子どもの持ち帰るプリントに突然現れる「さくらんぼ計算」。
さくらんぼ計算は近年の学校現場では非常にメジャーな指導法です。しかし現場で普及されだしたのは2010年頃と新しく、保護者の多くは小学生時代にこのような計算方法を学んでいないことでしょう。そのため、子どもの持ち帰った宿題に戸惑ってしまう場合が多いようです。
ネット上でも賛否両論あるさくらんぼ計算ですが、実は算数で大切な「思考の可視化」ができるとても有効な計算方法です。
今回は元小学校教員ライターの秋野みんみが、さくらんぼ計算を用いる理由や家庭で教えるときの声かけの方法を徹底解説します。
さくらんぼ計算とは、小1で学ぶ「繰り上がりのあるたし算」「繰り下がりのある引き算」の答えを出すときに使われる計算方法の1つです。
「繰り上がりのあるたし算」や「繰り下がりのある引き算」は、子どもにとって非常につまずきやすい単元。そこで、さくらんぼ計算を使った「10のまとまり」をつくって答えを導き出すという概念が理解しやすいことから、現在多くの公立小学校で教えられています。
例えば「8+5」のような繰り上がりのある足し算では、足す数である「5」を「2」と「3」に分解して考えます。「2」と「3」に分けたのは、足される数「8」の10の補数(「10」になるための数)である「2」を導くためです。
このように分解して考える際に描く〇と棒が、さくらんぼのように見えることから、さくらんぼ計算と言われているようです。
それでは、実際にさくらんぼ計算を用いて「繰り上がりのあるたし算」や「繰り下がりのあるひき算」の答えを出してみましょう。細かな書き方や考え方は、学校や教員によって多少違いがあると思いますので、一例としてご覧ください。
さくらんぼ計算を用いた繰り上がりのある足し算のやり方を見ていきましょう。 ここでは、繰り上がりのある「8+5」の答えを導いていきます。 (1)1番目に出てきた数の10の補数を考える。 「10は、8といくつでできる?」
答えは「2」です。
これで10のかたまりができます。さくらんぼの左側に「2」と書きます。
(2)2番目に出てきた数の「いくつといくつ」を考える。 「5は2といくつでできる?」
答えは「3」です。
さくらんぼの右側に「3」と書きます。
(3)答えを出す。
「10のかたまりと残りの3に分けられたね。足して答えを出そう」
一の位に「3」、十の位に「1」を書いて、答えを出すことができました。
ポイントは、10のかたまりをつくって考えるという概念をしっかり理解させることです。学校では、さくらんぼ計算の前に、おはじきやブロックなどの具体物でこの「いくつといくつで10になるか」という概念を繰り返し指導します。
おはじきやブロックの代わりが、さくらんぼ計算なのだと理解させることが大切です。ここでつまずく場合には、さくらんぼ計算をしながら、実際に具体物を動かしてみるのも良いでしょう。
次にさくらんぼ計算を用いた繰り下がりのある引き算のやり方を見ていきましょう。 ここでは「12-7」の答えを導いていきます。
12からそのまま7をひくのは難しいので、既習の「10までのひき算」ができるように、10のかたまりと残りの「2」に分けて考え、[10-7」の答えである「3」と「2」を足して答えを導くという考え方です。
ひき算なのに足し算が出てくるというのが、つまずきやすいポイントです。たし算同様におはじきなどの具体物を動かす作業を取り入れて概念を理解させることが大切です。
(1)1番目に出てきた数を10と 残りの数に分ける。 「12のままでは引き算が難しいから10のかたまりと残りに分けるよ。 12は10といくつでできるかな?」
答えは「2」です。
「10」と「2」をさくらんぼに書きます。
(2)10のかたまりから7をひく。 「10ー7」は何かな?
答えは「3」です。
(3)「2」と「3」を足して答えを出す。 ただやり方を繰り返すのではなく、「何のために引くのか」「何のために足すのか」を子どもに繰り返し問いながら、定着させていくようにしましょう。
さくらんぼ計算は、2010年頃から学校現場で盛んに導入されるようになったと言われています。筆者も小学校で習った記憶はありませんでした。
竹本正人氏によりTOSS(教師の研究団体)で発信されたことが始まりだと言われており、繰り上がり・繰り下がりの計算を分かりやすく教えられることから、あっという間に日本全国の小学校に広まっていきました。
「さくらんぼ計算を使うことを強いられて混乱した」
「いちいち描くのがめんどくさい」
と批判の声を聞くことも多いさくらんぼ計算。あくまで答えを導き出すための考え方の1つですから、答えが分かる場合にはさくらんぼ計算を強いる必要はないでしょう。
しかし、繰り上がり・繰り下がりのある計算につまずき感のある子どもにとって、計算の基礎である「10のまとまり」を意識できるさくらんぼ計算は、非常に有効な計算方法の1つです。
さくらんぼ計算はあくまで計算の手段であり、さくらんぼ計算ができること自体がゴールではありません。子どもにさくらんぼ計算を教えるときには、さくらんぼ計算をする意味やメリットを伝えてから教えるようにすると良いでしょう。
例えば現在の学習指導要領では、繰り上がりのあるたし算をこのように考えます。
算数が苦手な子の多くは、計算の過程を残すことをしません。さくらんぼ計算を用いることで、自然と計算の過程を残すことができるため、算数が苦手な子どもほどメリットが大きい計算方法と言えるでしょう。
子どもに伝えるときには「算数の計算をするときは、たくさんメモを残すのが大切だよ。さくらんぼ計算をすることで間違えも減るし、計算が速くなるよ!」と一言伝えてあげられるといいですね。
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小学校低学年の算数では、新しい単元に入る時には必ず具体物を操作して概念を学び、概念が分かった上で、数字に置き換えて計算をしていきます。
そのため、さくらんぼ計算の場合にも「10のまとまり」というポイントをしっかりと押さえた上で活用しなければ、さくらんぼ計算の良さを理解することが難しいでしょう。
子どもが困っているときには、まずはおはじきやブロックを使ってさくらんぼ計算をしてみることをおすすめします。それでも難しい場合には「いくつといくつ」でつまずいているのかもしれません。
「繰り上がりのあるたし算」や「繰り下がりのある引き算」は算数が好きになるか嫌いになるかの分かれ道ともいえる重要な単元です。さくらんぼ計算をうまく活用して、自信をつけてあげられるといいですね。
ライター 秋野みんみ
元小学校教員ライター。公立小学校で10年の勤務経験有り。 現在は転勤族の妻で息子の育児に奮闘中!教員経験を生かして、お役に立てる情報を発信してきます♩
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