「電磁波の健康影響を考えるシンポジウム」

講演 宮田 幹夫さん(北里大学医学部名誉教授)

 コーディネーター 電磁波についてカリフォルニア州当局などでは、白血病以外の病気との関係も色々指摘されています。あるいは、電磁波過敏症に関しても色々な研究などがありますが、WGはせいぜい小児白血病だけにしか触れていません。このへんについて、臨床医として実際に患者さんを診ている宮田さんの方からお話しいただきたいと思います。よろしくお願いします。

(以下、宮田さん)

 よろしくお願いいたします。
 私はもともと、ネズミで研究する医者でしたので、多少最初そちらの方から入らさせていただきますが、ごくごく常識的な話しか出来ないかもしれません。




 電磁波にはこういうふうにいろいろありますが、体に吸収されたエネルギーがそのまま影響なく通るということは絶対にありえないです。吸収されたエネルギーは、何か反応します。たとえば、私たちは可視光線を使っていますけれども、可視光線が体にやさしいという保証は何も無くて、物が見えるということは、可視光線の光がたんぱく質に当たった時に、たんぱく質がくにゃっと変性します。その瞬間に電気が起こるから、見えるわけです。ですから、体に入ったエネルギーが、そのまま全く影響しないということはありえないわけです。その感光物質というものは比較的元に戻りますので、それでいつまでも見えるのですが、それでも、どんどん老化が進みますから、いつもこれを作り続けているというのが私たちの視細胞になります。
 こういうふうに、体にとってやさしい電磁波というのは全く無いと言っていいのではないかと私は思います。あるから利用しているだけです。だから、適度に可視光線も避けるべきだと思います。




 で、先ほどの荻野さんのお話にありましたVDT症候群、VDUとも言いますけれども、コンピュータで作業すると、こういうような不定愁訴がいっぱい出ます。こういう問題が出た時は、これを電磁波と結びつける人が非常に少なくて、なかなか面白くない思いをしました。作業姿勢が悪いからなので椅子や机を作り直すとかいう話の方がお決まりになってきましたが、これはとんでもない話でして、私は一番の問題は電磁波だろうと思っております。


電磁波による影響についての実験




 例えばこういういろいろな実験がたくさんあります。915MHzでネズミの脳の血液関門-脳に血液内の物質がそのまま通ると脳がおかしくなってしまいますので、血液関門によって脳に絶対に通らないようになっているわけです-それが広がってしまって、分子量約6万のアルブミンさえ通るようになる。たんぱく質がすいすい通れば、それと一緒に水もすいすい通り、頭が浮腫様になる。頭が浮腫を起こせば当然頭痛が出る。当然といえば当然なのです。
 で、こういうことがはっきりしてきますと、今度は普通の業者さんはすぐ考え出しまして、電磁波をかけると血液と脳の関門が広がるのだったら、そこに脳に入りにくい薬を微粒子にしてそのまま脳に叩き込むという、こういう怖い発想になってきます。まあ、なかなか私たちの知恵というのは猿知恵ですので、こんなものだと思いますが、電磁波の影響で脳には非常にいろいろな物が影響します。これが一つの証拠になります。




 それから、酸化的ストレスから体の老化や病気の原因が出てきますが、50Hzでもグルタチオンが減る。こういう、いろんな問題がいっぱいありますね。




 電磁波を浴びますと、アポトーシス-細胞の自然死ですね-これがどんどん増加する。携帯電話から発生する900MHzの電磁波でも、十分にこういうことになる。先程言った酸化的ストレスは、ビタミンEとかCで予防できる可能性もありますが、こういうアポトーシスがどんどん進むということは、電磁波が老化やいろいろなことを促進することを意味します。




 一番やっかいなのは、電磁波でカルシウム代謝が乱れることです。カルシウムは、体の中の
細胞のメッセージをいろいろ伝えるものですから、これが乱れると体の細胞の機能がいろいろ乱れてきます。これが他のいろいろなことにも影響します。
 また、NMDA受容器というものの問題が出ますけれども、また後でお話します。


