医療過誤事件について、専門的な解説がされているブログ記事を発見したので、紹介いたします。
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律が精神科医に付与した権限に基づいて、精神科医が患者さんに対して強制入院などを行ったときには、公権力の行使になるという指摘は実に興味深いものがあります。
ここで、公権力の行使という用語は、国家賠償法に規定する条文に由来しています。国家賠償法が適用されるか否かという観点では、公権力の行使か否かが問題になる一方、国公立病院か私立病院かということは問題にされません。
要するに、医療保護入院(同法33条)、応急入院(同法35条)に違法性、過失などがあって、損害が発生したときには、民法709条の規定に基づいて、精神病院を運営する法人に対して損害賠償を請求するのでなく、国家賠償法に基づいて国家に損害賠償を請求することができるということです。
また、医療保護入院、応急入院をしているとき、精神病院が患者さんに対して、違法な処遇を行い、損害が発生したときであっても、国家に損害賠償を請求することができる、ということになります。
違法性、過失、損害の発生として分かりやすいのは、精神病院に強制入院したところ、患者さんが死亡した、という事例でしょうね。特に精神病院に入院する直前は、健康であるのにもかかわらず、入院してから1か月とか、2か月で死亡したような事例です。
訴訟では、死亡したという事実だけでなく、精神病院の内部で何があったという事実を立証することが求められます。とはいっても、このような事例では、精神病院になにか過失があったのではないかな、と思いますよね。
ところで、向精神薬を大量に投与すると、副作用で死亡することがありますが、そのような事例は不法行為の典型例です。
5年、10年と長期に渡って向精神薬を投与したときには、向精神薬に対する耐性を生じます。これに伴って、向精神薬の投与量が増えることがあります。
一方、初めて精神病を発症したときには、まだ向精神薬に対する耐性はありません。このような患者さんに耐性がある患者さんと同様に大量の向精神薬を投与すると、突然死することがあります。
患者さんが亡くなったときには、患者さんは訴訟を起こすことができません。遺族が損害賠償請求権を相続します。
愛する家族が亡くなったときに、「なぜ亡くなったの」というような喪失感を医療機関に向けて訴訟に発展することがあります。
しかしながら、精神疾患で強制入院するような患者さんとなると、ご家族と円満な関係を構築しているとは限らないものがあります。このようなときには、遺族としても訴訟の提起まで思い至らないことがあると想定いたします。
現実の日本では、約30万人が精神病院に入院しています(文献1)。東京都内の精神病院では、死亡平均退院率は5.9%と公表されています(文献2)。
そうすると、日本全国では、毎年、1万8000人近くが精神病院で死亡しているということなります。
この人数は妥当なのでしょうかね。
これらの死者の一部は、精神病院で十分な待遇を受けていなかったからではないのかな。
文献
1.厚生労働省、第13回地域で安心して暮らせる精神保健福祉体制の実現に向けた検討会、令和4年6月9日、参考資料1
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000940708.pdf
アクセス日、2023年8月12日
2.滝山病院、際立つ高さ 精神科病院の死亡退院率、東京都が平均公表
土舘聡一 本多由佳、朝日新聞アピタル、2023年6月14日