非理谷充(クレヨンしんちゃん)

登録日:2023/08/17 Thu 01:54:54
更新日:2023/08/17 Thu 11:34:50NEW!
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誰だ……

誰が俺をこんな風にした?


非理谷(ひりや)(みつる)とは映画『しん次元!クレヨンしんちゃん THE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜』のキャラクターである。

CV:松坂桃李、塙真奈美(幼少期)






※ネタバレを多分に含みます。






●目次

【概要】

現代社会および自らの人生に対して鬱屈した想いを抱える内気な男性。
年齢は30歳であり、職業は派遣社員。
趣味はアイドルの応援。

幼い頃から度重なる不幸に見舞われており、親身になってくれるような家族や友人もおらず、並々ならぬ絶望とやり場の無い鬱憤を抱えながら日々を生きていた。
しかしそんなある日、宇宙から飛来した暗黒の光を浴びたことで彼は超能力に目覚める。
超人的な力を手に入れた非理谷は、自分を虐げてきた世界に復讐することを誓ったのだった。

超能力の万能性に取り憑かれてからは、卑劣な悪事に手を染めるようになり残忍な発言も目立ったものの、元は善良な青年だった様子。
本作パンフレットに収録されているインタビューにて担当声優の松坂氏も「たまたま超能力を得たことで道を踏み外してしまうけど、根は寂しがり屋で純粋ですごく優しい男」と語っている他、
プロデューサーの吉田有希氏も「悪役だけど芯から悪い奴ではないので、観ている人に嫌われて欲しくなかった。影がありながらどこかピュアな感じがする役者として松坂氏がピッタリだと思ってお願いした」と答えている。
作中においても国際エスパー調整委員会の池袋教授が「彼も(野原一家のような)温かい家庭に育っていれば、ここまで歪まなかったかもしれない」とその苦悩に思いを馳せる一幕が見られた。
また、非理谷は自身の現状を社会の諸問題にも原因があるものとして語っているが、その主張自体も作中で最後まで否定されていなかったりする。

物語中では、間違った方向にプライドを高く拗らせてしまっているせいで他人からの厚意を「見下してきた」と解釈し、仇で返すような振る舞いをしたりと彼本人の屈折した思考や行動にも少なからず問題があることは一応描かれていた。
極度の空腹に陥っていた*1といえど、倒れ込む自分を気遣う相手を押しのけて衝動的に料理を盗み食いしてしまうような場面もある。
とはいえそうした人格が形成されてしまった背景も含め、紛れも無く非理谷の人生を取り巻く様々な環境もまた彼を狂わせた元凶であると言えよう。

このような重いバックボーンを背負った人物ではあるのだが、『クレヨンしんちゃん』のキャラらしくコミカルでお茶目な一面も皆無ではない。
主人公サイドが流した深田恭子の曲に合わせて「深キョンカモン!」とノリ良く踊る姿は、動きがやたらキレッキレなのも相まってちょっぴり微笑ましい絵面である。
スマホのゲームで攻略に行き詰まった時「これに課金なんかしねえぞ。魂胆は分かってるんだ!」と愚痴っている姿を見て、「ああ、その気持ちわかるわ~」と不覚にも共感してしまった視聴者もいるかもしれない……。
また幼少期からカンタム・ロボが好きなようで、終盤に巨大カンタムと相対した際には「見せてもらおうか。連邦軍の力とやらを!」と露骨なパロディ台詞で応じている。



【劇中での活躍】

◇力の目覚め

初登場時には新橋の路上でティッシュ配りの仕事をしていた。
そこで通りすがりのサラリーマンに暴力を振るわれ、心無い嘲笑を浴びせられる。その光景を目撃して心配に思ったひろしが、倒れていた非理谷に手を差し伸べたものの、彼はその手を振り払って睨み付けてしまう。

どいつもこいつも俺を見下しやがって……!!

なんで俺だけ……

更にその直後、彼が唯一の心の拠り所としていたアイドルが結婚&引退を表明したという情報をネットニュースで見て呆然自失に。
しかも、その事実が彼から冷静な判断能力を奪ってしまったのか、近所で起きた強盗事件を追う警察から犯人と誤解された際には、一言も弁明せずに逃げ出してしまった。

路地裏で警官に追い詰められたその時、前述した経緯で超能力者として覚醒。
能力で警官達を気絶させた非理谷は己の手にした力を実感し、ゴミ山にうずまりながら高笑いするのであった。

見ていろよ…

今まで俺を馬鹿にしていた奴らに仕返ししてやる…

手始めに、この世で唯一自分のことを認めてくれていたはずなのに裏切った(と一方的に見なしている)アイドルとその婚約者の目の前で、婚約者の自家用車を爆破して恐怖を味わせるという嫌がらせに及ぶ。

そして次にどうするか当てもなく渋谷の街中をさまよう非理谷であったが、ふと周りを見渡せば、他の人間は友達や恋人と楽しそうに歩いている。

どいつもこいつもインスタだフェイスブックだと、そんなに幸せ自慢したいのか…

俺には人に見せられる幸せなんかひとつもないのに……

自分のひび割れたスマホに目を向けて、ファンだったアイドルの名を縋るように呟く。
ところがスマホが壊れかけていて調子が悪かったのか、彼女を映していた画面は無情にもブラックアウトしてしまう。何も表示されない真っ暗な画面に写るのは、辛い現実に苦しみ続ける惨めな己の表情だった。

ああああああああ!!!!