神経、免疫系、内分泌への影響




 「神経」「免疫」「内分泌(ホルモン)」の3本柱によって、私たちの体の健康が保たれていますが、まず、神経の方から、ちょっとご覧いただきたいと思います。
 エピネフィリンとか、このあたりのものは、普通の60Hzの交流電磁波で-強さはわりと強いですが-影響が出ています。
 問題は、この神経系の反応というのは、曝露時期によって変動する場合があることです。ある時期には強い、ある時期は減るという場合があります。たまたま、その中間の移行期に測ってしまうと異常が出ないこともあるものですから、行政側の立場とか企業側の立場の人が影響の出ないところを一生懸命見つけて報告されると困るのですけれども。
 こういうモノアミンというものは、基本的な交感神経などに関係するものです。
 それから、GABA(ガンマーアミノブチリックアシッド)。これはどちらかというと、神経系の抑制、落ち着かせるほうの働きになりますが、こういうものにも影響する。
 それから、アセチルコリンという、非常に原始的な一番基本的な神経伝達物質ですが、これにも影響する。特に海馬ですね。海馬は記憶と情緒の中枢です。そこに影響してしまう。
 それから、セロトニン。これも私たちが実験をやりましたが、1993年ですから相当前になります。このときも海馬、そして自律神経の中枢の視床下部、こういうところのセロトニンが増加してくる。
 まあ、いろいろなところに影響が出るということは、間違いないと思います。





 それから、先程言いましたNMDA受容器というものがあります。これもやはり海馬の中にも特に多くて、やはり記憶など情緒に関係する非常に大事なところになりますが、このあたりのところで結構影響も出てまいります。
 また、普通の交流電流からの磁場は変動磁場ですけれども、静磁場でさえ、NMDA受容器サブユニット発現に修飾を加えて、細胞機能に影響をする。発生期の子供などにも影響するのではないかという問題が出てきます。


免疫系




 神経の次に免疫をご覧いただきますが、50Hzで皮膚や甲状腺のマスト細胞が増加します。マスト細胞からはヒスタミンが出て、アレルギーの時の一番の主役になります。ですから、これが甲状腺や皮膚に出ると、何が起こるかわからない。まあ、花粉症の方は、あまりパソコンを一生懸命にやらないほうが、花粉症が少しは治まるのではないかと思います。
 実際にパソコンの漏洩電磁波で、マスト細胞からのヒスタミン流出が増加する。間違いなしにアレルギーがひどくなるということです。
 それから、リンパ球でも核の濃縮が起きる。リンパ球に異常が出ると、これは当然免疫系にも影響してきます。
 それから、50Hzという普通の交流磁場でも2mT程度で、ナチュラルキラー細胞という、いわゆる悪いものなどを食い殺す白血球の活性が低下してしまう。
 それから、0.2~6.6μTの条件で毎日8時間・5年間勤務すると、免疫で重要な役割をするものの一つであるCD4とか、今言ったナチュラルキラー細胞も減少してしまうということです。電磁波の強いところで作業をしていると異常が出ますよ、という報告で、こういう悪い報告を探しますと、山のように出て参ります。


内分泌




 次に内分泌の問題に移ります。
 やはり50Hzのこの程度の曝露で甲状腺の細胞の配列異常と、T3、T4の機能が非常に大きく狂ってくるということです。
 900Hzの曝露でも血清の甲状腺ホルモンT3、T4、それからTSHというのは下垂体から出る甲状腺の刺激ホルモンで、これも低下してくる。
 それから、性ホルモンに関しましても、閉経後の女性で、ラジオ、テレビ、中継基地からの電波や60Hzで、エストロジェンの尿中の代謝産物が増加するということです。これが何を意味するのかわかりませんが、ホルモン系にも影響することは間違いないだろうということが言えると思います。
 それから、ラットに50Hzをこの程度曝露させますと、精嚢とか包皮腺--ネズミの場合はちょっと大きいのですけれども--その重量が減少して精子数が減少するということです。ラットで精子数が減少するというのは、はっきりしています。人体でも報告があります。血清の黄体ホルモンも増加するということです。男性も女性も影響を受けていますよということです。
 それから、900MHzに一日30分曝露でラットの睾丸の細胞配列への異常と精液のテストステロン減少が起こる。携帯電話を掛けている程度の時間の曝露でおかしくなってきますよということになります。


