少し前にはてなブックマーク(はてブ)のガイドラインが公開された。
はてなブックマークガイドライン
そのブックマークコメント(ブコメ)で、好意的な意見も多かった一方、反発するコメントも2~3割ほどあった。この内容でそんなこと言うんだ、と少々ドン引きした。「コアなファンがジャンルを殺す」話の一バリエーションのような気もした。
それから、はてブはキュレーションを何とか「みんなの手で」に留めたい、そういうカウンターとして何とか抗ってる感じなのかなとも思った。
「はてブが」というより、あるサービスやコミュニティの盛衰とその抵抗のプロセスの実例を見るようで興味深く、その辺のメモ。
経緯
- はてなブックマークは2005年開始の国産ソーシャルブックマークサービス。
- 参考になった/後で読み返したいウェブ上のコンテンツのURLを保存でき、タグ付けして検索したりメモ(コメント)を残せる。
- ブックマークの多い「人気記事」が一覧化され(ホットエントリ)、参考になる・興味深い記事やコンテンツを(ユーザー登録していない人も)見つけられる。
- 「人気記事の一覧」に載るとPVが増えるため、アフィリエイトサイトが作為的に一覧に入ろうとするトラブルも発生し、過去に対策が取られた。
- コメントも一覧で見られる。
- 当初はコメントの有無にかかわらずブックマークしたユーザーが一覧表示されていたが、コメントをしていない人が一覧から非表示になったり、人気(スター)を集めたコメントが「人気コメント」として別枠で表示されるようになった。
- このことで本来の「参考になる・興味深いコンテンツ」にブックマークする目的から逸脱し、スター集めが目的化したり、コメントしやすいコンテンツ(ニュース記事やトラブル、否定したくなる内容)にブックマークが集中したり、コンテンツ自体を見ずにタイトルやコメントのみを見てコメントをしたり、コメント欄での議論が目的化するなどの転倒が起こった。
- これに対して過去にも「建設的コメント順位付けモデル」(Yahoo!ニュース コメントと同様のもの)が導入されるなどの対応が取られていた。
はてなブックマークの3つの性質
- 既に下記ブログで「はてなブックマークは『ブックマーク』と『ミニブログ(SNS)』と『記事コメントサービス』の3つの性質を併せ持つ」と整理されて納得感が高かった。
- はてなブックマークガイドライン公開について - orangestar2
- この3種はコメントの対象で言えば、自分自身(備忘録)、コミュニティの他メンバー(ブクマカ同士の交流)、記事作成者の3つになる。
- ここでは「利用目的」から3つに再分類する。
- 【①オンラインブックマーク】ブラウザのブックマーク機能をウェブ上で利用するもの。 ※先の3分類の『ブックマーク』が該当
- 【②ソーシャルブックマーク】みんなが「面白い」「参考になる」と思ったウェブコンテンツを他の人にも共有するもの。①の情報を集約することで実現される。 ※先の3分類の『記事コメントサービス』の一部が該当
- 【③電子掲示板】ウェブコンテンツに対して思ったことを好き勝手に言う場。それをタネにしたコミュニティメンバー同士のやり取り。 ※先の3分類のうち『ミニブログ(SNS)』と『記事コメントサービス』の2つが含まれる
- この3分類は、受益者の観点だと、①→ブックマーカー個人、②→参照ユーザーを含む全体、③→閉じたコミュニティのメンバー、となる。
ガイドラインとヘビーユーザーの方向性の違い
- ガイドラインはこのうち、②ソーシャルブックマークの方向性を重視したものに見えた。
- 一方で否定・反発するブコメは③電子掲示板の機能を重視しているようだった。
- ②を目指せば③は抑制される方向になるので、こうした反発が生まれるのだろうと思った。
- 受益者で言えば、運営側は参照ユーザーを、ヘビーユーザー(とさしあたり呼ぶ)はコミュニティメンバーを重視している。
自分自身の利用状況
