先日公開されたFLASHに続報があったのですが、FLASH側の判断で掲載されなくなった原稿があります。力を尽くして書き上げたジャーナリスト、鈴木隆祐氏の名誉のため、ご本人に許可を頂いて、ここに全文を掲載致します

文:鈴木隆祐

先日、自らが受けたジャニー喜多川からの性被害について克明に語った石丸志門(55)は、本誌に真相を告白する前、5月21日付の自身のブログで『ジャニーさん、ごめんね』と題する記事を投稿。その時点で実は主治医からPTSD(心的外傷後ストレス障害)との診断を受けていた。

 石丸は現在、隔週で埼玉県内の精神科医に通い、同じクリニック内でカウンセリングも受けている。通い始めて1年半になるが、真相について医師らには明かせぬままだった。しかし、メディアで一切を包み隠さず語る覚悟を決め、主治医にも性被害の事実を告げた。

 主治医は「なぜ今まで黙っていたのか」と問うたが、「PTSDなのは間違いない」と診断。今後はいっそうカウンセリングに重きを置く治療を提言した。石丸は04年に重度の鬱病になって障害者認定を申請、06年から障害年金も支給されている。そして、この2年半は生活保護を受給してもいる。

PTSDの結果として鬱になったのだから、処方薬は変わらないと言われました。これまでの通院歴を通じ、様々な向精神薬や睡眠薬を処方されましたが、効き目が薄れたり、副作用が強く出たり、合っていたはずの薬が合わなくなることも多かったんです。トラウマを正視できなかったせいもあるのか、と今になると思えます」


 本誌の取材を受けた66日の後、10日には急遽、カウンセリングも受けた。その前はカウンセラーと予定が合わずに見送ったため、診察だけを受けていた。

「初めて性被害について告げると、『本当にあるんだ。しかも、こんなに身近に』と、カウンセラーはともかく驚いていました。生活保護受給者の医療費免除の枠内だと、20分の心理ワークしか受けられないので、今後の方針を相談するぐらいで終わりました」

 トラウマの封印が病をこじらせたのは明らかだった。精神科医で作家の和田秀樹氏も自身のメルマガ『和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」』(23520日号)で綴っていた。

「私のようなカウンセリングを専門とする精神科医はいない。PTSDになったら最後、よほど優秀な臨床心理士に診てもらわない限り、精神科医で治せる人はほとんどいない」

 石丸は「事が大きすぎるので起きたことを報告するのがしばらく続くと思う」と語り、やはり自費でカウンセリングを受けないと、満足な治療には至らないのではと危惧する。


 石丸は19821月から855月にかけ、ジャニーズJr.のメンバーだった。同期には光GENJIの大沢樹生、忍者の正木慎也がいる。入所間もなく当時の合宿所に呼ばれ、夜になって他のメンバーと雑魚寝をするうち、まずはジャニーにオーラルセックスをされた。

「毎週日曜のレッスンも厳しくて、毎回ヘトヘトになる。そこへ『ユー、疲れたろう』としてくれる、マッサージがまた気持ちいい。フワッと夢見心地になると、大体はその後、口でされるんですが、下手な風俗嬢より男のイカせ方を知ってるから、それがまた快感なんです。口でされたのは数え切れないくらい。50回以上にはなるでしょう」

 当初は気が気でなかったが、行為に応ずれば、仕事かお金が貰えると知ると、「次第に期待している自分」がいた。入所後3年ほど経ったある昼間、レッスンが早く終わり、一人で合宿所に寄ると、ジャニーが一人佇んでいた。

「そこでいきなり迫られました。興奮したジャニーさんはお尻にクリームを塗って、僕に差し向けてきたんです。その時は童貞でしたが、男性はお尻に入れるとは知っていて、なすがままにしてしまい、なんとか果てなければ終わらないと、必死に腰を動かしました・・」