主な健康障害報告




 いろいろな健康障害が報告されておりますけれども、先程からお話がありました小児白血病の問題。それから、実験的にもかたつむりが早死にします。それから、脳腫瘍、先天奇形、乳がん、心拍数増加、不整脈、心筋梗塞、睡眠障害、痛覚低下。
 この痛覚低下といいますのは、電磁波をかけますと脳にエンドルフィンといいますか、モルヒネを使った時に出る代謝産物と同じようなものが出ますので、気持ちよくなるのですね。それで痛覚なんかも軽快するので、これを将来利用できないかというような猿知恵も発達してきていますけれども、まあ、やっかいなもんだと思います。MRIを撮られたことがある方もいらっしゃるかもしれませんけれども、頭のMRIを撮るためにドームの中に頭を突っ込むと非常に気持ちよくなります。なんか夢うつつのようなうちに30分ぐらい経ってしまいますけれども、あれは頭の中にモルヒネ作用のものが出るので、それで気持ちよくなるのだと思います。ですから、頭に影響しているので、ある程度そういうような問題が出るのは間違いないと思いますね。
 それから、一番問題がありますのは、パソコンの漏洩電磁波の問題がありますが、私たちが実験をやりますと、パソコンから出るのと同じくらいの電磁波が出るコイルの中にハツカネズミを半年置いておきますと水晶体が真っ白になってしまいまして、まあ、完全に白内障が起こりますよということです。眼科の医者はこれからどんどん流行って白内障をどんどん手術できる時代が来ているのではないかと思いますけれども。それから、ピント合わせが狂いますし、パソコンからの漏洩電磁波をあてますと、だいたい4時間ぐらいで角膜の表面にびらんが起こってきます。
 それから、アレルギー、花粉症。先程、マスト細胞からのヒスタミンが増えると言いましたが、そういう問題が出てまいります。
 それから、ケータイのマイクロ波も、非常に困った問題で、先程言いました脳腫瘍とか、こういう報告がいっぱいありますが、こういう時、疫学的な調査がきっちり揃うと最高ですが、なかなかそこまで進まないのですが、インドからの報告でも、携帯電話を一日4時間以上使っている人は活動性のある精子の数が大体1ml中に1千万ぐらいになってしまうということです。2千万以上ないと不妊になります。これから将来男性も全員不妊になりそうなので、私は学生が実習に来ると、いつも「産科を選べ」と言っていますね。婦人科より儲かるよと。産科の医者が減ってもいますので、そういうことを言っているのですけれども、もう本当にやっかいな時代になったものです。これから全員人工授精をやっていかないとダメな時期が来るのではないかと思います。
 血圧上昇、めまいなどの問題も出てまいりますね。


電磁波過敏症



 電磁波過敏症になっているという、そういうやっかいな人たちが出てまいります。やっかいというのは、生活に非常に苦しむ病気という意味です。
 化学物質過敏症という、非常に微量な化学物質に反応する方々が、電磁波過敏症にもなることが結構多い。電磁波過敏症から化学物質過敏症になる方もありますが、どちらかと言うと化学物質過敏症から移行する方が多い。




 電磁波過敏症の症状は、先程言ったVDT症候群の症状と非常に似ているのですね。頭痛、顔の刺す感じ、皮膚の灼熱感、発疹など、VDT症候群とほぼ似ていると思います。ですから、VDT症候群の健康被害を早く感じられる人が電磁波過敏だと私は考えているのですが、問題は「電磁波は怖い」という思い込みだけの方も多少受診に来られますので、その点がちょっと私もどうも手が出ないところがありまして、困っているのですが。




 なかなか認めてもらえないのですが、カリフォルニアの電話調査では3.2%が電磁波によるアレルギーや過敏反応を示しているということです。ストックホルムのは比較的正確な調査だと思うのですが、1.5%の人が電磁波過敏であると。スイスの調査でも5%が電磁波過敏だと言っておりますので、まあ、化学物質過敏症とだいたい同じくらいの人たちが電磁波過敏になっているのではないかと思います。




