2020年09月13日

平成21年9月8日 名古屋地方裁判所刑事第4部 公電磁的記録不正作出,同供用/コモンヒルズ北山事件







平成21年9月8日 名古屋地方裁判所刑事第4部 公電磁的記録不正作出,同供用

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=38361








 「コモンヒルズ北山」事件

ってやつ。






虚偽の地積更正登記を実行したため、

現職の登記官を含めた関係者が逮捕された事件。




不動産登記業界では大問題のはずなんだけど、

Wikipediaにも記事がない。





さて、昨年はコモンヒルズ北山の地積更正登記に関連して、会員3名が逮捕されるという大変大きな事件が発生致しました。

岐阜県土地家屋調査士会会報第101号 (会長あいさつ・林千年)
http://www.gi-cho.com/_userdata/GP/101.pdf




そのため、

・事件の概要だとか、

・その後の経過だとか

が全然わからない。




この判決文にしても、

複数の土地の地積更正が問題になっているのに、

各土地間の位置関係に言及していないものだから、

 どの土地の面積を増やせば、

 どの土地の面積が減るのか

を説明してない。




問題の所在として

土地と土地との位置関係が最重要なのに、

此の判決文では全然分からん。




まぁ、この事件で問題になっているのは、

 登記官が職務権限を不正に行使して

 虚偽の登記手続をした

って行為なので、

担保権者等に発生した財産的損害はどうでもいい

と云えば、そうだけど。




この事件は、

宅地造成した団地が売れなかったのが、

そもそもの始まり。




これ?





所在地 岐阜市コモンヒルズ北山3671番21・他

全体区画概要 販売区画概要 (はる陽台 公式ホームページ)
http://haruhidai.com/about/





ほかに「コモンヒルズ北山」が見つからなかった。




つーか、

ずっと団地名だと思っていたのに、

字名だったのね・・・。





郵便番号・住所
〒 501-3117

岐阜県

岐阜市
ギフシ

コモンヒルズ北山
コモンヒルズキタヤマ

岐阜県 岐阜市 コモンヒルズ北山の郵便番号 (日本郵便)
https://www.post.japanpost.jp/cgi-zip/zipcode.php?pref=21&city=1212010&id=76513






開発許可番号/岐阜市指令都開第1号の25 (平成9年5月30日)・岐阜県指令建第71号(平成9年5月30日)

岐阜市ロケーション・はる陽台ロケーション (はる陽台 公式ホームページ)
http://haruhidai.com/about/

も、


 平成9年には、株式会社B1が申請した、岐阜市内における大規模な宅地造成開発が許可された


と一致するから、たぶんコレ。




しかし、


緑色部分

 地積更正完成記念キャンペーン

建築条件なし、特別価格の3区画

全体区画概要 販売区画概要 (はる陽台 公式ホームページ)
http://haruhidai.com/about/

って宣伝文句はどうだろうね。




「地積更正」が「完成」したから、

こんな事件になったわけで。




「記念」は自粛しようよ。














平成20年(わ)第2025号公電磁的記録不正作出、同供用被告事件




主文

被告人A1(表示登記専門官)を懲役2年6月に、

被告人A2(総務登記官)を懲役2年に処する。


被告人両名に対し、

この裁判確定の日から4年間

それぞれその刑の執行を猶予する。


訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。







理由



(罪となるべき事実)


 被告人A1は、

岐阜地方法務局表示登記専門官として、

被告人A2は、

同法務局総務登記官として、

いずれも、岐阜市A’町B’丁目C’番地所在の

同法務局登記部門に勤務し

不動産の表示の登記に関する事務

に従事していたものであるが、

同法務局首席登記官であった分離前の相被告人A3、

同法務局総括表示登記専門官であった同A4及び

不動産売買等を業とする株式会社B1の実質的経営者であり、

岐阜市E’地内等において分譲宅地等造成事業を行っていた

同A5との間で、

上記A5が実質的に支配し

真実の面積が約39平方メートルである

岐阜市F’G’丁目H’番I’の土地につき、

地積更正登記手続を利用して

同土地の土地登記上の面積を不正に拡大しようと企て、

上記A3ほか2名と共謀の上、

同法務局の事務処理を誤らせる目的で、

平成16年3月10日ころ、

同法務局において、

登記官の権限を濫用して、

同法務局内に設置されたホストコンピューター内に蔵置された

不動産登記ファイルに、

その端末機を使用し、

前記土地の面積が5万9253平方メートルである旨の

虚偽登記事項を記録した上、

そのころ、同所において、同ファイルを備え付け、

もって、登記官により作られるべき同法務局の事務処理の用に供する

権利、義務に関する電磁的記録である

不動産登記ファイルを不正に作った上、

これを同法務局の事務処理の用に供した。




(証拠の標目)


(括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。)
(証拠の標目は省略)




(争点に対する判断)


  1.  争点

     本件の争点は、

    • ①本件当時、

      岐阜市F'G'丁目H'番I'の土地

      (以下、「本件土地」という)

      の真実の面積が約39平方メートルであったか、


    • ②被告人両名は、

      本件当時、

      本件土地の地積更正登記手続の申請内容が、虚偽であることを知っていた

      (したがって、「事務を誤らせる目的」もあった)か、


    • ③被告人両名及び罪となるべき事実記載のその他の共犯者らは、

      本件について共謀したか


    の3点である。


    以下検討する。




  2.  証拠により認められる事実等


     関係証拠によれば、以下の事実が認められる。


    • (1) 平成8年7月16日に、

      岐阜市F’G’丁目H’番の土地

      (以下「H’番の土地」という)が南北に分筆され、

      北側の土地が同所H’番J

      (以下「H’番J'の土地」という。)となり、

      南側が本件土地となった。




      平成8年7月16日








      H’番J'







