ジャニーズに「注意」 公取委の狙いは?
公正取引委員会がジャニーズ事務所(東京・港)を注意したことが明らかになった。「退所したSMAP元メンバー3人の番組起用を妨げるような働きかけがあった場合」は独占禁止法違反につながる恐れがあるという内容だ。調査の結果、同法違反を認定するだけの証拠は得られなかったものの、3人のテレビ出演が激減する現状を踏まえて警鐘を鳴らした。
公取委は元メンバーの稲垣吾郎さん、草彅剛さん、香取慎吾さんの3人への対応について、同事務所を調査していた。同事務所はホームページ上で「テレビ局に圧力などをかけた事実はない。今後は誤解を受けないように留意したい」とコメントした。
3人は現在、長年SMAPマネジャーを務めた女性が設立した新事務所に所属している。テレビ各局のレギュラー番組は相次ぎ終了し、CM以外の地上波テレビ番組で3人の姿を見る機会は大幅に減った。今も根強い人気を誇るだけに、ファンからは残念がる声も上がっていた。
芸能界では所属事務所とのトラブルがタレントらの活動に影響するケースが少なくない。NHK連続ドラマ出演で人気俳優となった、のんさんは事務所との契約問題を受けて「能年玲奈」から改名。一時期、表舞台から遠ざかった。アイドルや俳優だけでなく、歌手、お笑いタレントなど幅広い分野で、独立などのトラブルをきっかけに活躍の場を失うことが繰り返されてきた。
独禁法に基づく措置は3段階ある。違反を認定した場合には再発防止を求める行政処分として排除措置命令を出す。行政処分するだけの証拠が集まらなかったとしても違反の恐れがあれば、取りやめを求めて「警告」を発する。
ジャニーズ事務所が受けた「注意」はさらに弱い措置で「違反につながる恐れがあるケース」が対象になる。当事者に自浄を促すのが目的だ。
公取委はジャニーズがテレビ局に対し3人の起用を見送るよう圧力をかけた、とする情報を基に関係者からの聞き取りなど、調査を進めた。しかし、明確な独占禁止法違反を認定するに足る証拠は得られず、ジャニーズに対する措置は注意にとどまった。
公取委は1950~60年代にも松竹、東宝、東映など大手の映画製作・配給会社6社が他社の俳優らの出演作品を自社系列の映画館で上映しないとの協定を結んだとして問題視したことがある。協定は「スター俳優」の囲い込みが狙いだった。その後、一部の会社が協定から脱退し、他社も制限条項を削除したことから不問とした。
今回、改めて公取委が芸能界の問題に取り組んだ背景には、2018年2月に公取委の有識者会議が出した報告書がある。多様な働き方が広がっている実態を踏まえ、報告書は「フリーランスや芸能人、スポーツ選手も独禁法の保護対象になり得る」との立場を示し「不当な取引慣行は独禁法が禁じる『優越的地位の乱用』に当たる可能性がある」とした。
公取委は現在、幅広い労働分野について重点テーマとして情報収集を続けている。芸能界に限らず、スポーツ選手の移籍やフリーの技術者、アニメーターなどの契約のあり方が今後、調査の対象になることも予想される。