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対象400冊展示 後世に教訓
県立長野図書館(長野市)には、戦時中に国の検閲により閲覧が禁止された戦前戦中の書籍約400冊が保管され、来館者が手に取ることができる。これらは2015年に、館内で偶然発見された目録にまとめられていたものだ。検閲の記録は県内の複数の図書館で確認されており、「知る自由」を守る大切さを、今を生きる者に訴えかけてくる。
同館3階の一角にある本棚で六角形に仕切られた「信州情報探索ゾーン」。本棚には前身の「信濃図書館」時代に収蔵された百科事典や思想書などの古書が並び、戦時中に閲覧禁止とされた蔵書もある。多くは、国体護持に影響を与えるため、当時危険思想とされた社会主義やマルクス主義に関するものや、国家神道と対立するため弾圧されたキリスト教にまつわるものだ。
その中の「機械工学年鑑」では、日本の統治下にあった朝鮮や、日本のかいらい国家として中国東北部に建てられた満州国の発電計画を記したページが削除されるなど、細かい部分にまで検閲が行き届いていたことがうかがえる。ロシアの文豪・トルストイの作品も閲覧が禁止されていた。本を管理する同館職員の
戦前戦中の出版物が検閲下にあったことはよく知られるが、同館の閲覧禁止本の目録が明らかになったのは、戦後70年となる15年3月。地下の集密書架で調べ物をしていた槌賀さんが、長年開けられた形跡のない段ボール1箱の中から見つけた。
箱からは目録以外にも、最も重い処分である「発売頒布禁止(発禁)」の対象として警察から通報を受けた書籍などを記録する文書も見つかった。戦後に図書館が移転した事情もあり、忘れられていたこれらの文書。「とにかくすごいものが出てきた。資料としての価値が高いはずだ」。槌賀さんはそう直感した。
槌賀さんはこの文書を題材にした戦後70年の企画展を思い立ち、有識者の協力を得ながら研究に着手した。当時の内務省が検閲についてまとめた書籍と対照すると、国の命令からわずか2日後には同館に電話連絡があったことも分かった。「中央と地方であまり差がない、緊密な連絡体制だ」と槌賀さんは語る。
企画展は話題を呼んだが、「戦争の一断面を知ってほしい」と、同館はその後、検閲対象の書籍の展示を決めた。目録などの文書も同館のホームページ上で閲覧できるようにした。槌賀さんは「自由に本が発行され、図書館が自由に集める。今は当たり前だが、当たり前ではない時代があった。そのことを忘れないでほしい」と力を込める。
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県図書館協会前会長の宮下明彦さん(76)によると、戦前には県内に図書館は約20か所あり、現在、上田市立図書館、伊那市創造館(旧上伊那図書館)の2館にも検閲に関する記録が残されている。上田市立図書館の日誌には、警察官の来訪履歴など詳細な検閲の経緯が書き留められている。宮下さんが同館館長だった時に見つけたもので、「教科書に載っていたような言論弾圧が、地方でも起きていた」と驚いたという。
宮下さんは、自らが中心となり制作したオンラインの「信州地域史料アーカイブ」内の動画で検閲について解説し、県内の図書館職員らに研修で講義をする立場も担う。「色々なことを市民が知り、一人ひとりが判断する材料を提供するのが図書館の役割。知る自由を奪われた社会が、戦争に突き進んだ歴史を忘れてはいけない」