「不同意性交等罪」が夫婦間の性的DVにもたらす影響

「これまでの刑法でも、婚姻関係にあれば性犯罪が成立しないわけではありませんでした。でも、性暴力の多くは密室で行われるし証拠が残りにくいので立件がむずかしいのが特徴で、夫婦間の性暴力は特に立件のハードルが高かったのも事実です。

刑法が改まっても『同意がなかった』と立証していく困難さは変わりません。が、不本意な性行為を強いられている人たちに、それは性暴力なんだと知らせる効果はあるように思います。加害者への啓発も期待できるでしょう」

 

夫婦間の望まない性行為が、「性暴力」そして「性犯罪」だと認識されにくい背景には、いまだ根強い「夫婦とはセックスするものだ」という価値観があるのではないだろうか。

婚姻関係にある=包括的な性的同意がある、という考えは依然としてあると思います。あらかじめセックスをすることに同意している関係だ、ということですね。いまの若い世代には、夫婦なら求められたとき必ず応じなければならないという封建的な考えの人は少ないと思いますが、離婚事案の弁護士をしていると、中高年以上の世代にはまだあると感じます。

典型的な例では、自身の浮気を『妻が応じてくれなかったから』という理由で正当化する夫。夫婦ならセックスできて当然なのにできない、自分こそが被害者だ、と感じているようですね」

盗撮するケースも…妻を「所有」していると思い込む夫たち

こうなると、「夫からのセックスの求めに、妻は応じるものである」という価値観がどこから来るものなのかが気になってくる。

それはとりもなおさず、家父長制でしょう。妻のことを所有している、という意識の夫は少なくないと感じます。たとえば、妻を盗撮するとか……

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妻が家のなかで盗撮される、しかもその犯人は夫……とは何ごとだろう。

「驚きますよね。自宅のトイレやお風呂に隠しカメラを仕込んでおくんです。私が聞いただけでも数件ありますよ。妻を盗み撮るという行為自体に興奮しているのか、画像や動画を売っていたのかはわかりませんが、妻のショックは計り知れないものがあります」