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若者はあえて「ブラック企業」で働いてみるべき訳 「ビッグモーター」の不祥事を「資本論」で考える

東洋経済オンライン / 2023年8月8日 9時0分

いよいよ凄まじい世の中になりました。だからあえて言いたい。若者は、ブラック企業で働くべきだと。無論、これはブラック企業でも頑張って働いて根性を鍛えるべきだとか、何とか内部で改革を試みて企業体質を変えるべきだ、などと言いたいのではありません。そんなことを志すと身体か心、あるいはその両方が壊れます。

あくまで、いつでも辞められる身分で、文化人類学者のように観察するつもりでブラック企業に身を置いてみれば、資本主義の何たるかを最も明瞭に理解できるはずです。いくら理不尽な目に遭おうが、「いつでも辞められる」ならば、何も怖くはありません。ハラスメントや法令違反の命令については、しっかり証拠を残すために、仕事中は常時録音機を作動させておくとよいでしょう。

そして、もう一つの重要なメリットとして挙げられるのは、最初から「ブラック企業でいいや」と思っていれば、大学生が就職活動というつまらないゲームをしなくて済むことです。ブラック企業は大量退職を見越して大量採用しますから、就職するのは容易なはずです。私が早稲田大学に在籍していた当時、就活したくない学生がいまは亡き某大手消費者金融に電話を掛けて「採ってくれませんか」と言ったら、「なに? 早稲田? とりあえず採っておけ!」と話すのが受話器の向こうで聞こえた、という伝説がありました。

他方、いわゆるエリート予備軍を気取る「意識高い」若者は、「いい会社」に就職しようと願い、そうした会社のビジネスは「真っ当な」ものだと信じます。何という愚かしさでしょうか。資本主義社会には、不祥事をもみ消せないビッグモーターともみ消せるビッグモーターがあるだけなのに。そして、後者のビッグモーターは我が手を汚さないで済ませるために、「ブラック」な部分を前者にアウトソーシングすることができるだけなのに。

もちろん「あえてブラック企業で働く」を実行するには、「いつでも辞める」ことができる余裕がなければならないでしょう。ですが、余裕のある者が先頭に立って正確な社会認識を持つこと、これが世の中を変えるためのはじめの一歩を刻むことになるのです。

白井 聡:政治学者、京都精華大学教員

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