なぜ多くの日本人は昔から、同調圧力が「好き」なのか…自由を「わがまま」や「自分勝手」ととらえ、厳しい校則で圧をかける教師もいる
集英社オンライン / 2023年8月9日 10時31分
日本社会に根強く存在する「同調圧力」という社会現象。この現状にさまざまな角度から光を当てて分析した『この国の同調圧力』(SB新書)より、同調圧力がいかにして日本人を縛っているかについて一部抜粋・再構成してお届けする。
同調圧力を無くすはずだった日本国憲法
1945年8月14日に、大日本帝国政府は連合国の降伏要求「ポツダム宣言」を受諾し(その事実を国民に伝える昭和天皇の録音演説、いわゆる「玉音放送」がラジオで流されたのは8月15日)、戦勝国による7年間の占領統治時代を経て、1952年4月28日に新たな価値観に基づく「日本国」として再スタートを切りました。
その「新たな価値観」とは、1946年11月3日に公布、1947年5月3日に施行された「日本国憲法」でした。大日本帝国時代の失敗を反省して作られたこの憲法の第十三条には、「すべて国民は、個人として尊重される」という文言が明記されました。
また、同調圧力という問題との関連で見ると、第十八条に「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない」、第十九条に「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」という文言があり、第二十一条には「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」、第三十一条には「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない」との内容が記されています。
これらを考えれば、戦後の日本は昭和期の大日本帝国に比べれば、同調圧力で国民の心理が圧迫される心配は大きく減少するはずでした。
しかし、そのようにはなりませんでした。
国民相互が自発的に統制し合うやり方が「好き」
二十一世紀に入った現在もなお、日本社会には多くの同調圧力が存在しており、近い将来にそれらが解消されるという見込みも、今の時点では立たないようです。
日本は敗戦後、帝国という全体主義から民主主義の国に変化したはずなのに、なぜか同調圧力で人々の精神的自由を圧迫する現象は、根強く残っている様子です。
時代が二十一世紀に入り、生活を取り巻くテクノロジーが大きく発展しても、同調圧力という「村の掟」のような精神的支配の枠組みが、いつまでも社会の中心部に居座っています。
なんでそんなことになるのでしょうか?
その理由を一言で説明するなら、日本人の多くは現在もなお、同調圧力という国民相互が自発的に統制し合うやり方が「好き」だから、ではないでしょうか。
同調圧力に伴う「マイナス面」よりも「プラス面」の方が大きいという考え
こう書くと、身も蓋もない話になってしまいますが、より丁寧に説明すると、日本人の多くは同調圧力に伴う「マイナス面」よりも、それが集団に及ぼす「プラス面」の方が大きいと考え、それを社会から無くすよりは、むしろあった方が、自分にとっても望ましいかも、と理解しているのではないか、ということです。
いや、私は同調圧力なんて全然「好き」ではないぞ、という方もおられるかとは思います。でも、「だから私は同調圧力を社会から無くすための戦いを日々続けている」という市民が、今の日本にどれだけいるでしょうか?
積極的に「好き」ではないけれども、消極的に「嫌いではない」という言い方なら、自分もその中に含まれるのかもしれないと感じる人は、今の日本社会で、意外と多いのではありませんか?
同調圧力が持つ二種類の社会的効果:特定行動の禁止と奨励
国民相互の自発的な統制という面から、同調圧力の「効能」を考えると、そこには「社会の秩序を安定させる効果」があることに気付きます。
秩序、というのは、そこにいるみんなが「和を乱す」ような態度をとることなく、ピラミッドやツリーのような形の「上下の序列」を形成して、下の者は上の者に従順に従うことで成立する、有機体のような状態を指す言葉あるいは概念です。
個人の自由や権利という観点から見るのではなく、国全体や共同体全体の平穏な維持という観点から、同調圧力のメリットを考えれば、それを使うことによって内部の秩序が保たれるという「効能」が、プラスの価値として認められます。
同調圧力という心理的な「道具」
みんなが確固とした自分の意見を持たず、全体あるいは指導部の意向に合わせて、同じ方向性の考えを抱いて行動すれば、あれこれと議論する手間が省けるので、効率的だ。
そんな風に思う人は、少なくないのではありませんか?
この一見もっともらしい考え方の危険性については、ここでは省きますが、日本の社会は昔も今も、欧米などの民主主義が発達した国と比較すると、社会の中での優先順位として、「個人の自由」よりも「全体の秩序」を上位に置く傾向が強いようです。中学生時代の経験も含め、私は今までに何度も、そんな気分を味わわされてきました。
自由という概念を「わがまま」や「自分勝手」のように曲解し、厳しい校則で制限して「校内の秩序を守る」という教師は、日本の学校では珍しくないはずです。
そして、集団や共同体の秩序を維持するために、さまざまな形で活用されてきたのが、同調圧力という心理的な「道具」でした。
文/山崎雅弘
『この国の同調圧力』(SB新書)
山崎雅弘
2023年7月6日
990円
264ページ
978-4815619206
私たちを縛る「見えない力」から自由になるヒント
日本はなぜ、
ここまで息苦しいのか?
日本人は、なぜこれほどまでに「同調圧力」に弱いのか? 私たちの心と行動から自由を奪う「見えない力」をさまざまな角度から分析し、その構造を読み解き、正体を浮かび上がらせる、現代人必読の書。
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