      本件土地






      当時、

      H’番の土地の

      西側は岐阜市の道路と隣接し、

      東側は同市の水路と隣接していたことから、

      分筆の際、岐阜市の職員も立ち会った上、

      東西の筆界が確認された。


      そして、

      H’番J’の土地と本件土地とを分ける

      境界線の基準となる地点に

      杭が設置された。



       平成9年には、

      株式会社B1が申請した、

      岐阜市内における大規模な宅地造成開発が許可されたが、

      H’番J’の土地は開発区域の内に、

      本件土地は開発区域の外に位置することとなり、

      H’番J’の土地と本件土地とを分ける境界線は、

      開発区域の内外を画するものともなった。




      平成9年








      H’番J'

      (開発区域内)








      本件土地

      (開発区域外)







       平成15年3月26日に、

      本件土地は更に南北に分筆され、

      本件土地の南側に同所H’番K’の土地ができた。


      その分筆の際には、

      本件土地と同所H’番K’の土地とを分ける

      境界線の基準となる地点に

      杭が設置された。




      平成15年3月26日








      H’番J'

      (開発区域内)








      本件土地
      (開発区域外)


      H’番K’
      (開発区域外)






       上記2度の分筆に際しては、

      土地家屋調査士らによって地積測量が行われた。



       いずれの測量も、

      光波測距儀という、

      角度や距離が測定可能な機器を使うなどして行われており、

      測量を行った土地家屋調査士らは、

      その測量結果は正確である旨述べている。


      平成15年の分筆の際には、

      その際創設された筆界以外の本件土地の筆界は、

      平成8年の分筆の際、

      現地で確認された筆界点として杭が設置された地点

      が基準にされた。


      そして、

      平成15年に行われた上記分筆に際し、

      本件土地の地積は、

      平成8年の分筆の際の求積結果も踏まえて

      39.6807355平方メートルと求積され、

      法令上の基準に従い

      39平方メートルとの登記がなされた。




    • (2) 岐阜市E’地内等で

      分譲宅地等造成事業を行っていた

      株式会社B1等の実質的経営者であったA5

      (以下「A5」という。)は、

      平成14年11月ころ、

      岐阜市E’L’番M’の土地

      (以下「L’番M’の土地」という。)につき、

      地積更正登記手続と地図訂正手続を利用して

      同土地の登記上及び地図上の面積を不正に拡大させようと考え、

      平成15年3月に

      A5が実質的に経営している株式会社B2

      (以下「B2」という。)を申請人とする

      地積更正登記申請を行った。


      その申請内容は、

      周辺土地の地積測量図と照らし合わせてみると、

      これらに整合しないものであって、

      L'番M'の土地の拡大により、

      周囲の土地の地積が縮小したり、

      一筆の土地が分断したりするものであった。


      また、

      担保権の設定されていないL’番M’の土地を拡大させるとともに、

      それにより、

      同土地付近にある根抵当権の設定された土地の地積が縮小する

      こととなるものでもあった。




    • (3) 平成15年3月、

      当時、岐阜地方法務局登記部門の総括表示登記専門官であったA6

      (以下「A6」という。)は、

      同人の異動に当たり、

      L’番M’の土地の上記地積更正登記申請の処理について、

      同法務局において、

      被告人両名を含む関係者を集め、

      引継ぎをした。


      その際、

      A6(前任総括表示登記専門官)は、

      その場にいた者らに対し、

      図面を示しながら上記申請の内容を説明し、

      既提出の周辺の土地の地積測量図と整合しないことなどから、

      却下事案であると説明した。







      ~H15.3


      H15.4~


      首席登記官





      A3


      総括表示登記専門官


      A6


      A4


      表示登記専門官





      A1


      総務登記官





      A2






    • (4) 被告人A1は、

      平成15年4月1日から

      岐阜地方法務局表示登記専門官を務めていた。


      当時、表示登記申請事件については、

      総括表示登記専門官のA4(以下「A4」という。)

      その部下である

      被告人A1(表示登記専門官)や

      同A2(総務登記官)らがその処理に当たっていたが、

      表示登記専門官は表示登記実務のトップであり、

      通常の表示登記申請事件は、

      同職にあった被告人A1(表示登記専門官)が校合して

      登記完了の処理をしていた。



       被告人A2は、

      平成15年4月1日から

      岐阜地方法務局総務登記官を務めており、

      被告人A1(表示登記専門官)の下で

      表示登記に関する調査や校合事務を行っていた。



       表示登記申請事件の中でも

      複雑困難なものについては、

      被告人A1(表示登記専門官)が、

      上司であるA4(総括表示登記専門官)、

      首席登記官のA3(以下「A3」という。)らに

      報告、相談して指示を仰ぎ、

      最終的には、

      A3(首席登記官)が判断し承認を与えるなどしていた。


      これらの役職の間には、

      職制上の上下関係があった。




    • (5) 平成15年5月上旬ころ、

      A5(不動産業者)から

      L’番M’の土地の地積更正登記申請を受託した

      土地家屋調査士のA7

      (以下「A7」という。)