 そんな出来事があって、人気バラエティ番組内のドラマコーナーでのレギュラー役を獲得。主演の近藤真彦や岡田有希子との共演場面も多く、次のシリーズへの出演も内定していたという。しかし、追って「忍者」となるバックダンサー仲間からいじめに遭うようになり、石丸は孤立感を深めていた。
 ジャニーにはいじめについては伏せ、「もうバックで踊りたくない」と電話で告げると、「ユー、もう来なくていい!」と怒鳴られた。事務所のデスクの女性が慌てて電話してきたが、周囲への態度からも、謝ったところで取り合わないとはわかっていた。当時のジャニーはまだ50代半ばで壮健。感情的で切れやすい面があった。BBCの報道番組が盛んに指摘したグルーミング(懐柔)をし、性交渉の結果として仕事と小遣いを与える「洗脳」を仕組んでいた。


 記者は石丸を介して、主治医との面談を申し入れたが、「守秘義務」を盾に断られた。診断書も弁護士の要請がなければ出せないという。石丸個人の治療法はさておき、PTSD患者を主治医がどれだけ診てきたか、その経験に基づいて、この日本ではまだポピュラーとは言えない症状に対し、どんな考えを持っているか知りたかったが、他の精神科医の意見を訊いてみることにした。

 早稲田メンタルクリニックの益田裕介院長は、19年末からYouTubeチャンネル『精神科医がこころの病気を解説するCh』の投稿を開始し、精神疾患をわかりやすく解説することでは定評がある。同チャンネルの登録者数は現在42万人を超え、200万回を超えて再生されている動画もちらほら。ジャニーズ性被害についても積極的に取り上げている。

YouTubeはまずは患者のために始めたんです。毎回の診察時間は5分ぐらいと限られ、終わる度に病気や治療に関するプリントを渡していたんですが、あまり読まれないので、いっそ動画にして上げてみると、一般の人が注目し出し、見る間にバズった感じです」


 益田医師はPTSDの症状の特徴には、「侵入」「回避」「陰性変化」「過覚醒」の4つがあると解説。侵入とは再体験ともいい、いわゆるフラッシュバック、トラウマとなる辛い体験が蘇ることをいう。回避はトラウマ経験を思い出させる場所や事物、人物や会話などを避ける傾向。その結果、記憶が飛び飛びになって連合しなくなりがちという。陰性変化は認知と気分との双方で起こり、自己否定に陥ったり、周囲との疎外感に苦しみ、陽性の感情持てなくなる。過覚醒ではいつも気持ちが張り詰め、ドキドキしたり、物音にひどく驚いたり、怒りっぽくなったりする。

「この全部が起きないとPTSDとは診断されません。私が直接石丸さんを診たわけではないので断言はできないが、聞いた症状からすればPTSDが疑われる。むしろ小室眞子さんの複雑性PTSDに近いかもしれないですね。ブログを通じジャニー氏を礼賛する昔話も披露していたのは、加害者の理想化・逆説的感謝による回避行動でしょう。

 PTSDには性被害のケースは多いが、パワハラなど社会的圧力を受けた例もよく見受けます。複雑性PTSDの患者には、全体主義によって抑圧された者や『カルト2世』らも数えられる。大体のPTSD患者は出来事から大体12年は経て当院に来ます。石丸さんは性被害から約40年、発症後20年近く経過していますが、元凶に向かい合うまでにそれだけ要する例はあります」


 早稲田メンタルクリニックを訪れる患者の3割が鬱病、23割が発達障害、2割がパニック障害で、PTSD0.5割ほど。しかし、パニック障害の多くは「PTSDの基準を満たさないだけ」かもしれないと益田医師は語る。一連の告発でパニック障害を訴える元Jr.メンバーもいる。また、長らく休養中の元King&Princeの岩橋玄樹、19か月の療養期間を置いたSexy Zoneの松島聡もこの病と闘ってきた。

PTSDの症例は判断しづらいんです。以前は従軍や震災などで味わう死の恐怖に由来するとされ、その後はDVや性被害からも起きると見なされ、いずれにせよタブー視されてきました。本人も羞恥心や周囲への配慮ではっきり言えなかった。ところが最近では、親子間のDVや性虐待であっても、積極的にカミングアウトする風潮に変わってきました」

 石丸のように勇を振るった先駆者たちがいたおかげだ。ところが、ジャニーズ性被害問題に関しては、いまだほとんどの元メンバーや現役メンバーが口を閉ざしたまま。それではいつ何時、石丸のようなメンタルの不調を抱えるかもわからない。仲間を本当に慮るなら、勇気を持って石丸の後に続くべきだろう。