- 私個人のはてブの使い方について。(はてなのサービス自体は2004年から利用していたが、はてブは今見たら2007年から利用していた。リリース当初から使っていたわけではなかったらしい。)
- 【①オンラインブックマーク】自分用の機能としてずっと利用していた。
- 【②ソーシャルブックマーク】以前は興味深い記事やコンテンツがホットエントリに並んでいて(IT技術にやや偏重していたが)よく見ていた。
- 【③電子掲示板】この目的では利用していない。
ガイドラインが目指す②ソーシャルブックマーク
- ガイドラインから②ソーシャルブックマークサービスを目指していると感じられる箇所について。
- 「はてブの目指す場所」5項目は①②③の各機能に言及がある。
- 3項目「新たな発見、情報への理解や洞察、他者の視点を得られる」は②に相当
- 「自分の情報収集や思索を取り出せる」は①オンラインブックマーク
- 「意見の発信・フィードバック」は③電子掲示板
- 5項目中3項目が②で、かつ全体の最初に置かれている点でも、相対的には①や③より②を重視しているように見える(が、①や③を無視しているわけでもない)
- 「アルゴリズムによる掲載順位の調整」は、評価基準を複線化して作為性や偏向をなるべく除去することで、「多くの方にとって有益な投稿がより多くのユーザーの目に触れることを目指」すと方向性が語られている。
- 「建設的な情報」5項目が「他のユーザーに対して、何らかの前向きな影響を与える情報」と定義される。①の自分向け、③の閉じたコミュニティメンバー向けではなく、②に向けたものを優先すると明言されている。
- 「建設的でない情報」に「内輪受けに類する表現、記事と無関係なコメント」が挙げられていて、これも③では多用されても②では否定される。
- 「記事本文を読まず、タイトルやブックマークコメントだけを見て先入観に基づくコメントを述べる」行為を控えるよう呼びかけている。①や③であれば許容されるが、②では許容されない行為だと理解できる。
- 「コメント欄での議論」は非推奨、「短文での投稿に適さない用途においては、はてなブログなど別のサービスの利用」推奨は、明確に③の場ではないと言っている。
- コメントの文字数制限を緩和しない方針も、主たるコンテンツは元の記事などのウェブコンテンツであって、ブックマークコメントではない、ということだろうと思う。
- コメントは美術館の絵の脇にある簡潔な解説で、絵がメインコンテンツだから、関係ないことをそこで言い合うのはよしてね、表現がしたければ自分で別に絵を描いてね、ということだと理解している。
- ※あと「他者の尊厳を損ね、配慮に欠ける表現」「いたずらに侮蔑的・冷笑的な内容、ユーモアの域を超えた皮肉やマウンティングの要素を含むコメント」を控えるよう求めていて、これはもう①②③関係なく、極基本的・最低限の言論公表者の責任であって、幼稚園の先生に言われているようだとは思った。あまりに目に余るので言わざるを得なくなっている。
ブコメの反応
- [B! はてな] はてなブックマークガイドライン
- ガイドラインに対するブコメ全体では①②③各立場からのコメントが見られた。
- 【①オンラインブックマーク】機能強化(タグや検索)を求めるコメントもいくつかあった。
- 個人的にも②に相反しなければやってほしい気もする一方、「開発の優先順位が低い」と言われれば仕方がない気もする。
- 【②ソーシャルブックマーク】ガイドラインの方針に納得するコメントも多く、大勢を占めていた。
- 【③電子掲示板】閉じたコミュニティの居心地を損なう点に反発したり、②の方針の有効性に懐疑的・冷笑的なコメントもそこそこ(2~3割くらい?)見られた。
ヘビーユーザーが求める③電子掲示板
- 以下は③目的での反発ブコメを類型化したもの。
- 大喜利、冗談を許容しろ:②目的だと不要でも(絵の横の解説に必要とは思われない)、③にとっては楽しいから「奪わないで」と言うもの。