      同登記申請の相談のために

      A5(不動産業者)と共に岐阜地方法務局を訪れた際、

      A5(不動産業者)は、

      登記官らに対し、時折強い口調で話をしており、

      A7(土地家屋調査士)には、

      へりくつをこねているように感じられることがあった。


      また、

      A5(不動産業者)の言動は、

      登記官らを困惑させるようなこともあった。


      L’番M’の土地については、

      平成15年5月21日、

      地積を

      2106平方メートルから6528平方メートルに

      拡大する地積更正登記がなされ、

      併せて、

      同土地に係る地図訂正がなされた。





      H15.5.21

      L’番M


      2106㎡

        

      6528㎡


      H15.6.27

      N’番


      33㎡

        

      35940㎡


      H15.7.31

      本件土地
      (H’番I’)

      39㎡

        

      562㎡


      H15.9.26

      N’番


      35940㎡

        

      62220㎡


      H16.3.10

      本件土地
      (H’番I’)

      562㎡

        

      59253㎡


      H16.3.10

      N’番


      62220㎡

        

      32㎡






    • (6) その後、B2

      (前記のとおりA5(不動産業者)が実質的に経営)

      を申請人とする

      以下の各地積更正登記等がなされた。



      1.  平成15年6月27日、

        岐阜市E’N’番の土地

        (以下「N’番の土地」という。)につき、

        地積を

        33平方メートルから3万5940平方メートル

        に増加させる地積更正登記がなされ、

        併せて、

        同土地に係る地図訂正がなされた。



      2.  平成15年7月31日、

        本件土地につき、

        地積を

        39平方メートルから562平方メートル

        に増加させる地積更正登記がなされ、

        併せて、

        同土地に係る地図訂正がなされた。



      3.  平成15年9月26日、

        N’番の土地につき、

        地積を

        3万5940平方メートルから6万2220平方メートル

        に増加させる地積更正登記がなされた。


        その後、

        同土地は、N’番O’とN’番P’の各土地に分筆され

        (以下、便宜上、両土地を併せて「N’番の土地」ともいう。)

        平成15年11月25日に

        N’番P’の土地につき、

        平成15年12月3日には

        N’番O’の土地につき、

        それぞれ処分禁止の仮処分が付されたが、

        本件土地には、担保権が設定されておらず、

        本件当時には、

        処分禁止の仮処分も付されていなかった。






      コメント


      「N’番の土地」と「本件土地」とが隣接していると思う。






    • (7) 平成16年3月10日、

      本件土地につき、

      判示の地積更正登記がなされた。


      また、同日、

      N’番の土地につき、

      地積を

      6万2220平方メートルから32平方メートル

      に縮小する地積更正登記がなされた。


      そして、

      上記各地積更正登記に併せて、

      同土地に係る各地図訂正がなされた。


      本件地積更正登記申請は、

      形式的には有限会社B3

      (以下「B3」という。)の申請となっているが、

      B3は、

      A5(不動産業者)が実質的に支配していた会社であり、

      上記申請は、

      実質的にはA5(不動産業者)が行ったものである。




    • (8) 上記一連の地積更正登記申請に当たり、

      法務局に相談に来ていたA5(不動産業者)の対応に

      主として当たっていた登記官は、

      被告人A1(表示登記専門官)であり、

      同A2(総務登記官)は、

      同A1(表示登記専門官)と共に

      A5(不動産業者)の対応に当たっていた。




     以上の事実が認められる。



     また、関係法令等によれば、

    地積更正登記

    (本件当時の不動産登記法(明治32年法律第24号)81条の5等)は、

    地積変更登記(同法81条)とは異なり、

    登記簿上の地積と

    現況(真実の地積)との間に齟齬がある場合、

    登記簿上の地積を訂正する制度であって、

    土地の筆界の移動を伴わないものであり、

    また、登記官は、

    地積更正登記を行うに当たり、

    申請内容の実質的審査権を有していると解される(同法50条。)





