今から15年前、テキサス州に住むマイラ・ロザレスという女性から2歳児が危篤状態にあると通報があった。 彼女の甥であるエリセオちゃんは、すぐさま救急車で病院に運ばれたが、あえなく死亡。
警察の調べに対し、マイラは、昼寝をしていて寝返りをうったところ、側にいたエリセオちゃんが下敷きとなり、窒息状態に陥ったと説明した。 通常、女性の寝返りで下敷きになっただけで、2歳の子が窒息するとは考えにくい。 だが、そこにはマイラが置かれた特殊な状況があった。

実は…マイラの体重は470キロ！ 彼女は世界一体重が重い女性だったのだ。
彼女は事故当時、夫のバーニー、妹でシングルマザーのジェイミー、そしてジェイミーの4人の子供たちと同居していた。 ジェイミーの留守中にはマイラが子供たちの面倒を見ることもよくあったという。

マイラによれば、この日彼女はエリセオと2人で留守番することになったのだが、そんな中、事故は起こった。 昼寝をしていたマイラが寝返りをうった時、エリセオちゃんがその下敷きに。 マイラの重さにエリセオちゃんは自らの力で逃れる事ができず、窒息状態に陥ってしまったという。 ようやく異変に気づいたマイラはすぐに救急車を呼んだが、時すでに遅し。

この前代未聞の出来事は、彼女の特異な容姿と共に全米の注目を集めた。 それにしても、彼女はなぜこんな姿になってしまったのだろうか？
マイラ・ロザレスは幼い頃から太っていたわけではなく、どちらかといえば痩せ気味の子供だった。 ところが、大好きだった父親が離婚し、家を出て行ったことをきっかけにポッカリと空いた心の隙間を埋めるかのように暴食するようになり、少しずつ太っていった。

そして事故が起きた2年前、膝が痛み出し、怖くなって立ち上がれなくなった。 やがてベットの上での生活を余儀なくされるようになる。 食事は1日に18,000キロカロリー、実に成人女性の平均の10倍という信じられない量。 にも関わらず、運動はほとんどゼロ。 そして気がつくと、体重は470キロにまで増えてしまっていた。
だが、体重増加の原因は、食事の量や運動不足なだけではなかった。 甲状腺に問題があり、エネルギーが代謝されず、体に残ってしまう体質だったことも拍車をかけていた。

世界一体重が重い女性がその体格ゆえに引き起こした前代未聞の悲劇…それがこの出来事の全てかに思われたのだが…司法解剖の結果、エリセオちゃんの死因は窒息死ではなく、頭部の損傷が原因であることが判明した。 鈍器による打撃痕が頭部に数カ所確認出来、さらに体にも複数の傷が残されたいたのだ。

マイラの担当弁護士であるセルジオは、マイラに真相を聞き出そうとしたが、彼女は頑として口をつぐんだ。
巨体のせいで意図せず2歳児を圧死させてしまった事故が一転、殺人事件の容疑者となったマイラは全米の関心の的になった。 そしてマイラは体重が0.5トンに近かったことから、いつしかこう呼ばれるようになった…『ハーフトンキラー』。

マイラは殺人容疑で起訴されたため、当然留置所に移送されるはずだったが、なぜか収監されることはなかった。 いや、出来なかったのだ。 マイラの巨体を見た警察は、留置所に収監することは不可能であると判断。 この状態では逃げることも不可能であることから、例外的に在宅起訴されることになったのである。
殺人の容疑者でありながら、刑務所に収容されなかったのは、アメリカ犯罪史上マイラが初めてだった。

さらに裁判でも異例の処置が取られた。 マイラが出廷するには、特別の車両を手配する必要があり、輸送費だけで多額の費用がかかること、そもそもマイラを被告人として裁判をするには、法廷が狭すぎることなどから、在宅のまま、インターネット中継を繋いで裁判をするという、いわばリモート裁判が行われたのである。

こうして前例のない裁判が進む中、マイラは相変わらずセルジオ弁護士にさえ、事件の詳細を語ろうとしなかった。 テキサス州には死刑制度があり、幼い子を故意に殺したとすれば、陪審員はマイラに死刑がふさわしいと考えても不思議はない。 このままでは、マイラは死刑になる可能性もあった。 それでも何も言わないマイラにセルジオ弁護士は強い違和感を覚えた。 そこで彼はマイラに対し、ある検証を試みた。

