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〈京王線無差別刺傷〉9年交際した元カノが半年で結婚するとは…“黒髪坊主”で裁判に現れたジョーカー男が語った「事件の動機」

文春オンライン / 2023年8月13日 17時0分

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京王線内でのジョーカー姿(目撃者のツイッターより)

〈 「男にちやほやされるタイプ」20歳女性の胸を正面から包丁で…小田急線無差別刺傷 被告が裁判でつぶやいた言葉 〉から続く

 一昨年、走行中の電車内で立て続けに起こった2件の無差別刺傷事件について、今年6月から東京地裁と東京地裁立川支部でそれぞれ、裁判員裁判が行われていた。

 2021年8月、小田急小田原線の車両内で事件を起こしたのは対馬悠介被告(37)。刃渡り約20センチの包丁で当時20~52歳の乗客3人を襲い、殺害しようとした殺人未遂罪のほか、複数の万引きやその未遂をしたという窃盗罪などに問われていた。東京地裁の裁判員裁判で、中尾佳久裁判長は7月14日に懲役19年の判決を言い渡している(求刑懲役20年)。

 東京地裁立川支部では、2021年10月31日、ハロウィンの夜に京王線の車両内で乗客を刺し、車内に火をつけた服部恭太被告(26)の裁判員裁判。映画『バットマン』の悪役、ジョーカーに扮したスーツを身にまとい犯行に及んだ彼は、殺人未遂のほか現住建造物等放火などの罪に問われ、東京地裁立川支部(竹下雄裁判長)で7月31日に懲役23年の判決が言い渡された(求刑懲役25年)。

 住むところも年齢も異なるふたりの被告はそれぞれ事件前に「大量殺人」を目論んでいたという。(全2回の2回目/ 前編 から続く)

◆ ◆ ◆

対馬被告が起こした事件を知り、名古屋経由で上京

 服部恭太被告は2018年から勤めていたコールセンターのチャット窓口業務を2021年7月に辞め、同月末に「東京に行く」と家族に伝え、住んでいた福岡県から東に向かっていた。退職の意向を会社に伝えたのは6月。この翌日、サバイバルナイフを注文していた。彼は彼で、もともと大量殺人を目論んでいた。

 当初は「ハロウィン当日に、ごったがえしている渋谷で無差別に人を切りつけて殺害する」という計画だったが、滞在していた神戸で対馬被告の事件のニュースに触れ、計画を変更したと、東京地裁立川支部での被告人質問で明かした。

「犯行場所を電車の中にすることと、オイルを撒いて火を付けるという内容が影響を受けています」

 すぐに東京に向かわなかったのは、オリンピックの影響で「警備が厳しいかなと」思ったからだという。小田急線で対馬被告が起こした事件を知った服部被告は、名古屋を経由して上京。ライターオイルや殺虫スプレーを準備し、ジョーカーになり切るため、紫色のスーツやグリーンのシャツ、そして手袋も揃えた。

公判には黒髪の坊主頭で現れた

 公判では黒っぽいスーツに白いワイシャツ、黒髪の坊主頭でこうした詳細をよどみなく語る服部被告によれば、事件当日はジョーカースーツに身を包み、京王線調布駅から新宿行きの特急電車、後方車両に乗り込んだ。現在は千歳烏山にも停車する京王線特急は当時、調布駅から明大前まで止まらなかった。その間に乗客を先頭部分に追い込もうと考えていたという。優先席に荷物を下ろし、ナイフと殺虫スプレーを手に取り、近くにいた72歳男性を刺した。

 小田急線で対馬被告が起こした事件の記憶も新しい頃、逃げる乗客が車両連結部分に集まっていた。準備していたライターオイルを撒き、スーツから取り出したライターに火をつけた。ところがライターを床に投げる前に、自分の手袋に引火してしまったのだった。これで彼の計画は終わった。

「驚いた。びっくりした。正直、手が燃えると思ってなかったので驚いて呆然としてしまった。そこから、ようやく焦りが出てきて、オイルを撒いた方向にライターを投げました」(被告人質問での証言)