  3.  被告人A1(表示登記専門官)の

    検察官調書における供述


    • (1) 被告人A1(表示登記専門官)は、

      検察官調書において、次のとおり供述している。




      「平成15年3月、

      岐阜地方法務局において、

      被告人A2(総務登記官)を含む登記官らと共に、

      A4(総括表示登記専門官)の前任であった

      A6(前任総括表示登記専門官)から、

      懸案事項として、

      同月に

      A5(不動産業者)がB2の本人申請という形で行った

      L’番M’の土地の地積更正登記申請について

      の引継ぎを受けた。


      その際、

      A6(前任総括表示登記専門官)からは、


      「申請の内容は、

      筆界を何の根拠もなく勝手に移動させ、

      同土地を根抵当権が設定されている

      隣接地上にまで拡大させるものである。


      また、同土地は

      以前の分筆時に地積測量図が作成されており、

      筆界は確定している。


      このようなことなどから、

      申請は、許されない内容であるので、

      A5(不動産業者)が取り下げなければ

      却下していただきたい。」


      旨の説明を受けた。


      同申請の内容は、

      実地調査をするまでもなく、

      土地の実態に反した虚偽のものであること

      は明らかであったので、

      私(表示登記専門官)は、

      A5(不動産業者)が同申請を取り下げない場合は、

      これを厳に却下すべきであると考えたし、

      私(表示登記専門官)以外の登記官も

      そのように考えたはずである。


      そして、

      同年4月中旬から下旬ころ、

      A5(不動産業者)は、

      L’番M’の土地について

      同年3月の申請と

      ほぼ同内容の新たな申請をしようとした。


      私(表示登記専門官)は、

      被告人A2(総務登記官)らと共に

      A5(不動産業者)に直接対応し、

      A5(不動産業者)に、

      同年3月の申請を取り下げるなどするよう求めたが、

      A5(不動産業者)から、


      「おかしいけど、

      地図も街もきれいになるんや。


      測量図も合わせる。


      縄延びがあるから仕方がない。」


      と言われた。


      しかし、私(表示登記専門官)は、

      このA5(不動産業者)の発言内容から、

      同人(不動産業者)が内容虚偽であることを

      分かった上で申請をしようとしていることは間違いない

      と思い、


      「あんた(不動産業者)がおかしいゆうとるもん、

      こっちで処理できないでしょ。」


      などと言ったが、逆に


      「却下できるもんなら却下してみい。

      お前らより勉強しとるんや。」


      などと言われた。


      その後、同年5月上旬ころ、

      A5(不動産業者)は、

      L’番M’の土地の地積更正登記の件について、

      A7(土地家屋調査士)を帯同して

      岐阜地方法務局を訪れた。


      私(表示登記専門官)や

      被告人A2(総務登記官)を含めた登記官らが

      これに対応し、


      「結局は 筆界が動きますやん。

      それだけはできません。」


      「前の地積測量図を否定することになりますから

      無理ですよ。」


      などと言うと、

      A5(不動産業者)は、


      「分筆する前の土地の面積を測り間違えたんだ。

      だから、

      こうやって縄延びができるんだ。」


      「土地の所有者がいいと言えばそれでいいだろ。」


      などと述べ、

      論理的に立場が悪くなると

      声の大きさや態度で跳ね返すなどしていた。


      A3(首席登記官)ら上司は、

      このようなA5(不動産業者)の案件に関し、

      自らは決して矢面に立とうとせず、

      私(表示登記専門官)と

      被告人A2(総務登記官)に対応を任せるばかりで、

      問題を先送りにしたままであった。





      コメント


      そもそもの問題は、ココ。


      組織の「事なかれ主義」が

      現場の「無責任処理」につながったこと。






      私(表示登記専門官)は、

      このような上司の態度に対する憤りや、

      被告人A2(総務登記官)と共に応対する都度

      A5(不動産業者)から浴びせられる

      言われなき罵声に

      精神的に疲れ切ってしまった。


      このようなことから、

      私(表示登記専門官)は、

      今回に限り、

      A5(不動産業者)が申請しようとしている

      地積更正登記の内容が虚偽であっても、

      あえて目をつぶることを考えるようになった。


      虚偽であっても、

      形式的な書類が整っていて、

      うやむやのまま発覚しなければ、

      特に問題になることはないであろうし、

      万が一、この件が発覚しても、

      処理を誤ったとして言い訳をすれば、

      事なきを得るのではないかとも思ったからである。


      しかし、

      私(表示登記専門官)一人でこれを行えば、

      この件が露呈した場合、

      最終的に全ての責任が私(表示登記専門官)に集中することから、

      首席登記官など幹部登記官に

      当該申請の内容が虚偽であるものの、

      これを分かりつつ登記を完了したい旨申出をして、

      その了承を得ることにした。


      そこで、

      首席登記官のA3以下の登記官に集まってもらい、

      A5(不動産業者)の申請内容を説明した後、


      「あかんもんですけど、仕方ないと思います。」


      などと言って、

      A5(不動産業者)の上記申請の内容は虚偽であるものの、

      登記せざるを得ない旨述べたところ、

      A3(首席登記官)から了承を得た。


      この申請内容に基づく登記を完了させる際、

      私(表示登記専門官)は、

      被告人A2(総務登記官)に、


      「本当にやっていいのやなあ。」


      などと、

      内容虚偽の登記を完了しても本当によいのか

      という趣旨のことを言ったが、

      同人(総務登記官)は、


      「あかんて言ってないですもん。」


      などと述べた。


      A5(不動産業者)が、

      N’番の土地の1度目の地積更正登記申請の相談に来た際、

      私(表示登記専門官)や

      被告人A2(総務登記官)らで対応したが、

      同申請内容が筆界を根拠なく移動させるものであることから、


      「無理ですよ。」


      などと述べた。


      そして、

      私(表示登記専門官)と

      被告人A2(総務登記官)が

      この相談内容について

      A3(首席登記官)らに相談したところ、

      A3(首席登記官)は、


      「困ったですねえ。」、


      「形式的要件がそろっていたら仕方ないですね。」


      などと述べた。


      私(表示登記専門官)は、

       A3(首席登記官)が

        暗に内容が虚偽であっても登記を完了せざるを得ない

       と言っているのだ

      と分かったし、

      被告人A2(総務登記官)も

      同様に理解したはずである。


      N’番の土地の

      2度目の地積更正登記申請の相談に

      A5(不動産業者)が来た際、

      私(表示登記専門官)は、

      被告人A2(総務登記官)と対応に当たった。


      A5(不動産業者)が申請しようとする内容が

      筆界を根拠なく移動させる

      明らかに土地の実態に反した虚偽のものであったので、

      私(表示登記専門官)や

      被告人A2(総務登記官)は、


      「筆界は変わりません。

      無茶苦茶ですよ。」


      などと

      これを認めることはできない旨述べた。


      その後、

      私(表示登記専門官)は、

      被告人A2(総務登記官)に対し、


      「ここであかん言うても、

      これまでは、

      なんやったんや言うてくるわな。」


      などと、

      内容虚偽でも登記を完了するしかない旨言ったところ、

      同人(総務登記官)は、


      「そうですなあ。」


      などと言った。


      平成15年7月、

      A5(不動産業者)が、