 電磁波と化学物質は、いろいろ似たところがありまして、例えば、電磁波をかけておいて、そして、ベンゼン化合物をやると、遺伝子毒性の発揮が強まる。お互いに健康の足を引っ張り合う。




 パルさんという人が、化学物質過敏症について一つの考え方を出したのですが、電磁波をこれに重ねますと、非常に説明しやすいところがあります。化学物質過敏症というのは、体内に入った化学物質が解毒されていくのが多少遅れたりしますと、酸化窒素からは過酸化亜硝酸が出来てしまう。過酸化亜硝酸が出来ると活性酸素が出来てきて、また過酸化亜硝酸が出来るという悪循環がどんどん出来るという形になってきます。そして、過酸化亜硝酸が出来ると、脳の毒物流入が促進される。解毒の遅延も起こるという形になります。電磁波に曝露されると、先程言ったように活性酸素が増える、毒物の脳内流入が増える、NMDA受容器のような神経の過敏反応が起こる。お互いに足を引っ張り合う。だから、化学物質過敏症の患者さんが電磁波過敏症になるのも、まあわかるかなという気がいたします。
 私も電磁波が悪いということにばっかり興味を持っていたのですが、非常に面白く思いましたのが、次です。


電磁波への対策



  電磁波対応ルームのヒトへの影響です。いわゆるダーティー・エンバイアロメントと言っていますが、今、私たちの環境は電磁波で非常に汚れていますので、電磁波防護の部屋に入れますと、ADHD(注意欠陥多動性)の子供たちの症状が改善されるということです。
 それから、喘息の症状が軽減する。これは当然ですね。ヒスタミンが減りますから。
 それから、多発性硬化症という、脳のわけのわからない病気があるのですが、これの震えとか、バランスの感覚も好転してくる。
 それから、子どもの行動が非常に活性化してきて、ぐたっとひっくり返っているような子どもが減ってくる。
 それから、糖尿病でも、タイプ1という子どもの頃からある糖尿病の場合には、インシュリンの使用量を減量ができる。タイプ2いう大人の糖尿病の場合も、血糖値が低下する。
 私たちの電磁波環境は、避けるに避けようがありません。私たちの病気がどこまでの電磁波の影響を受けているか、わからないです。私たちの体というのは、猿の時代まで進化してきて、それから、猿が人間になってこんなことになってしまったのですけれども、自然環境にはそれなりに適応して自然淘汰されていますので、対応が整っているわけです。ところが、人間が電磁波や化学物質を使い出してからのこの環境には、私たちの体はまだ対応し切れていませんので、いろいろな症状が出ると思います。それが今のこういう問題ではないかと思います。
 化学物質というのはだいたい、悪い作用を持っているものを実験でやりますと、ネズミ1年・人間100年の寿命ですので、ネズミで1年で出る時の症状は100分の1の量にしたほうが人間には安全である。しかも、その10分の1をとる、つまりネズミで何か症状が出た場合の1000分の1を安全データにするのが一般的には常識なのですが、電磁波に関しましては、およそそういう発想というのは全くありません。
 まあ、仕方がないので、ご自分で出来るだけ携帯電話は枕元から離しておいていただくとか、コンセントはこまめに抜いていただくとか、電子レンジのマイクロ波はできるだけ早く逃げていただくとか、こまめにやって、ご自分の健康管理をしていただきたいと思います。
 電磁波過敏症の患者さんは、一種の今の社会のカナリアといいますか、その人たちに合わせて暮らせば私たちは健康的な暮らしが送れると思います。まあ、それはなかなかそれは難しいかもしれませんけれども、困った環境に来ているのではないかと思います。
 以上で終わらせていただきます。

 コーディネーター 経済産業省のワーキンググループ(WG)の中では、しぶしぶ小児白血病だけは言及していますが、今の宮田さんのお話にありましたように、神経系、免疫系、内分泌系などにも全て影響するという説明が、具体的な研究報告も含めてあったのではないかと理解いたします。





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