「その時点で計画が失敗に終わっていた」

 だが被告の手袋が燃えている間に、近くにいた乗客も遠ざかっていた。床の火から出ていた煙が喉に入る感覚を覚えた被告は「危険を感じて後ろに行った」(同前)という。

「その時点で計画が失敗に終わっていた。落ち込んでいたのもある。これ以上人に危害を加える気持ちは全く残っていませんでした」(同前)

 小田急線の対馬悠介被告は仕事を転々とする中、18時から朝5時まで続くパン工場のアルバイトに限界を感じ、生活保護へと至った。自分だけが「貧乏くじを引いている」と感じ、万引きも許されると考えるようになっていったというのだが、ジョーカーに扮した服部被告のほうは、自分が死刑になるために、犯行に及んだと明かした。

 服部被告は、女子にいじめられていると感じていた中学の頃と、高校卒業後に勤めた職場の女性らとの人間関係がうまくいかなかった頃、自殺を図った。自身が幼少期から抱いていた苦悩を、被告人質問でこう語る。

「小学校高学年頃から、クラスメイトとの関係が悪くなった。住んでいた家が古くゴキブリが出るような家で、ランドセルの中から虫が出てきたのがきっかけで、女子生徒は離れていった。男子とは、遊ぶ頻度が少なくなった」

9年付き合った元カノの結婚が引き金に

 女子とは距離はあったという服部被告には、中学時代から交際していた女性がいた。結婚を視野に入れ、両家の顔合わせなど準備を進めていたが、2020年11月、自身の誕生日に婚約破棄を告げられる。「他の人との付き合いがうまくいってなくて、彼女だけが信頼できる大きな存在だった。結婚すると思っていたのでそういった状況で別れることは、ショックが大きかった」と振り返る。その後、仕事でも自宅待機処分となった。

「チャット業務で同じ単語だけ繰り返し送ってくるお客様がいて、日本語が通じないのかと思って『日本人ですか?』と聞くとクレームが入ってトラブルになった」(被告人質問での証言)

 そんな2021年5月頃、何気なくLINEを開き、別れた彼女のプロフィールを見ると、苗字が変わっていた。メッセージ部分に「結婚しました」と書かれていた。

「9年間交際して、別れることを受け入れたつもりでした。どういう人生を歩もうがとやかく言うつもりはありませんでしたが、まさか半年で結婚するとはちょっとショック、驚きが大きかったですね。9年という月日、少なくとも自分にとっては長い期間だった。別れてたった半年で、結婚……。自分の存在価値が分からなくなり、生きている意味がないんじゃないか、死にたいと思うようになりました」(同前)

「死にたい」と思ったが、かつてのように自殺を図ることはしなかった。その代わり「死刑になりたい、そのために人を殺さないといけない」と思うようになったのだという。

日記によって大量殺人の“モチベーション”を維持

 事件まで、服部被告は日記のような記録を残している。

「そもそも殺人が悪いことだと分かっている。その気持ちを抱き続けるのは難しい。残す形にしてそれを見返すことで、殺人に対して興味を持たなければならない、そういう気持ちでした。もともと殺人をやりたいとも思っていない。あくまで目的は死ぬことで、そのために死刑を選んだ。そのために何をしないといけないかと考えると、殺人。その殺人に興味を持たないといけないんだと」

 大量殺人の“モチベーション”を維持するためのひとつが、日記だった。さらに、ジョーカーも被告なりの“モチベーション”維持の存在だったようだ。

「自分は殺人を犯さないといけないという思いがあった。より具体的にイメージできるキャラクターをたまたま見返したときに、ジョーカーというキャラクターを目標にすればいいんじゃないかと。神戸にいる間に映画を見返した」

 ジョーカーを目標にし、対馬被告の犯行を真似た服部被告に対して、判決は「自分勝手な理由で、多数の乗客の生命を狙った無差別的な犯行」と指摘し、万引きをきっかけに事件に至った対馬被告に対しても判決は「自身の怒りを抑えきれずに、無関係の他人に無差別に危害を加えるという身勝手な動機」と指摘している。

(高橋 ユキ)

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