万博協会は「まともなやり取りできぬ」…業界の懸念放置・事務総長は「秘密主義」
読売新聞 / 2023年8月5日 6時43分
2025年大阪・関西万博で、海外パビリオンの建設準備が遅れている問題を巡り、運営主体の日本国際博覧会協会(万博協会)の対応が後手に回っている。昨年9月の段階で建設業界から遅れへの懸念が伝えられていたが、本格的な対策を打ち出したのは今年7月になってからだった。政府の判断も甘く、ようやく動き出したものの、開幕に間に合うかは予断を許さない。
関与避ける
「政府を挙げて、早期建設の環境整備を加速してほしい」。岸田首相は4日午前、首相官邸で開いた万博の関係閣僚との協議で、そう発破をかけたという。
約50の参加国・地域が自前で出展する「タイプA」と呼ばれるパビリオンは、今月4日時点で建設に必要な許可の申請が大阪市に1件も出ておらず、申請に向けて基本計画を市に提出したのは韓国だけだ。建設資材の高騰や人手不足で、予算内で工事を引き受ける業者が見つけにくいことが背景にある。
コロナ禍の影響で前のドバイ万博の開幕が1年延期され、参加国にとって大阪・関西万博までの準備期間が1年短くなったこともマイナス材料だった。
大手ゼネコンが加盟する「日本建設業連合会」(東京)の幹部は昨年9月、万博協会を訪れ、「開幕に間に合わなくなりますよ」と遅れへの懸念を指摘していた。ところが、協会は「あくまで建設会社と各国の話」との姿勢を崩さず、積極的な関与を避けた。パビリオンの独自性に配慮して各国が計画を提示するのを待つ状態が続いた。協会が建設業者への発注代行という対策を参加国に提案したのは今年7月7日で、結果的に10か月「放置」された。
日建連の宮本洋一会長(清水建設会長)は同月21日の記者会見で、「こんな状況になっているのが大変残念だ」といらだちを隠さなかった。
協会の石毛博行事務総長(72)は「(参加国には)準備期間が短いので、早く準備してくださいと口酸っぱく申し上げてきた」と説明するが、参加国の認識は異なる。
タイプAを出展する国の担当者は「着工時期の期限は明示されず、『急いでほしい』という強いメッセージがあったとは受け止めていない。遅れの責任が参加国にあるかのような主張は理解できない」と訴える。
「寄り合い所帯」
万博協会の職員は、国や自治体、企業などから出向している643人(4月2日時点)。大阪府と大阪市が4分の1の163人を占める。トップの会長には十倉雅和・経団連会長が就き、業務執行の決定機関・理事会に出席する副会長(理事)には、大阪府の吉村洋文知事や関西経済連合会の松本正義会長らがいる。
実務を取り仕切るのが、経済産業省出身の石毛氏だ。石毛氏は、省内事務方ナンバー2の経産審議官を務め、退職後は日本貿易振興機構(ジェトロ)の理事長を経験。各国の要人に知り合いが多く、「事務総長になるべくしてなった人」(経産省幹部)と評される。
しかし、関西の財界幹部は「秘密主義で、自治体や企業と連携しようとしない」と不満をぶちまける。
寄り合い所帯のため、責任の所在があいまいで、意思決定に時間がかかると指摘する声もある。
協会に社員を出向させている大手企業の担当者は「縦割りがひどく、部署間での情報共有が全くできていない」。別の企業で万博関連の部署に勤める社員も「協会にメールを送っても、返事が返ってくるのが1週間後。まともなやり取りができない」と嘆く。
焦り隠さず
万博を所管する経産省は2日、協会への支援体制強化を打ち出した。石毛氏を補佐する万博担当に、前事務次官の多田明弘顧問を任命。経産審議官だった平井裕秀顧問を海外との調整役に起用した。経産省の事務方トップ2経験者を充てる異例の措置だ。
経産省幹部は「もっと早く手を打っておくべきだったと言われれば、その通りだ。反省するところはあった」と振り返り、「省を挙げてやらないと本当に開幕に間に合わないということになりかねない」と焦りを隠さない。
経産省は工事を加速させるため、来年4月からの残業規制の適用を除外する案も検討しているが、労働基準法を所管する厚生労働省は「単なる業務の繁忙では認められない」と否定的だ。
協会が参加国に提案している発注代行の申請は8月末が期限となっている。申し込みが少なければ、先行きへの不透明感はさらに増すことになる。
大阪府市存在感なく 政権と距離影響か
地元の大阪府と大阪市は、状況の改善に向けて存在感を発揮できていない。政権との距離感の変化が原因との見方も出ている。
万博は、4月に退任した大阪市の松井一郎前市長が、個人的に信頼関係を築いていた安倍晋三・元首相や菅義偉・前首相から協力を取り付け、2018年に誘致を実現した。しかし、21年10月に岸田氏が首相に就くと、政権との関係は疎遠になった。大阪府の吉村洋文知事が岸田首相に初めて公式に会ったのは、1年以上後の22年12月だった。
市幹部は「安倍さんや菅さんが首相だったら、パビリオンの建設遅れなんて起きなかっただろう」とため息をつく。
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