知らぬ間に年金口座が紐づけられることも…知っておきたい「マイナカードの落とし穴」
文春オンライン / 2023年8月18日 6時0分
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〈 「人気の官公庁関係のお仕事◎」というバイト求人も…「マイナカード」へのぬぐい難い“不信感” 〉から続く
マイナンバーカードの相次ぐトラブルに、岸田首相が「マイナンバー情報総点検本部」を設置し、マイナンバーカードの取得者向けの専用サイトで閲覧可能なすべてのデータ29項目の情報を、今年秋をめどに総点検します。
ただ、この総点検では、漏れている大切なものがあります。それは、皆さんの大切な老後の命綱の「年金」です。
他人の年金情報を閲覧できるトラブルが発生
マイナンバーと基礎年金番号は全く違うもの。マイナンバーは国民全員につけられている12桁の番号。いっぽう年金は、10桁の番号で管理されます。ですから、関係ないと思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、実は、マイナンバーカードでできることはいろいろあります。
カードを提示すれば年金に関する相談や「マイナポータル」で年金記録の照会ができ、また各種手続き・届出もできます。さらに、マイナポータルで、年金など公金の受け取り口座を登録することができます。
実はこのマイナポータルで、他人の年金情報が紐づいていて閲覧できるというトラブルが発生しました。一昨年末に、年金を受けとる年齢に達した共済組合の女性が、旧姓の名字を誤って入力され、同姓同名でしかも生年月日も同じ人の年金情報が紐づけられてしまったというものです。
総務省の担当者は「旧姓と現在の名字が非常に似ていて、誤入力してしまった」といいますが、一件でもこうした誤登録が発覚すると、他にも同じようなトラブルがある可能性が出てきます。
日本年金機構は調査を拒否
これに対して、ミスター年金こと長妻昭立憲民主党政務調査会長が「政府が総点検をするというなら、日本年金機構にもマイナンバーと公金給付の受け取り口座の登録に間違いがないか徹底調査をして欲しい」と要請しました。
ところが、日本年金機構は、この要請を拒否。「せめて、ミスがないことを確認するためのサンプル調査くらいはしてほしい」と再度申し込んだら、サンプル調査もしないというのです。
「いっさい調査はしないというのは、これは、全件調査で国民の安心感を確保するという政府の趣旨に反しています」と、長妻氏は憤っています。
うがった見方をすれば、下手に調査など始めて、他にもミスが出てきたら、それこそ「消えた年金問題(年金記録問題)」の二の舞の大騒ぎになるのではと危惧しているのかもしれません。
ちなみに、「消えた年金問題」では、故安倍晋三首相が、「最後のおひとり様まで責任を持って対処する」と言っていましたが、まだ5000万件中2000万件は持ち主がわからないまま、作業も中止され、宙に浮いてしまったままです。
こうした状況の中で、怖いのは、これから高齢者の年金受け取り口座は、本人が知らない間にどんどんマイナンバーに紐づけられていくかもしれないということです。
マイナンバーカードの落とし穴
6月に改正マイナンバー法案が成立しました。
ここで決まったのが、本人が意思を持って拒否しないと、年金口座がマイナンバーカードに紐づけられてしまうこと。
政府は、年金を受け取っている人に書留郵便などで、年金口座をマイナンバーカードへ紐づけることへの同意を求めることになっています。その同意書は、一定期間内に「同意しない」と回答して送り返さなければ、同意したとみなされ、本人に確認なく口座に紐づけられます。年金について書いてある書類を、面倒なのであとでゆっくり読もうなどと放っておくと、自分が気づかないうちに紐づけられているということです。
政府は、「これによって、デジタルに不慣れな人でも、簡単に年金受け取り口座をマイナンバーカードに紐づけることが可能」と言いますが、これに対して日弁連は、「公金受取口座とマイナンバー(カード)の紐づけ登録には、名義人の積極的な同意を求めるべきであり、名義人が知らないうちに紐づけされてしまうような方法をとるべきではない」と抗議の声明を出しました。
積極的な調査で信頼感を
マイナンバーカードは、最大2万円のポイントのバラマキで、多くの人がカードを取得しました。デジタル庁の「政策データダッシュボード」によれば、7月2日現在で、カードを持っている人は9737万人ですが、ここに公金受け取り口座を登録している人は5644万人と、カードを持っている人の6割です。
公金受け取り口座は、カードをつくる時に簡単に紐づけでき、しかもキャンペーン中なら7500ポイントが付くにもかかわらず、4割の人はわざとつけなかったのですから、かなりの人がカードに年金口座を紐づけることに危惧を抱いているということでしょう。
それなのに、拒否しなければカードに紐づけられていくというなら、せめて日本年金機構は、全件調査を拒否せず、積極的に調査して信頼感を取り戻すべきでしょう。
(荻原 博子/文春新書)
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