- 議論する場になるのは仕方がない:③としての現状肯定。
- 検閲だ、率直な意見がなくなる:③の現状肯定。
- 記事を読まずにコメントしてもいい:これも②の否定、③の肯定
- 文字数の少ないコメントも建設的だ:ガイドラインには「少文字数コメントは非建設的」とは書かれていないが、文字数が少ないと人気コメントに選ばれづらい現状のアルゴリズムへの文句。
- ※文字列の長短は建設的かどうかに関係ないのは確かでも、②で紹介・解説としてそれなりに長いものが優遇されるのも違和感がない気もする。③の立場からはそこで優劣つけるな、という言い方になりそう。
- 綺麗・健全・正しい場を目指すな:「ブクマカは/はてブは/インターネットはそういうもん」と冷笑的な態度で③の現状を肯定するもの。
出禁ギリ手前
- 最近、マクドナルドのある店舗が特定の中学校の生徒をまるごと出禁にしてニュースになった。
- ブクマでもホットエントリに入り、店舗側の措置に肯定的な意見が大半だったと記憶している。
- ②を目指すガイドラインに③目的で反発するユーザーを見て、このニュースを思い出した。
- 「そういうシステムを運用側が提供してるくせにユーザーにお願いするな」「システムの完成度が低いのが悪い」というブコメも散見されて、特にそう思う。
- マックが作業やお喋りできるお店でも、「だから好き放題する権利が客にはあるんだ、そういう店にしてる方が悪い」って言うのか? という気持ちにはなる。
- 「混んでたら長居しない」「勉強してもゴミを散らかさない」「騒ぎ過ぎない」「最低限の注文はする」とか守らなきゃ、店としては出禁にするしかなくなる。
- 「多様性を尊重しろ」「検閲だ」「ガイドラインが重い」といった自由を制限するなというコメントも多数見られた。「多様性」や「自由」を「好き放題していい」と勘違いしているように見える。
- 精神や権利感覚があまりに幼稚だが、一定数そういう人がいるのは現実として仕方がないとも思う。ただその場合は出禁処置を食らうことになる。
- このガイドラインは、「うちはあくまで飲食店です。お喋りや勉強での利用も歓迎しますが、限度があります。それ以上はそういう場所(図書館とかカラオケとか)(長文ならブログ、議論なら他のSNSとか)を利用して下さい」と言われているものと理解している。
- 運営側もなるべく出禁にはしたくない、システムで一律に制約したくない、だからガイドラインで「混雑時は2時間までの利用でお願いします」みたいなこと言ってるのに、「そんなのおかしい」と言い出す客が2~3割くらい出てきちゃってる、みたいな光景なので、私は少々ドン引きしました。
- ※実際にはコメントせずにブックマークしてるユーザー、ブックマークはせずに納得しているユーザーもいるので、全体の中では少数派でも目立ってしまう。
- 若干(もうあん人らは出禁にするしかないがね)と投げやりな気持ちにもなったが、運営側がギリギリガイドラインで踏み留まっている姿勢を尊重したい気持ち。
コアファンがジャンルを破壊する
- そうしたコアな「お客さん」、ヘビーユーザーの方が「自分たちこそが支えている」意識があったりするのが難しいところ。
- コアファンが、素人・初心者の参入障壁を上げたり、運営側による参入障壁を下げる(素人・初心者への門戸を広げる)試みに抵抗・批判した結果、そのジャンルやサービスが衰退していく現象はよくある。
「若い世代に勧められる」評価基準
- ブコメでid:travel_jarna氏の「直接関係ないけど、はてなブックマークの変質は顕著。かつては見ておくべきニュースや見逃されがちな重要なニュースのハブだったが、現在は大喜利しやすい記事集。以前は学生に推奨していたが。」というコメントを見かけた。心底同意する。
- 「若い世代にそれを本気で勧められるか?」は、サービスの一つの評価軸だろうと思える。
- コアユーザーで「ブクマは掃き溜め」っぽい自嘲的な態度を取る人達もそこそこいる。自分で自分を矮小化させると精神衛生を悪化させる。