その検証の様子を写した映像がある…ベットの上で、体や腕を動かそうとするマイラが映っている。 この検証実験によって、セルジオ弁護士は自分が抱いた違和感の正体に気がついたという。
セルジオ弁護士「犯行は腕を振り上げ、鈍器のようなもので頭を殴ったことでしたが、彼女は脂肪が邪魔になり、腕がうまく動かせませんでした。つまり彼女が殺人を行うことは物理的に不可能だったのです。」

検証後、セルジオ弁護士はそのことをマイラに伝え、真実を話してほしいと訴えた。 すると数週間後、マイラはついに真実を話したいと、セルジオ弁護士を呼び出した。
なんとマイラは妹のジェイミーのために虚偽の証言をしたという。 一体どういうことなのか？

エリセオちゃんを殴ったのはマイラではなく、妹・ジェイミーだったという。
マイラによると、ジェイミーは普段からエリセオちゃんを虐待しており、この日も、なかなか食事をしないエリセオちゃんの頭をブラシで殴っていた。 エリセオちゃんはマイラの元に逃げ込み、ジェイミーは出かけていった。

それからしばらくして、マイラはエリセオちゃんの様子がおかしいことに気がついた。 マイラは必死に電話を取り、どうにか救急車を呼び、エリセオちゃんは病院に運ばれていった。
それからしばらくして、知らせを受けて病院に駆けつけていたジェイミーから電話があった。 ジェイミーによると、エリセオちゃんは病院に運ばれてすぐ息を引き取ったという。

可愛がっていたエリセオちゃんの突然の死にマイラは大きなショックを受けた。 だが次の瞬間、ジェイミーは驚くべき言葉を口にする。
「姉さんがエリセオを押しつぶしたことにしてくない？」
子供達にはジェイミーが必要で、自分のこの体では代わりに育てることもできないと思ったマイラは、それを承諾した。

その後、再び警察の捜査が行われた結果、マイラの証言通り、妹のジェイミーが行った反抗だった事が裏付けられ、ジェイミーは逮捕された。 これにより、マイラへの疑いは完全に晴れたのだが、肝心のマイラの心は晴れなかった。 そもそもがジェイミーの子供たちのためについた嘘。 それがバレてしまった今、子供達を育てる人間はいない。 そして、そんな思いに追い討ちをかけるように更なる窮地が彼女を襲うことになる。

長引いた裁判のために彼女は極度のストレスにさらされ、体重がさらに増加。 あらゆる数値が悪化していたのだ。
超肥満患者治療の第一人者、ノウザラダン医師がマイラの治療を行った。
すると…「彼女の健康状態は非常に悪く、末期的な状態でした。あまり余命は長くないだろうと思いました。」

事態は間違いなく一刻を争う。 正直、すでに手遅れになっている可能性も高かった。 だがわずかな可能性にかけ、ノウザラダン医師はヒューストンの病院で専門的な治療を受けさせるため、緊急搬送させることにしたのだ。

そして、それから6年の月日が流れた。
この日、成長したジェイミーの子供達は海辺で遊んでいた。 子供達には1人の女性が付き添っていた。 その女性こそ、あのマイラだった。

あの時、緊急搬送されたマイラには長期にわたりいくつもの治療が施された。 脂肪吸引手術、胃の縮小手術、身体中に溜め込んだ浮腫の摘出手術、余った皮膚の除去手術。 そして下半身のリハビリ。
これら想像を絶する苦しい治療に耐えたマイラは、体重を劇的に減らし、ついには歩行を始め、普通の生活ができるようになったのだ。
その原動力となったのが、ジェイミーの子供達だった。 彼らの笑顔のためにマイラは決して諦めなかった。 そして今、苦難を乗り越え、子供たちの手を取り、歩いている。

見事な復活を遂げた彼女は、テレビの人気番組にも出演。 その美しくなった姿を披露するなど、以前は想像もできなかった活動的な人生を手に入れた。
そして現在の彼女は、もはや完全に別人。 体重は90キロ、470キロから実に380キロの減量に成功！
彼女は辛い事件を経験し、それでも諦めることなく前を向き、健康的な生活を取り戻した。 その生き方は我々に多くのことを教えてくれている。