水沼宏太のクロスを間近で見ており、「本当にいいボールを蹴る」と感嘆していたとのこと。それを自分なりに再現しようと、トレーニングから“嫌らしい”クロスを狙い続けている。

守備時はウイングバック、攻撃時はボランチに入る可変式にも挑戦中だ。これも横浜FMのサイドバックがインサイドを取る戦術と類似しており、西田にとってはお手のもの。「中でプレーするのは好きだし、味方との距離感さえ良ければ、相手が来てもパスを繋げる自信はある」。守備でも成長中のフィジカルを生かし、当たり負けない強さが出てきた。

レギュラークラスの守備陣と比べると、高さや強度で劣る部分も少なくないが、彼にはユーティリティー性という武器がある。これまで通りに技術やフィジカルの水準を上げつつ、そこに判断や積極性が伴えば、プロデビューも見えてくるだろう。

去年はゲーム形式の練習すら入れなかったけど、今年はいい経験をさせてもらっている。いろいろなポジションをやらせてもらって、プレーの幅とか選択肢も広がっているので、すごく楽しい。あとは自分なりに努力して、チャンスが来たときに100%を出せるように準備するだけ

シーズンはまだ始まったばかり。J1王者に認められた価値を証明するためにも、ここで立ち止まるわけにはいかない。

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