      私(表示登記専門官)と被告人A2(総務登記官)らに、

      本件土地の1度目の地積更正登記申請をしたい

      と言ってきた際、

      同申請が、

      何の根拠もなく筆界を移動させる内容であったことから、

      私(表示登記専門官)は、


      「土地の形が急に変わるのはおかしいですよ。」


      と言い、

      被告人A2(総務登記官)は、


      「無理ですよ。

      おかしいですよ。」


      などと言って、

      申請は受け付けられない旨述べた。


      その後、

      A5(不動産業者)が実際に申請をした際、

      被告人A2(総務登記官)は、

      A5(不動産業者)の意向を

      A3(首席登記官)らに説明したが、

      誰が聞いても

      その内容が虚偽であることは明白であった。


      平成16年2月中旬ころ、

      A5(不動産業者)が、

      私(表示登記専門官)と被告人A2(総務登記官)に、

      本件地積更正登記申請等をしたい

      と言ってきた際、

      このときも、

      本件土地について、

      何の根拠もなく筆界を移動させて面積を拡大させる

      などの内容であったことから、

      被告人A2(総務登記官)は、


      「絶対に無理です。」


      などと答えたが、

      A5(不動産業者)からの内容虚偽の地積更正登記申請を却下した場合、

      これまでの内容虚偽の地積更正登記を完了した件については、

      後の審査請求の中で

      A5(不動産業者)の主張として出てきて

      露呈することは必至だった。


      そこで、

      本件地積更正登記申請への対応について、

      被告人A2(総務登記官)を含む

      表示登記部門の全登記官の間で協議をした。


      この協議において、

      私(表示登記専門官)は、

      • N’番の土地に処分禁止の仮処分命令が発せられたこと、

      • 本件土地所有権は、

        もともとA5(不動産業者)が実質的に経営するB2が有していたが、

        これが本件地積更正登記申請前に売買によりB3に移転されたこと、

      • 本件地積更正登記及びそれに対応する地図訂正を行うと、

        無担保の本件土地が、

        根抵当権が設定されている周囲の土地上に広がる結果となること

      などを説明した。


      もっとも、

      このころには、

      何度もA5(不動産業者)の意に沿うままに

      内容虚偽の登記を完了させており、

      協議をするといっても、

      最初から内容虚偽の登記を完了させることが

      登記官らの前提で、

      私(表示登記専門官)が、

      問題を提起しつつ、それをクリアする理論を募り、

      また、自ら説明、報告する

      いわば出来レースの場に過ぎないものだった。


      とにかく、法務局側としては、

      これまで内容虚偽の登記を繰り返していたので、

      この件が発覚して過去の件も全て発覚すれば、

      その責任は、首席登記官のみならず、

      局長まで及ぶはずであった。


      そのような事態だけは避けなければならないので、

      内々に内容虚偽であると分かりつつ、

      当該申請を受理して、

      内容虚偽の地積更正登記を

      完了させなければならなかった。


      そして、

      A3(首席登記官)から了承が得られたので、

      私(表示登記専門官)は、

      被告人A2(総務登記官)らと共に、

      形だけの実地調査を行った後、

      主に同人をして、

      本件登記手続を行わせた。」






    • (2) 被告人A1(表示登記専門官)の

      検察官調書における供述の信用性



      1.  被告人A1(表示登記専門官)の

        検察官調書における供述内容は、

        具体的であり、

        不自然・不合理な点はない上、

        前記2の事実等や関係者の供述ともよく整合している。


        また、

        被告人A1(表示登記専門官)は、

        平成16年2月に行われた

        登記官らの協議の内容等を記載した書面

        を作成している(乙14)ところ、

        上記書面には、


        「仮処分が入っている土地について

         地積更正出来るか」


        「現地実調して関係者の供述を得て判断する、

         すべて整っていれば処理せざるを得ないであろう。」


        「B2が増歩ならわかるがB3のではおかしいから」


        などの記載があり、

        被告人A1(表示登記専門官)の前記供述内容は、

        この書面の記載内容とも符合している。


        以上によれば、

        同供述の信用性は十分に高いということができる。




      2.  弁護人の主張


         被告人両名の各弁護人は、

        以下の点などを理由に、

        被告人A1(表示登記専門官)の

        検察官調書における供述には信用性がない旨

        主張するので、

        この点につき検討する。





        • (ア) 動機について



           被告人両名の各弁護人は、

          被告人A1(表示登記専門官)に

          内容虚偽の登記を完了するというような

          職務犯罪をする動機があるとしたら、

          A5(不動産業者)からの利益供与を受けることしかあり得ないところ、

          被告人A1(表示登記専門官)の

          検察官調書の供述における、

          平成15年に

          L’番M’の土地の内容虚偽の地積更正登記をした動機は、

          利益供与を動機としていないから、

          不自然である旨主張する。


          しかしながら、

          被告人A1(表示登記専門官)は、

          前記のとおり、

          A5(不動産業者)に対する対応等に疲れ切って、

          内容虚偽の登記をすることを考えるようになった旨述べており、

          この点はそれ自体理解可能なものである上、

          同被告人(表示登記専門官)は、

          その際、

          内容虚偽の登記をしたとしても、

          うやむやのまま発覚しなければ、

          特に問題になることはないであろうし、

          万が一、発覚しても、

          処理を誤ったとして言い訳すれば

          事なきを得るのではないか

          と思った旨も述べているのである。


          このような点も併せ考えれば、

          各弁護人主張の点をもって

          被告人A1(表示登記専門官)の

          検察官調書中の動機に関する供述が

          不自然とはいえない。



           また、

          被告人両名の各弁護人は、

          被告人A1(表示登記専門官)が検察官調書において、

          本件土地等の内容虚偽の各地積更正登記をした動機として、


          「申請を受理すれば、

           これまでの不正が露見しない。」


          旨述べている部分について、

          申請の受理と不正の露見との因果関係が不明確である、

          登記は一般に公開されているのであるから、

          虚偽の登記がなされた時点で不正は露見されるのであり、

          申請を受理することで不正が露見しないことは

          論理的にあり得ないなどとして、

          かかる動機の供述部分も不自然である旨主張する。


          しかしながら、

          被告人A1(表示登記専門官)は、

          この点について、

          申請を却下した場合には、

          それまで内容虚偽の地積更正登記を完了した件について、

          後の審査請求の中で

          A5(不動産業者)の主張として出てきて

          露呈することは必至であった旨述べているのであり、

          この点は、

          申請却下に対する審査請求の在り方等を前提として

          十分理解可能である。





          コメント


          逆に云えば、

          カネをもらわなければやらない

          ってほど、

          大きな葛藤でもなかった?






