躁状態とうつ状態を繰り返すこの病気、じつは「うつ病」とは症状も発症のメカニズムも全く異なる病気だと考えられています。しかしながら、その正確な診断には時間がかかるなど、治療に際して多くの問題点があります。どうすればより良い診断・治療が行えるようになるのでしょうか。
話題の新刊『「心の病」の脳科学』(講談社ブルーバックス)の中から「双極性障害(躁うつ病)」について、ご紹介しましょう。
*本記事は『 「心の病」の脳科学 なぜ生じるのか、どうすれば治るのか』を一部再編集の上、紹介しています。
「うつ病」と「双極性障害」は全く別の病気
躁状態とうつ状態を繰り返す双極性障害(躁うつ病)は、100人に1人ほどの高い割合で発症する精神疾患です。
双極性障害の医療に関する大きな問題点は、正しく診断されるまで平均6〜9年と長い年月がかかることです。
双極性障害の多くはうつ状態から発症します。そのとき精神科を受診しても、 躁状態が現れない段階では、問診ではうつ病と診断するしかないからです。
双極性障害とうつ病は別の疾患です。
しかも、うつ病で処方される抗うつ薬(とくに三環系抗うつ薬)は、双極性障害の症状を悪化させてしまいます。双極性障害と正しく診断されて適切な治療を受ける前に、うつ状態や躁状態のときの行動で社会的な信用を失い人生を立て直すことが困難になるケースがあります。
再発を繰り返す人が多い理由
双極性障害は、正しく診断されれば、既存の治療法によって症状をある程度コントロールすることが可能です。ところが、治療を止めてしまい再発を繰り返す人が多いことも、大きな問題です。
なぜ、治療を続けない人が多いのでしょうか。一つには、ほかの精神疾患と同様に、発症原因が不明で客観的な診断法もないため、患者さんは病気を受け入れることが難しいこと。また、「この薬は、発症原因にこのように作用して症状を改善します」といった合理的な説明ができないことも原因でしょう。
双極性障害には、効果が高くても副作用が強い薬があり、診断や治療に十分納得できないため、治療を止めてしまう人もいらっしゃいます。
双極性障害の原因に関するさまざまな仮説
私が双極性障害の研究を始めたのは1989年です。
精神科の臨床医として出会った双極性障害の患者さんが、前日までとても苦しそうなうつ状態だったのに、一夜明けると躁に転じ、急におしゃべりになりました。このような明確な変化のある疾患の原因を、現代の科学技術で解明できないわけがないと思ったのです。