理念を語ること
- 「きれい事を言うな」というブコメもちらほら見かけた。
- 「現実にそうなってないじゃないか」と偽善を指摘して、「私は悪い、だがお前も悪いじゃないか」と露悪的な態度を取るのは容易だが、偽善にはしかし善へ向かう契機がまだある分、それを捨てた露悪よりずっとマシで、理念の前で露悪は無力だろう。
- 精神と知力に余裕がないと偽善に向かうことすら難しいよねと理解はするけど、是認はできない。
カウンターとしての存在
- ②ソーシャルブックマークとしてのはてブを見る頻度が下がって、代わりに何を見てるんだっけ? と自分自身を振り返ると、Twitter(X)やYouTubeのおすすめをだらだら見たりしてた。
- 過去の閲覧履歴やフォロイーから興味のありそうなものが自動的に選ばれているとして、この種の「おすすめ」ばかりになるのが健全かは微妙な気もする。
- ②のもう少し人力よりのセレクションが、主流にはならなくても、カウンターとして存在することには、結構意味があるのかもしれないという気もしている。
- 思想家の柄谷行人が『ニュー・アソシエーショニスト宣言』の中で、資本主義的な経済システムが主流になるのは当然でも、その中にあってそうではない経済システム(生協とか)が存在していると、何もない場合に比べて、現行システムが崩れていった時のショック緩和になるので大事、という話をしていたのを思い出す。
- 2005年の時点でも、はてなブックマークは、GoogleやYahooなどの検索エンジンとは別のスタイルとして捉える見方もされていた。(その中では取って代わるのでは、とまで言われていたけれど、さすがにそんなことはなかった。主流にはならない)
- そういうサービスが日本の中に一定の規模で存在している、20年弱存続してもらってるのは非常にありがたいことという気がしてきた。
- ②の性質をしっかり回復させながら維持していきたいという運営側の意思が、このガイドラインからは読み取れてよかった。
サービスを公器として扱う態度
- 最近、Twitter(X)やビッグモーターで「会社はオーナーの所有物『だから』好き勝手にしていい」という実例を見る機会が多かった。
- 例えば美術品だと、「オーナーであっても好きにしていいわけではない、人類の財産の預かり物として保存して後世に残す、公共に供する(貸出に応じる等)」という価値観がそれなりに共有されているかと思う。
- 所有していることと、自分の好きにしていいかの間は、必ずしも自明に直結しているわけではなく、その「モノ」がどの程度公共的な価値があるか、ステークホルダーが多いかの程度によって自由度は制限されてくる。
- オーナーが創業者・起業家で、「自分が作ったもの」の意識が抜けないと、いつまでも「自分の好きにしていい」と思い込んだままになってしまうのかもしれない。
- 子供であっても独立した人格を持った他人で、親の所有物ではないが、世話が必要だった小さい頃の記憶に引っ張られて、子離れできない親が多いのにも似ている。
- 後はそんなこと百も承知の上で、ルール上許されてるから好き勝手やっているのかもしれない。
- さすがにそういう姿勢を見せられると、そのサービスを利用するのが悪への加担か、搾取されるように思えて、安心して使えなくなる。
- そうしたケースを直近で複数見かけたところだったので、そうではなく「世の中に必要な価値を提供する」「ギリギリまではユーザーの自由を尊重する」ような、サービスを社会の公器として扱うような態度を運営側が見せてくれて、ユーザーとしては安心したし、うれしかった。
↓投げ銭がわりの設置。お礼しか書いてない。
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はてなブックマークのガイドライン:コアユーザーと人的キュレーションの行方
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