          そして、

          受理すれば

          少なくとも上記のような事態を避けられることは

          明らかである。


          また、

          確かに、登記は一般に公開されるものではあるが、

          地積更正の登記を閲覧するだけで

          閲覧者に直ちに虚偽であることが判明することにはならない。


          したがって、

          各弁護人の前記主張を踏まえても、

          被告人A1(表示登記専門官)の

          検察官調書における供述の信用性が揺らぐことにはならない。





        • (イ) 不動産表示登記実務の実情との関係について



           両被告人の各弁護人は、

          地積更正登記手続においては

          真実の筆界は移動しないという筆界論を、

          本件のような事案の認定に

          硬直的に用いるのは相当でないのであって、

          不動産表示登記実務上は、

          隣地所有者の承諾書等を有力な資料にして

          筆界の是正をすることができるのであり、

          また、

          地積更正登記の申請において、

          土地家屋調査士が申請代理人となっている場合は、

          申請内容自体の信頼も高いとされており、

          申請に際し、

          土地家屋調査士が作成した土地調書が添付されていることも

          有力な資料になるところ、

          本件の地積更正登記申請も、

          上記のような資料等が備わっていた、

          このようなことからして、

          被告人A1(表示登記専門官)は

          本件の申請内容が虚偽であることを

          容易に看破することはできなかったはずである、

          したがって、

          虚偽性を認識していたとする

          同被告人(表示登記専門官)の

          検察官調書の供述は不自然であって信用できない旨主張する。



           しかしながら、前記のとおり、

          登記官には、

          登記申請の内容についての実質的審査権があるのであり、

          隣地所有者の承諾書と土地家屋調査士作成の土地調書は、

          それらが添付されていれば必ず申請が認容処理される

          というような資料となるものではない。


          しかも、

          本件地積更正登記申請に係る

          土地家屋調査士作成の土地調書に記載されていた

          申請理由は、

          本件土地には合筆の経緯はないのに、


          「当該地は分合筆をかさねた結果

           現在の形となってしまいましたが

           再調査の結果以前の境界にもどすものです」


          というものになっているなど、

          ずさんなものであった

          (なお、「再調査」の内容についても具体的な記載がない。)。



           このようなことからすると、

          各弁護人の前記主張を踏まえても、

          被告人A1(表示登記専門官)の

          検察官調書における供述の信用性が揺らぐことにはならない。





    • (3) 被告人A1(表示登記専門官)の公判における供述



       被告人A1(表示登記専門官)は、

      公判において、


      「A5(不動産業者)が関わっている

      本件地積更正登記申請について、

      内容虚偽であるという認識は一切なかったし、

      虚偽かもしれないという認識も一切なかった。


      本件地積更正登記申請については、

      土地家屋調査士の調書と

      隣地所有者の承諾書の内容を判断したり、

      A3(首席登記官)以下の登記官らと

      協議を行うなどした結果、

      認容処理すべきと考え、

      申請を受理した。」


      旨供述している。



       しかしながら、

      前記2のとおり、

      A5(不動産業者)が関わった

      本件土地を含む一連の地積更正登記申請は、

      比較的短期間のうちに、

      地積の増減の程度も大きいものを、

      同一の土地に対して複数回繰り返している

      といった特異なものであったのに、

      本件地積更正登記申請の内容が虚偽かもしれない

      という認識が一切なかった

      と述べている点は

      いかにも不自然である。


      なお、

      被告人A1(表示登記専門官)の弁護人は、

      この点に関し、

      これら一連の地積更正登記申請は、

      大規模な宅地開発が行われている地域内の土地

      についての申請であるため、

      必ずしも不自然な内容ではない旨

      主張するが、

      大規模な宅地開発がなされている地域内の土地

      であるからといって、

      個々の一筆の土地における地積更正登記の際の

      地積の増減の程度が大きくなる

      などとは直ちにいえない上、

      前記のような

      一連の地積更正登記申請の特異性など

      も踏まえると、

      上記弁護人の主張は採用し難い。


      このようなことなどからして、

      被告人A1(表示登記専門官)の公判における供述は

      にわかに信用し難い。





      コメント


      「虚偽かもしれないという認識も一切なかった」

      ならば、

      なぜ首席登記官に相談したんだろうね。


      そもそも、

      「A6(前任総括表示登記専門官)から、

       懸案事項として、

       同月にA5(不動産業者)が

       B2の本人申請という形で行った

       L’番M’の土地の地積更正登記申請についての引継ぎを受けた。」

      のだから、

      A6を証人として呼べばよいのではないかと。






    • (4) 小括



       以上によれば、

      被告人A1(表示登記専門官)の

      検察官調書における供述が十分信用できる