精神的に限界を迎えた非理谷は、能力を暴走させて周囲の人間のスマホを破壊するとその場から力無く立ち去って行った。


◇しんのすけとの出会い

偶然通りがかったふたば幼稚園のよしなが先生に「保育士の女性が憎いから*2」という理由で害意を抱いた彼は、彼女を傷付けるため幼稚園に立て籠もる。
かすかべ防衛隊の風間くん、ネネちゃん、マサオくん、ボーちゃんもその場に居合わせており、非理谷の怒りの捌け口となった。

Jリーガー、お花屋さん、ユーチューバー…どいつもこいつもくだらねえ!!

いいか お前らにまともな未来なんてねえからな!!

この国はもうお先真っ暗なんだ!!

園児達から奪った弁当で腹を満たしつつ、彼らが描いた「将来の夢」をテーマにした絵を嘲笑する。
そんな中、非理谷は一つの絵に目を付ける。その絵は何故か真っ白だった。

そうなんだよ 夢なんか持たねえ方がいいんだよ!!

こいつわかってんな 野原しんのすけ

非理谷には知る由も無かったが、これを描いた本人は決して未来に夢を抱いていないわけではない。
食べるのに困らない大人になりたいという想いを込めて描いた白いごはんの絵だったのだ。

そして防衛隊の面々やよしなが先生を超能力で振り回していた最中、突然その場に現れた一人の少年と邂逅する。

この大変なヘンタイのお兄さんが遊んでくれてるんでしょ?

俺はヘンタイのお兄さんじゃない!!お前こそ誰だ!?

じゃ、ヘンタイの鬼さんか!オラ野原しんのすけ!

非理谷と同様に超能力を体得し、瞬間移動で登場したその少年こそ、先程彼が着目した野原しんのすけだった。
鬼ごっこ感覚で自分にじゃれるしんのすけに憤慨した非理谷は、彼を捻じ伏せようとするも同じ超能力使いなので中々勝負が付かない。
非理谷も燃えてきた所で、幼稚園を包囲していた警察の特殊部隊が突入して来たため、彼は渋々その場から退散する。


◇更なる暴走

その後非理谷は、ヌスットラダマス二世を名乗る人物から声をかけられ、「令和てんぷく団」なる組織に迎え入れられることとなった。
現実世界に絶望した若者達を集めてヌスットラが結成したこのテロ組織において、非理谷は有望な人材だったのである。
令和てんぷく団アジトのエネルギーマシンで若者達から採集した負のパワーの値は、当初50%を下回っていた。しかし、常人では計り知れない絶望感を胸中に抱く非理谷が力を注ぐなり瞬く間に100%へと到達。

あんたの望むようにこの世界を破滅させてやるよ

マシンから絶大な力を得た非理谷はその姿形を大きく変貌させていた。コードを身体に巻き付けた道化師のような風貌の巨人へと変化したのだ。
新たな力で、自分を計画に利用しようと企んでいたヌスットラを軽く一捻りする。

駆け付けたしんのすけ一行は非理谷を止めるため戦いに臨む*3
しんのすけが念動力で操作する巨大カンタムとの戦いの末、ひまわりも超能力に目覚めたこともあり、非理谷は敗北。
ところが、一度倒れたかに見えた非理谷は更に変身し、巨大な卵から頭と足が生えたような不気味な怪物に姿を変えた。何度か火球を吐いた後、近くまで誘き寄せたしんのすけを体内に呑み込んでしまう。


◇精神世界での戦い

怪物の体内に入ったしんのすけは、そこで一人寂しくカンタム・ロボの番組を見ている幼い少年と出会う。

ボクは 非理谷充…

みつるくん何で泣いてるの?お腹痛いの?

違う!ボク一人で寂しいの

みつるの両親は共働きで、彼は毎晩一人で食事をしていたのだ。
しんのすけはそんなみつると二人でチョコビを分け合って食べる。彼の表情は少しだけ和らいだ。

場面は次々と切り替わり、その度に成長していくみつるにしんのすけは寄り添いつつ二人で苦難を乗り越えていく。「ボクが頑張ったって誰も応援してくれない」と嘆いていた彼は少しずつ変わっていった。
超能力を得てさえも八つ当たりばかり繰り返していた非理谷は、精神世界にてみつるとして、己のトラウマと初めて正面から戦い始めたのであった。

そして彼に決定的な瞬間が訪れる。
思春期に入ったみつるの両親は離婚して、それぞれ別の相手と再婚することが決まってしまったのである。
最後の家族団欒として手巻き寿司パーティーが開かれるも、みつるは耐えられずに家から飛び出し、その先で普段自分をいじめている三人組と出くわしてしまう。彼は無抵抗のまま殴られていく。

オラの仲間をいじめるな!!

