グノーシス主義の哲学思想における三つの特徴とは?二元論と反宇宙論と主知主義の思想、グノーシス主義とは何か?②
前回書いたように、グノーシス主義(gnosticism)とは、紀元後1世紀頃の地中海世界の東側において成立し、
その後、初期キリスト教や、中期プラトニズムの影響を受けながら地中海世界全体へと発展していった哲学的な宗教思想のことを指す言葉であり、
グノーシス主義におけるグノーシスという言葉とは、もともと古代ギリシア語で「知識」や「認識」のことを意味しています。
そして、これから述べるように、
こうしたグノーシス主義における哲学的な思想の特徴としては、主知主義と善と悪の二元論、そして反宇宙論という三つの特徴が挙げられると考えられることになるのです。
グノーシス主義における主知主義の思想
まず、前回書いたように、
グノーシスとは、より具体的には、自分自身の魂と宇宙全体の真理を探究することによって得られる神秘的な知識や認識のあり方のことを意味していて、
グノーシス主義においては、こうした真理についての知識や認識を得ることによって、直接的に自分自身の魂の救済が得られるとされることになります。
つまり、
魂と宇宙について真理を把握することによって、人間の生における究極の目的であり最高善である魂の救済が得られるとされている点において、
グノーシス主義は、道徳の実践や行動よりも、真理に関する知識と認識自体に重きを置く主知主義に分類される思想であると考えられることになるのです。
物質と精神の区別に基づく極端な善と悪の二元論
それでは、グノーシス主義において真理とされる知識や認識のあり方とは、具体的にどのようなものであるのか?ということですが、
それは一言でいうと、人間自身の存在も含めた宇宙全体が物質と精神という二つの相反する原理によって形づくられているとする徹底された二元論において世界全体を把握する認識のあり方ということになります。
そして、
肉体がもたらす欲望が人間を悪しき道へと引き込む悪しき存在であるのに対して、精神における知性の働きは人間を正しき道へと引き戻して真理へと導く善き存在であると捉えられるように、
宇宙全体においても、物質的存在は滅びへと通じる悪しき存在であり、物質を超越した存在である魂やイデア(観念)といった精神的存在こそが永遠にして善なる存在として重視されることになります。
このように、グノーシス主義においては、
物質と精神という根源的な区別に基づいて、物質や肉体といった物質的存在を悪として、魂やイデアといった精神的存在を善とする徹底的な善と悪の二元論の思想が展開されていくことになるのです。
現実の世界を悪しき宇宙として否定する反宇宙論の思想
そして、こうした物質を悪として精神を善とする極端な二元論の思想に基づくと、
物質的存在から成っている現実の世界は、悪の原理である物質によって支配されている悪しき宇宙であるとして否定されていくことになります。
グノーシス主義においても、すべての存在を生み出した大本にある神は至高にして至善なる存在であり、
原初においては、そうした至高で至善の存在である神から生み出された魂やイデアといった精神的存在のみから成る善なる宇宙が存在していたとされることになるのですが、
そうした精神的存在から成る原初の善なる宇宙の後に創り出された現在の世界は物質的存在から成る悪しき宇宙であり、
そうした根源的には悪しき存在である物質から成る現実の世界を悪しき宇宙として否定し、そこからの魂の解脱に救いを求める反宇宙論の思想が説かれていくことになるのです。
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以上のように、
グノーシス主義における哲学的思想の特徴は、
魂と宇宙について真理を把握することによって魂の救済が得られると考え、道徳の実践や行動よりも真理に関する知識と認識自体に重きを置く主知主義の思想、
物質と精神という根源的な区別に基づいて、物質や肉体といった物質的存在を悪として、魂やイデアといった精神的存在を善とする善と悪の二元論、
そして、このような二元論的世界観に基づいて、物質的存在から成る現実の世界を悪しき宇宙として否定するという意味での反宇宙論の思想
という三つの点において、その主要な特徴があると考えられることになるのです。
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次回記事:グノーシス主義におけるアイオーン(至高神)とデミウルゴス(造物主)の 関係とは?グノーシス主義とは何か?③
前回記事:グノーシス主義とは何か?①グノーシスという言葉の意味と魂と宇宙に関する神秘的認識