      というべきである。






  4.  被告人A2(総務登記官)の供述



    • (1) 検察官調書における供述



       被告人A2(総務登記官)は、

      検察官調書において、

      本件登記内容の虚偽性について確定的に認識しており、

      そのような内容の登記をすることにつき、

      被告人A1(表示登記専門官)及び

      判示記載の共犯者らと共謀した旨供述しているところ、

      その供述内容は、

      前記2の事実等及び

      前記信用できる被告人A1(表示登記専門官)の

      検察官調書における供述等

      と整合し、

      不自然・不合理な点はなく、

      信用性は十分に高いということができる。





    • (2) 公判における供述



       被告人A2(総務登記官)は、

      公判では、


      「本件地積更正登記申請が

      内容虚偽であるという認識はなかった。


      土地家屋調査士が代理人となって

      申請してきていることから信頼を置いていたし、

      隣地所有者の承諾書が添付されていたことにより、

      隣地のトラブルがないと考えられたほか、

      上司と協議した結果、

      問題があると述べた者はいなかったからである。」


      旨供述している。





      コメント


      この「隣地」が「N’番の土地」を指しているならば、

      そこには「処分禁止の仮処分」がついていたわけで、

      地積更正で面積を減らしたら、

      「トラブルがないと考えられた」

      のは無理ではないかと。


      ほぼ間違いなく、債権者が怒るだろ。






       しかしながら、前記のとおり、

      A5(不動産業者)が関わった

      本件土地を含む一連の地積更正登記申請は、

      その内容が

      かなり特異なものであったにもかかわらず、

      被告人A2(総務登記官)が

      本件地積更正登記申請の内容が虚偽かもしれない

      という認識はなかった旨

      述べている点は不自然である。


      なお、

      本件地積更正登記によって

      本件土地の地積が大きく増加したことにつき、

      被告人A2(総務登記官)は、


      「岐阜市D’内の開発地域は、

      全体として縄延び部分が相当程度あった。


      同開発地域は

      北側から分筆・分譲されていったが、

      それらの部分についての縄延びは

      分筆において反映されておらず、

      分筆・分譲されていない本件土地に、

      同開発地域全体としての縄延びが集中する

      という状態になった。


      このようなことから、

      本件土地の地積が大きく増加したとしても

      不思議でない

      と考えた。」


      旨述べているが、

      他方で、


      「開発区域の土地の縄延びをある

      1筆の土地に集中させるというやり方は、

      原則論としてはあり得ない。」


      旨も述べているのであるから、

      前者の供述は説得力に欠ける。


      このようなことからして、

      被告人A2(総務登記官)の

      公判での

      本件地積更正登記申請の内容の虚偽性の認識を否定する

      供述内容は

      にわかに信用し難い。






    • (3) 小括



       以上によれば、

      被告人A2(総務登記官)の

      検察官調書における供述が十分信用できる

      というべきである。







  5.  各争点について



    • (1) 争点①について



       前記2(1)のとおり、

      本件土地の東西は、

      岐阜市の道路及び水路と隣接し、

      土地の形状等が、

      真実の筆界を把握する基準となり得る状況

      にあったものであり、

      平成8年の分筆の際には、

      岐阜市の職員も立ち会った上で、

      東西の隣接地との各筆界が確認され、

      その基準となる地点に杭が設置されるなどしている。



       また、

      本件土地の北側の筆界は平成8年に、

      南側の筆界は平成15年に、

      いずれも、分筆によって創設されたものであるから、

      その際の当事者の意思によって筆界とされたところが

      正に真実の筆界となるのであり

      (なお、

      上記当事者の意思に錯誤があった等の事情はうかがわれず、

      また、平成8年の分筆による筆界は、

      翌年、宅地造成開発許可の関係で、

      許可区域の内と外を画する境界線にもなっている。)


      現地には

      その基準となる地点に杭が設置されている。


      そして、平成15年の分筆時には、

      その際創設された筆界以外の筆界は、

      平成8年の分筆の際に確認されていた筆界点として

      杭が設置された地点がそのまま基準にされている

      (平成8年の分筆時に設置した杭の一部は、

      平成15年の分筆当時には滅失していたものの、

      残った杭等から、

      平成8年の分筆時の筆界点が確認されている。)



      以上によれば、

      本件当時の本件土地の四囲の真実の筆界は、

      平成15年の分筆の際に、

      現地で確認された筆界であったと認められる。


      そして、その筆界を基準に、

      土地家屋調査士らが正確な測量をした結果と

      平成8年の分筆時の求積結果

      を踏まえて求積したことが認められる

      約39平方メートルが

      本件土地の真実の面積であると認められる。





    • (2) 争点②、③について



       信用できる

      被告人両名の各検察官調書における供述及び

      前記認定事実等によれば、

      • 被告人両名は、

        本件当時、

        本件土地の地積更正登記手続の申請内容が

        虚偽であることを知っていた

        (したがって、「事務を誤らせる目的」もあった)こと(争点②)、

      • 被告人両名及び

        罪となるべき事実記載のその他の共犯者らが、

        本件について共謀したこと(争点③)

