2018年6月に起きた大阪府北部地震で、どのようなうわさが信じられたり広がったりしたのかを、東京大学とサーベイリサーチセンターが調査した。
SNSが情報源になっている現代、災害時に気を付けないといけないことの一つは「デマ」だ。この調査から、ライフラインや交通に関する誤った情報が信じられやすいことが判明。「断水」のデマは実に6割以上の人が信用した。
もっとも広まったデマは「京セラドーム屋根に亀裂」
東京大の関谷直也准教授(災害社会科学)らは2018年8月、大阪、京都、奈良、兵庫に住む20代以上の男女800人を対象に、インターネットで調査した。
最も広がったデマは「京セラドームの屋根に亀裂が入った」(18.8%が認知)というものだった。このほか、画像付きで広まった「シマウマが逃げた」(18.3%)といったデマや、「外国人が犯罪を引き起こす」(9.6%)という差別的なデマも拡散された。
6割以上の人が騙されていたデマも
こういったデマをすべての人が信じたわけではないが、断水や電車の脱線に関連したものは信じた人が多かった。「箕面市の全域で断水」というデマは、65.8%が「本当のことだと信じた」と答えている。
信じた人が多い「断水」「脱線」関連のうわさを知ったきっかけは、いずれも「Twitter」がトップ。つまり「Twitter」から入手した情報も信憑性をもって受けとめられている場合があると分かる。
また、ライフラインと交通に関するうわさは、伝達率も高く、4割近くが「そのまま伝えた」と答えた。
うわさは何をきっかけに知った?⇒トップはテレビ、Twitter
そもそも、こうした情報はなにをきっかけに手に入れるのか?
調査からは、情報源になった上位2つはテレビかTwitterからだったということが分かる。
また、Twitter、Facebook、LINEなどのSNS、インターネットから情報を得た場合を合計するとそれぞれ43.3~66.3%で、多くの情報をスマートフォンなどから得ている可能性が高いことが分かる。
ただし、これは「デマだと注意を呼び掛ける」という情報も含まれている。テレビで知った内容は「こういうデマが流れている」と注意を促すもの。Twitterでは、「デマに注意」というものもあるが、まことしやかなうわさとして流れる情報もある。
調査では、若い人の方がうわさを聞いた率が高かった。これは、SNSの利用によるもので、信じている率も若い人のほうが高いという結果が出た。
災害時のうわさはパターン化されている。慎重に判断を
大阪府北部地震だけでなく、大きな災害が出ると愉快犯的にデマを作る人が現れたり、うわさに乗せて差別的な内容が流されたりすることが今までもあった。
SNSでは容易に噂が広がっていく。2016年4月に、最大震度7を記録した熊本地震で、そうしたデマの被害を経験している熊本市の大西一史市長は、「真偽を確かめてから責任をもってツイートして下さい」と呼び掛けていた。
この調査をまとめた関谷准教授は、災害時のうわさ・流言を次のように分類している。
・震災後に、「何月何日に余震が来る」「次は〇〇で川の決壊が起きる」と、災害の再来を予知するもの
・断水している、停電があるなど、ライフラインに関する不確かな情報
・外国人窃盗団が来る、避難所でレイプが横行しているなど、犯罪に関する流言
・この災害は予知されていた、という「後予知」というもの
これは、インターネット社会になる前の阪神淡路大震災や、関東大震災でも似たようなパターンが流れたという。特に、東日本大震災では、「外国人の犯罪」についてのデマが顕著だったという。
関谷准教授は「近年、外国からくる人が増えていることなども背景にあるかもしれない。ただ、外国人に対するこうした流言は、直接ヘイトスピーチにもつながってくるため、注視している。関東大震災のときのような、外国人排斥や暴動につながるものがある」と話す。
また、なぜそうした流言が出てくるかについては「普段抱えている気持ち、直接は語られない心理や偏見を、うわさという形に乗せ『私が思っているのではないけど、こう思っている人がいる』として流す。Twitterでは、ネタ文化としてこのパターンとは外れた悪意あるデマを流す傾向もある」という。
「災害時の流言を分析することで、そうした世の心理の一端を知ることができる」と関谷准教授は語る。
災害時には否定もできず、もっともらしいうわさが流れてくる。個人では、不確かな情報は流さない、そして公的機関では、デマを打ち消す正しい情報発信をすることで、対策をとることが大事だという。
【UPDATE】
この調査をまとめられた、関谷直也准教授に伺ったお話を追記しました。