科学に背を向け、民意に反しても「反対」…利害闘争の代償を被災地に負わせる人たち
【後編】東電原発事故「風評問題」の本質- 原発事故「風評問題」の本質は?後半も深刻な発信源を検証
- 福島にとどまらない偏見差別、専門外の“識者”が語る「風評」
- 問題発言を繰り返す朝日記者、「利害」闘争の代償は誰が払う?
前編では、ALPS処理水を「汚染水」などと呼び反対し続ける人たちの言説を紹介・分析してきたが、筆者が問題に感じる“抵抗勢力”はまだまだいる。その中には過去の公害病と並び立て風評被害を広げる悪質なものもある。

偏見差別が福島にとどまらず…
東京駅にて。世も末としか思えぬ東京電力広告
こちらは2023年5月21日、『ぼそぼそ声のフェミニズム』(作品社)などの著書で知られる栗田隆子氏のツイッター発信だ(現在はアカウント削除)。
栗田氏は処理水に対し、これまで
以下のキャンペーンに賛同をお願いします!「日本政府、韓国政府、すべての国の政府: 福島原発事故10年、汚染水を海に流さないで! 原発もうやめよう!」
東電が「汚染水」と言わず「処理水」と書くのも処理したから大丈夫という印象を与えたいからではないか。
などの発信を繰り返してきた。
栗田氏が「世も末としか思えぬ」と断じた広告は、「ALPS処理水についてお伝えしたいこと」として、「放水地点から2~3km離れるとトリチウムの濃度は周辺の海水と同じになると評価しています」と記された、単なる科学的事実の周知に過ぎない。一方で、同氏のツイートには、栗田氏に賛同しつつ
生物濃縮を知らん低学力に、刃物と原発を渡すな!』
この論法でいくと水俣病は起きなかったはずですが・・。
それを摂取してしまう小魚や貝類に甲殻類!それを沢山食べる大きな魚!その大きな魚を食べる人間!水銀で思い知ったはずだが!水俣を忘れたのか?物質は違えど仕組みは・・
食物連鎖で悪影響が表れないか?の疑いをいったいどうやって晴らすのか
ならば放出2~3km沖で捕れた魚を東電社員に残さず全部食べてもらおうぜ
などと発信する誤解と偏見が無数に見受けられた。
しかし、引き合いに出されている当の水俣からは原発事故直後、
特に懸念しておりますのが、風評被害からの偏見や差別の問題です。水俣病の被害は命や健康を奪われることに止まらず、被害者を含め市民すべてが偏見や差別を受け、物が売れない、人が来ないなどの影響を受けたり、就職を断られる、婚約が解消されるなどの影響を受けたこともあります。言いようのない辛さであります。(中略)放射線は確かに怖いものです。しかし、事実に基づかない偏見差別、非難中傷は、人としてもっと怖く悲しい行動です。
という宮本勝彬市長(当時)からの緊急メッセージを発信されている(太字は編集部)。
水俣を引き合いに出した処理水の「汚染」呼ばわりは、水俣と福島の双方を最も侮辱した言説と言えるだろう。
栗田氏は前出の東電広報について「恐ろしいのはこれ、駅のものすごいいろんなところに掲げられてた宣伝なんだよね。こんな宣伝にかける金あるならもっと原発以外の電力開発とか廃炉とか賠償とかかけるべきお金はあるだろうに」と言うが、皮肉にも栗田氏の発信とそれに付いた反応こそが「未だ多くの人に正確な情報が伝わっていない」現実と「水俣で起こった差別が福島で再現されるリスクの高さ」、それを防ぐ活動の重要性を雄弁に物語る。栗田氏は、こうした偏見差別を放置すべきと考えるのだろうか。
なお、栗田氏が批判した大規模広報は、9月から12月のわずか3か月で有意な誤解払拭効果があったことが確認されている(参照:福島県サイト)。
専門外の“識者”が語る「風評」
福島大学食農学類の林薫平准教授は、処理水海洋放出に関する朝日新聞の取材に対し「国民主体で意思決定を」と訴える一方、「放射能の影響や処理水の海洋放出に不安を訴えたり、懸念を示したりすることを復興の流れに逆行するものとし、『復興を邪魔する風評だ』『風評をあおるな』などという巧みな言い回しが編み出されました。『風評加害』という言葉もあります。(中略)『風評』は反対を封じるための魔法の言葉になりました」となどと語る。
なお、「風評加害」とは「事実に反した流言蜚語を広めたり、明らかになっている知見を無視したり、すでに終わった議論を蒸し返したり、不適切な因果関係をほのめかす印象操作や不安の煽動などを繰り返して、正確な情報の伝達妨害や風評の既成事実化をはかる」「風評や偏見を意図的に拡散、あるいは温存させようとする試み」を指す。単に不安や懸念を示すことでは断じてない。
そもそも、林氏の「立場」は処理水やトリチウムの専門家ではない。しかも前述した信州大・茅野氏と同様、「合意形成できないのに進めようとするのは欺瞞」という論理を使う一方で、処理水には何ら健康リスクが無く安全であることへの積極的な言及が無い。朝日新聞は何故、他の専門家を差し置いてまで食農学類の准教授に処理水へのコメントを取りにいくのか。

「利害」闘争の代償は誰が払う?