      が認められる。






(法令の適用)



罰条


公電磁的記録不正作出の点

被告人両名につき、刑法60条、161条の2第2項、1項


不正作出公電磁的記録供用の点

被告人両名につき、刑法60条、161条の2第3項、2項、1項


科刑上一罪の処理

被告人両名につき、刑法54条1項、10条(公電磁的記録不正作出と同供用との間には手段結果の関係があるので、1罪として犯情の重い不正作出公電磁的記録供用罪の刑で処断)


刑種の選択

被告人両名につき、懲役刑を選択


刑の執行猶予

被告人両名につき、刑法25条1項


訴訟費用の負担

被告人両名につき、刑事訴訟法181条1項本文、182条







(量刑の理由)



 本件は、

法務局表示登記専門官として

不動産の表示の登記に関する事務に従事していた

被告人A1(表示登記専門官)、及び

法務局総務登記官として

同事務に従事していた

被告人A2(総務登記官)が、

他の登記官ら及び

分譲宅地等造成事業等を行っていた判示

A5(不動産業者)と共謀の上、

同法務局の事務処理を誤らせる目的で、

登記官の権限を濫用して、

不動産登記ファイルに、

真実の面積が約39平方メートルである

本件土地の面積が

5万9253平方メートルである旨の

虚偽登記事項を記録した上、

同ファイルを備え付けた

という事案である。



 被告人両名を含む上記登記官らは、

本件以前に、

A5(不動産業者)からの

度重なる不正な意図に基づく内容虚偽の登記申請

を繰り返し受理してきたことから、

本件登記申請を却下した場合に、

審査請求等により

上記一連の不正な処理が発覚することを恐れるなどして、

本件に及んだものである。


このように、

動機は自己保身等を目的とするものであって、

酌量の余地に乏しい。



 土地の面積は、

取引等における基本的かつ重要な要素であり、

それが明らかにされている表示登記について、

その申請を適正に処理すべきことは

登記官にとって最重要の職責といわなければならない。


しかるに、本件は、

登記官らが組織ぐるみで

その職責に違背して敢行したものであり、

職務犯罪として強い非難に値する。



 また、本件は、

土地の面積を

実態の約1500倍のものとする

登記内容にしたものであり、

虚偽の程度も甚だしい。



 本件犯行は、

社会全体の不動産登記制度に対する信頼

を大きく損ねたものであり 、

社会的影響も大きい。


さらに、本件は、

これと連動した地図訂正と相まって、

隣接地の担保権設定者などの関係者にも

悪影響を及ぼしている。



 本件犯行は、

共犯者の中では身分なき共犯である

A5(不動産業者)が、

積極的に動いて、

被告人ら登記官に対し犯行を行わせた

という側面もある。


しかし、

被告人両名ら登記官の決断及び行為なしには

本件犯行は不可能であったのであり、

登記官側の責任は重い。



 被告人A1(表示登記専門官)は、

表示登記実務のトップである表示登記専門官として、

表示登記申請事件について

適切な処理をすべき職責を負っていた上、

本件を含むA5(不動産業者)の

一連の地積更正登記申請についての

直接の対応を任されていた。


また、登記官側で最初に本件につながる

A5(不動産業者)による

内容虚偽の地積更正登記申請を受理しようと考え、

他の登記官に発案したのも

被告人A1(表示登記専門官)である。


このように、

被告人A1(表示登記専門官)の共犯者中の立場、

果たした役割は

いずれも重要である。


また、被告人A1(表示登記専門官)は、

不合理な弁解に終始しており、

反省の情が十分にみられない。



 被告人A2(総務登記官)は、

総務登記官として、

上司である被告人A1(表示登記専門官)の下、

表示登記申請事件について

適切な処理をすべき職責を負っていたにとどまらず、

本件を含むA5(不動産業者)の

一連の地積更正登記申請についての対応に当たっていた。


このように、

被告人A2(総務登記官)の

共犯者中の立場、果たした役割も

いずれも相応に重要である。


また、被告人A2(総務登記官)も

不合理な弁解に終始しており、

反省の情が十分にみられない。



 以上によれば、

被告人両名の刑事責任は、

それぞれに重いというべきである。



 しかしながら、他方、

被告人A1(表示登記専門官)には、

本件で懲役刑の有罪判決を受ければ、

司法書士の資格が剥奪されること、

退職手当を返納させられる可能性もあること、

前科前歴がないことなどの

酌むべき事情が認められる。



 また、被告人A2(総務登記官)には、

本件で懲役刑の有罪判決を受ければ、

失職になり、退職金も支払われなくなること、

前科前歴がないことなどの

酌むべき事情が認められる。



 そこで、以上の情状を総合考慮し、

被告人両名に各主文の刑を科し、

今回については、

いずれもその刑の執行を猶予するのが相当と判断した。



(検察官齋智人、被告人A1(表示登記専門官)につき弁護人森川仁、同山本伊仁、被告人A2(総務登記官)につき弁護人渡辺伸二各出席)


(求刑 被告人A1(表示登記専門官)につき懲役3年、同A2(総務登記官)につき懲役2年)



平成21年9月8日

名古屋地方裁判所刑事第4部

裁判長裁判官 芦澤政治

裁判官 寺澤真由美

裁判官 三田健太郎











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posted by hatena at 05:00| カイロ 🌁| Comment(0) | 裁判例 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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