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別人口座への誤入金も…トラブル続出のマイナンバー「総点検は無理」自治体の“悲痛な叫び”

文春オンライン / 2023年8月4日 6時0分

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©iStock.com

〈 医療の現場では「誰でも顔認証」という事態が…「暗証番号なし」マイナ保険証の“危うさ”とは 〉から続く

 トラブル続きの「マイナンバー」ですが、またひとつ、とんでもないトラブルが発生しました。

 自分がもらうはずだった約6万円のお金が、別人の口座に振り込まれていたという事件です。

 デジタル庁によると、所沢市に住む80代の女性のマイナンバーの公金受取口座に、誤って他人の口座が紐づけられていて、本来ならば本人に入金されるはずの「高額介護合算療養費」5万7516円が、他県に住む同姓同名で生年月日も同じ女性の公金受取口座に振り込まれていました。

 家族が「支給決定通知書に記載されていた口座番号に見覚えがない」と問い合わせたところ、別人の口座であることが発覚。本人は80代と高齢であるので、もし家族が発見していなかったら、もらえるはずの公金が他人の口座に振り込まれ続けていても気づかないという状況でした。

 公金口座については、別人の銀行口座との紐づけミスが940件あり、7月19日、個人情報保護委員会がデジタル庁に“立入検査”に入ると正式に公表しました。他人ではなく家族などの名義で口座登録されているものも約13万件あったといいます。

 口座の誤登録は、マイナポイントでも数多く起きています。

 総務省が行った調査では、本人が受け取るべきポイントが、別人に付与されていたというケースが、判明したものだけでも131自治体で172件。

 相次ぐこうした事態を重く見た岸田首相は、データの総点検をし、これを秋までに終えると表明しました。

自治体が悲鳴を上げる、不可能な「総点検」

 ただ、現場の自治体の何人かのトップに話を聞くと、「ここだけの話ですが」と前置きし、全員が「総点検なんて無理」と言い切りました。なぜなら、人もお金も時間もない自治体に、「点検」だけを丸投げしている状況だからです。

 国が配置した人員は、自治体との連絡役のたった60人ほど。8000万枚以上あるカード申請者の1人29項目にも及ぶ個人情報は、すべて丸投げで自治体にチェックさせるという。

 90万人の区民を抱える東京都世田谷区の保坂展人区長も「自治体の資源を短期的に集中させ、人海作戦で検証してくれというのは筋が違う。どう考えても不合理」と怒り心頭。小池百合子都知事は「現場の多くは区市町村で非常に膨大な量になる。『秋まで』は、なかなか厳しいのではないか」と見解を表明しました。

 ただ、ある自治体のトップに聞くと、「国の指示なので、世田谷区のように財政的に力があれば表立って逆らうこともできるでしょうが、ほとんどのところは黙って従うしかない。とりあえず何件かサンプル的に調べ、何もなかったら『点検したが異常はみられなかった』という、曖昧な報告書を出すしかありません」。

「ノー」と言わないと、公金受取口座が紐づけられていく

 公金受取口座登録制度は、2022年1月から、「任意」で申し出た人の口座をマイナンバーに紐づけるというかたちでスタートしました。

 ただあくまで「任意」なので、自分の預金口座を国に知られたくない、誤登録されるのが怖いといった理由で、マイナンバーカードを持っていても約4割の人は、公金口座への紐づけを行なっていません。

 そこで、政府が考えたのは、「ノー」という意思表示をしない人以外は、すべて自動的に紐づけてしまおうということ。

 そのために法改正して、公金受取口座の名義人が不同意の回答をしない限り、国がマイナンバーと紐づけて登録する制度を創設しました。

 この制度では、日本年金機構が受給者に登録するかどうかの確認書類を各自に郵便などで送り、一定期間内に「不同意」の回答をして送り返さなければ、同意したとみなして自動的にどんどん紐づけていくというもの。もし、日本年金機構から来た手紙を、後で読もうなどと放っておいたら、自分でも知らないうちに自分の銀行口座が紐づけられてしまうということです。

日本年金機構は点検を一切拒否

 こうしたやり方は、国に対しての信頼がない現状では、暴力的と言わざるを得ない。

 しかも、冒頭の誤振込だけでなく、地方の共済組合でも、別人の年金情報が誤登録されるミスが発生しています。

 これに対して、ミスター年金こと立憲民主党の長妻昭政務調査会長が、「政府が総点検をするというなら、日本年金機構もマイナンバーカードに紐づけられた年金口座などを総点検すべきだ」と噛み付きました。ところが、日本年金機構はこうした点検を一切拒否。「全部点検しろとは言わないので、せめてサンプル調査でもして欲しい」と長妻氏が食い下がると、サンプル調査もしないといいます。

総点検でミスが発覚したら…

 岸田首相は「総点検」と言っているのに、日本年金機構が点検を拒否するのはおかしな話。

 穿った見方をすれば、もし日本年金機構が総点検で1件でも年金の紐づけミスが発覚したら、これはもう第2の「消えた年金問題」に発展しかねず、これから行われるだろう選挙の争点としては、なんとしても避けたいという思惑があるのではないでしょうか。

 いずれにせよ、8月上旬には中間報告があります。しっかりと、結果を見定めたいものです。

(荻原 博子/文春新書)

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