漬物がステーキやケーキに 余り物、徹底活用術
漬物は全国各地でさまざまな料理に活用されている。今回は郷土の知恵に学び、実際に漬物を使って料理してみた。
岐阜の郷土料理「漬物ステーキ」
漬物がメーンになる料理を探したところ、岐阜県飛騨市に「漬物ステーキ」という郷土料理があると聞きつけた。早速、たくあんや奈良漬、すぐきなど漬物15種類をスーツケースに入れて、飛騨市にある割烹(かっぽう)「克己」の堀之内雄治さんに教えを請いに出かけた。
当地では「『漬けステ』と呼ばれ、どの家庭でも白菜漬けの余りを活用して食べている」(堀之内さん)という。作り方は簡単。少し多めの油を熱し、こんがりするまで漬物を焼く。コショウをふりかけ、たっぷりの溶き卵を入れれば完成だ。卵が塩味をマイルドにする。卵の代わりに甘めの「ほうば味噌」を焼いて合わせてもマッチする。
持ち込んだ漬物を見た堀之内さんは、奈良漬とワサビ漬け、ショウガ甘酢漬けを除く12種類を一気に雪平鍋に入れ始めた。少し発酵が進んで酸味が出てきた白菜漬けの食べ方である「にたくもじ」にするという。「くもじ」は漬物のこと。漬物の煮物だ。「昔からある料理。古くなった漬物を最後までおいしく食べようとの発想で生まれた」(飛騨市観光課の中村篤志さん)そうだ。
水から煮詰めて沸騰したら煮汁を捨てるのを2、3度繰り返す。最後にだしとしょうゆ、みりんで味付けし、煮ていく。家庭ではソバつゆでだしを代用するといいと教わる。煮込んでも漬物の歯応えがあり、じわっとうまみが出てくる。本来は白菜漬けを使うが、ゴボウや大根、ミブナ、すぐき、しば漬けなど何でも合うことは驚きで、ご飯が欲しくなった。
一気に余った漬物を消費できる上に「煮て数日たったころがおいしい」(堀之内さん)というように、常備菜にもなる。
東京に戻り、漬物の種類を17種類に増やして、自宅でも「にたくもじ」に挑戦。京王プラザホテル(東京都新宿区)の市川博史総料理長に持参し、味を見てもらった。「全体に発酵した漬物のうまみがなじみつつ、それぞれの特徴も残っている」と感想をもらう。
郷土料理の知恵は素晴らしいと実感した。気をよくして、味噌汁に高菜など菜っ葉系や大根の漬物を入れた。味噌は塩気の少ない白味噌が最も合うと感じた。
卵との組み合わせにも挑戦。ワサビ漬けもだし巻きに入れればさわやかな後味で、お弁当のおかずとして同僚からも好評だった。ショウガ甘酢漬けは細かく刻んで酸っぱいトマトに合わせると、トマトを甘く感じサラダ感覚で楽しめる。
アイスにちょい足し
浅漬けの大根やしょうゆ漬けの長芋、ゴボウなど味の薄いものは「天ぷらにするとおいしい」と京つけもの西利(京都市)の杉山栄一さんは話す。クッキングペーパーで水分をふき取ると粉も付きやすく揚げやすい。
奈良漬は味が濃い分、料理に活用しにくい。卵に次ぐ相性の良い食材を探していると、山形県鶴岡市の漬物店、本長が紹介するピザのレシピを見つけた。「チーズとはよく合う。野菜の食感もいい」(同店の本間伸さん)。バゲットを切って漬物とチーズをのせて焼けば、どの漬物でもおいしく楽しめた。
奈良漬はほんのり甘みもあるので、デザートにできないだろうか。デザート感覚のトマトの漬物ゼリー寄せを考案した、かめくら(京都府亀岡市)の西村貴之さんに相談した。奈良漬を少し煮て柔らかくし、パウンドケーキに入れてはどうかと助言をもらった。
日本酒と砂糖で煮てみた。すると塩味がまろやかになり、ケーキ生地に混ぜ込んで焼いても違和感なく楽しめた。奈良漬は少し苦手だという市川総料理長の口にもあったようだ。
さらに奈良漬のアイスクリームを商品化した四十萬谷本舗(金沢市)の四十萬谷正久さんに、コツを教えてもらう。アイスは乳脂肪が低めのものを用意、そこに分量の5%以下の漬物を刻んで混ぜるという。
市販のアイスで作ると、確かに乳脂肪が高い(15%)と甘さと塩味のバランスが悪い。乳脂肪は7%の方がおいしい。梅干しや味噌漬けも分量を少なくすれば、アイスに合うと感じた。
漬物について調べると、改めて野菜の種類や漬け方の多様さに驚いた。「20年前と比べると、白菜漬けの塩分は半分になっている」(全日本漬物協同組合連合会常任顧問の前田安彦さん)という。風味がいいのは袋を開けてから3日以内だ。
3週間、ほぼ毎日漬物を食べた。特段血圧に異常はない。一方、乳酸菌を多く含むすぐきやしば漬けのおかげか、お通じは良くなった。ここにあげた料理はほんの一例。これからも色々と作りたい。
(吉野真由美)
[日経プラスワン2013年10月5日付]