しんのすけは五歳児のままでありながら、自分より遥かに体格の大きな相手にも挑みかかる。

みつるくんは一人じゃないんだゾ!!

自分がボコボコにされて傷だらけになろうとも、みつるを励ますしんのすけ。
みつるも必死にいじめっ子達に立ち向かい、長い激闘の末に二人で勝利を掴んだのだった。

温かい家庭に恵まれなかったみつるにもしんのすけという“仲間”が出来た。
そして現実世界で怪物として暴れていた非理谷は、元の人間の姿へと戻っていく。


◇エピローグ


ん?君…もしかしてしんのすけくん?

みつるくん!?大変なヘンタイのお兄さんはみつるくんだったのか!!

久しぶりだね…!!

さっき一緒にいじめっ子をやっつけたでしょ

そうだね…ありがとう

しんのすけとの再会に感涙する非理谷。
彼には自分が超能力で暴れていた間の記憶はほとんど無いらしい。

記憶が無くても一応やったことはやったことなので、ひろしは非理谷に「君が壊したウチの車の修理費の話がしたい*4」と持ちかけつつも、相変わらず腹を空かせている彼のために自宅で手巻き寿司を一緒に食べようと誘う。
更に「君はまだ若いからこれから何でも出来る」「(君達の言う通り)確かにこの国の未来は暗いかもしれないが、それでも生きていくしかない」「頑張り方が分からないなら、自分を幸せにするより誰か*5を幸せにしようと思え」などと激励。

確かに非理谷にとっては依然として厳しい世の中かもしれないが、彼はもう決して一人ではない。

いくぞ、みつるくん

おお!

今までの人生で他人からほとんど応援を受けたことが無かった非理谷は、自分が迷惑をかけてしまったのに怒らずエールを送ってくれるしんのすけ達の思いやりに感激しつつ、彼の家で手巻き寿司をご馳走になることに。
エンディングではその様子が描かれており、彼が野原一家に馴染みながら、エスパー調整委員会の深谷ネギコとも親しくなっている光景が見られたのであった。



強盗の冤罪および本人が超能力で犯した罪により指名手配された非理谷ではあるが、エンディングを見る限りでは春日部で気楽に過ごせているようなので、おそらくその辺はどうにかなったものと思われる。
これからは野原一家やエスパー調整委員会と交流を持ちながら社会復帰を目指すのかもしれない。ただ、もし野原一家に今後も世話になるのであれば、彼の被害者であるよしなが先生やかすかべ防衛隊のメンバー達との関係が気になる所。
彼のその後の身の振り方も含め、詳細が分からない点は多く、これまでの一部の劇場版キャラクター達のように再登場が期待される所である。



【余談】

  • 本作は原作26巻に収録されていた『しんちゃんのお話バトル!しんのすけ★ひまわりのエスパー兄妹』を基に作られた物語であり、そこに登場した超能力者サラリーマン(名前不明)が非理谷の元のキャラとなっている。
    このサラリーマンは、リストラという形で自分を社会から拒絶した日本企業に復讐するべく幾つものビルを破壊して回るというある意味では非理谷よりよっぽどヤバい悪事を働いていたものの、超能力を失うと共に無事正気に戻る。
    最終的に彼はひろしからのエールを受けつつ、不景気に負けずに職探しに力を入れるようになった。

  • 非理谷(ひりや)(みつる)」という名前は、スラングの「非リア充」をもじった物である。
    一見単なるネガティブなネーミングのように思えるが、下の名前の「(みつる)」だけなら明るいニュアンスの名前とも言える。
    そう考えると、しんのすけが彼のことを最後に「みつるくん」と呼ぶようになったのはどこか感慨深いものがある……という見方も出来るかもしれない。



追記・修正は大切な人と一緒に手巻き寿司を食べながらお願いします。

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最終更新:2023年08月17日 11:34

*1 その日の朝から晩まで何も口にしていなかったと言う程。依存的にひたすらアイドルに貢ぐために食費をギリギリまで削っていたのかもしれない。

*2 非理谷が推していたアイドルは、保育士アイドルグループの一員だったため。外見の雰囲気もよしなが先生に少し似ている。

*3 当初しんのすけは「ヘンタイのお兄さんとまた遊べる」という認識だった。流石に彼がひろしを逆恨みで攻撃し始めた時には怒っていたが。

*4 エンディングでは彼らがその場で協力して車のドアや窓やタイヤを直したことが明らかになっているので、実際には請求していないものと思われる。もっともひろしなら仮にその場で車を直せなくても、非理谷の生活が落ち着くまで修理費を気長に待つことを伝えて安心させただろうが。

*5 話の流れ的にこの“誰か”というのは家族だけでなく友達や仲間も含まれているようだ。