朝日新聞は2021年9月にも「風評加害者って誰?汚染土利用に漂う不安な空気」と題した記事で「福島産であることを理由に買わないと、いつか「加害者」と呼ばれてしまうのか?いやな空気を感じた」などと、「風評加害」が指す本来の意味を捻じ曲げた。ありもしない「害」を言い立てる言説に騙された被害者を「加害者」であるかのように矢面に立たせ、それを隠れ蓑に「風評加害者」を免罪し、当事者からの抗議や反論を無力化させてきた手法と言えよう。
そもそも朝日新聞自身、これまで記者などの関係者が盛んに処理水への誤解を振りまいてきた「風評加害者」側だ。たとえば2019/11/19~2022/11/18にツイッター(現X)で「汚染水」をキーワードとして検索し、「汚染水が海洋放出される」かのようにツイートした認証アカウントの統計取られた統計を見ると、以下のような結果となっている(出典:晴耕雨読)。
これまで朝日新聞連載『プロメテウスの罠』に関わり、『地図から消される街』『いないことにされる私たち』など原発事故関連の著書を複数持つ朝日新聞の青木美希記者も、「汚染水が海洋放出される」かのような発信を繰り返してきた1人だ(参照記事)。
青木記者はこれまで、処理水放出を民意に反していると主張し、反対を正当化してきた。たとえば2021年4月21日にも『汚染水海洋放出 民意なき切り捨て@「いないことにされる私たち」青木美希氏×「災害からの命の守り方」森松明希子氏×福島出身の大学生@LIVE対談』などのイベントを行ってきた(参照記事)。
同記者は今年の8月8日にも『処理水をこの夏頃に海洋放出する政府方針に対する政府の説明については、「十分」が18%、「不十分」が72%(TBS)説明が不十分が7割です。岸田首相、まず説明を尽くしてはいかがでしょうか。』と発信している。
ところが、青木記者は自身が引用した同じTBS記事には「海洋放出する政府方針については、賛成が50%、反対が35%でした」と書いてあるにもかかわらず、決して触れようとしない。これでは「民意なき切り捨て」をしているのは青木記者側ではないのか。科学に背を向け、民意に反してでも「反対」を貫く青木記者には、いかなる「立場」があるのか。
繰り返しになるが、東電原発事故に伴う風評問題の本質は「正確な情報の不足」どころか「事実関係の是非」ですらない「利害関係」にある(参照拙稿:泥沼化した風評問題、3つの理由と教訓無き「対策」)。
この問題を正確に読み解くには、それぞれの背景にいかなる利害関係や「立場」があるかを問う視点が不可欠となっていると言えるだろう。
一方で、そうした「利害関係」を巡る闘争に巻き込まれ、その代償を受けるのは弱い立場にある被災地だ。科学や事実を正当に評価しない汚染無きものへの「汚染」呼ばわりは、いわば「いかなる成績を示そうとも性別、家柄、出身地、人種、病歴などを理由に正当に評価しない」に等しい。歴史を顧みても、こうした態度こそが無数の偏見差別をもたらしてきた。
こうした風評問題が何故起こり、何をもたらしてきたか。その本質を明らかにしなければ、たとえ処理水問題が沈静化しても、同様の構図は何度も繰り返されるだろう。
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