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夏のキャンプやBBQで出るゴミの正しい捨て方【滝沢秀一連載】
昨年10月、東京・調布市で突然発生した道路陥没事故は、近隣住民だけではなくリニア中央新幹線の地下工事ルート上に住む人々にも衝撃を与えた。
調布での事故原因とされる地下40m以深「大深度」の地下工事は、リニア路線の敷設でも実施されるからだ。今年4月の工事開始(予定)を前に戦々恐々としている人たちの声を聞いた。
2020年10月18日。東京都調布市東つつじケ丘2丁目の住宅街で、道路の陥没が発生、幅5m、長さ3m、深さ6mの穴が開いた。
近隣住民が騒然とするなか、現場に駆けつけたのが、田園調布(東京都大田区)に住む「リニアから住環境を守る田園調布住民の会」(以下、「住民の会」)の代表・三木一彦さん(63歳)だった。三木さんは道路に開いた大きな穴を目にして息をのんだ。
「田園調布でも同じような事故が起きるのか......」
この事故の原因とされているのが、高速道路「東京外かく環状道路」(以下、外環)を造るための地下工区(東京都世田谷区から練馬区までの16㎞)の掘削工事だ。
事故から1ヵ月前の9月14日、陥没現場の地下47mを直径16mの巨大トンネル掘削機「シールドマシン」が掘り進めていた。同月、外環ルート上の住宅地では、振動や「ゴゴゴ」と響く騒音、外壁の亀裂、玄関ドアの不具合などの被害が続出していた。
陥没現場のすぐ近くに住むKさん宅では、連日のようにウオーターサーバーの水面がユラユラと揺れていたという。
「すごく不気味でしたね。騒音は胃に響くし、耳がツーンってするし」
別の女性住民は「安心して暮らせない」との精神的苦痛を訴える。陥没後に工事は中断されたが、「就寝中でも、ちょっとした物音にもビクッと跳び起きてしまう」と不眠症に悩まされている。
調布市の住民団体「外環被害住民連絡会・調布」がまとめた被害状況の報告書によると、陥没事故の前後で構造物に被害があったのは58軒。内容は、ドアや床の傾きが19軒、コンクリートのひび割れが17軒など。ほかにも騒音や振動を感じた「体感的被害」は102軒に上っている。
前出の三木さんが事故現場で顔を曇らせたのは、JR東海のリニア中央新幹線(以下、リニア)の大規模地下工事が、外環と同じ工法で今年から本格着工するからだ。
品川駅(東京都)から名古屋駅までを40分で結ぶリニアは27年開通予定だ。JR東海が発表した資料「中央新幹線第一首都圏トンネル新設(北品川工区)工事における環境保全について」によると、今年4月以降、直径14mのシールドマシンが品川駅近くを発進し、その約1年半から2年後に田園調布の住宅街の真下を地下40m以深で到達する予定となっている。
外環とリニアには共通点がある。01年に施行された「大深度法」(大深度地下の公共的使用に関する特別措置法)の存在だ。大深度とは、主に人が使わないとされる地下40m以深の地下空間のこと。同法では大深度での工事では、地上の地権者との「用地交渉や補償は不要」と定めている。
事業者が大深度工事をするには、国土交通大臣から「使用認可」を得る必要がある。その第1号は、07年6月の神戸市の送水管(直径約3m)の敷設。次に認可されたのが外環で(14年3月)、これは日本初の住宅街の下を巨大トンネルが横切る事業だった。
そして3番目の認可がリニア工事である(18年10月認可)。
この認可に先立ち、JR東海は大深度工事の住民説明会を18年5月に東京都、神奈川県、愛知県で開催。筆者は大田区と川崎市での説明会を取材した。両会場では住民が次々と手を挙げ、工事に対する不安や疑問を投げかけていたが、JR東海は「問題なし」の姿勢を貫いていた。例えば「大深度からの騒音と振動は問題ないか?」との質問に、JR東海はこう回答した。
「騒音も振動も上にいくほどに減衰し、地表に影響しない」
ちなみに、外環の事業者であるNEXCO東日本と中日本も13年9月の外環の大深度工事に関する住民説明会で、JR東海と同じ見解を示している。しかし、一般社団法人「環境地盤研究所」所長の徳竹真人(とくたけ・まひと)所長は、こう話す。
「土質力学の大家(たいか)などは『トンネル直径の1.5倍以上の土かぶりがあれば地上に影響ない』と述べていまして、この理論の下、工事が実施されていましたし、特に大きな問題も起きていませんでした」
つまり、仮にトンネル直径が8mだとしたら、その地点から地表の距離が8×1.5=12mあれば、問題ないということだ。
「しかし、かつて複線鉄道での地下工事で約8mだったトンネル直径が、近年は巨大化しており、リニアで14m、外環で16mにまでなった。心配なのは、こんな大口径トンネルに従来の数値計算モデルを適用できるかです。実際、調布では大深度からの振動、騒音、陥没という"非常識"なことが起きてしまいました」
18年10月、国交省がJR東海に大深度使用認可を出すと、前出の「住民の会」は動いた。大田区を中心に使用認可取り消しを求めた730人分の審査請求書を集め、19年1月10日に国交省に提出したのだ。その回答である「弁明書」が届いたのは20年6月1日。しかし、そこに書かれた文言に三木さんは憤った――「住民が抱くのは抽象的な危機感にすぎない」。
20年9月8日、三木さんたちは国交省に「反論書」を提出。そこでこう指摘した。
「陥没や地盤沈下が住宅街で起きることになり、住民は生命、身体の危機に直面する」
調布市で振動や騒音を訴える声が続出したのはまさにこの9月、陥没事故発生は翌月だったのは先述したとおりだ。
陥没事故から2ヵ月後の12月18日、国交省、NEXCO東日本と中日本の3事業者が設置した事故調査機関「有識者委員会」(小泉淳[あつし]委員長)は中間報告をまとめた。概要は、「特殊な地盤」があったとの条件付きだが、シールドマシンでの掘削が陥没事故の原因と認めた。だが、「特殊な地盤はめったにないので、工事再開は可能」ともにおわせる内容だった。
この日、NEXCO東日本と小泉委員長が記者会見を開催。記者のひとりが「結局は、特殊な地盤を事前に見抜けなかった?」と事前調査の不備を問うと、小泉委員長は「そうですね」と認めた。
国交省と東京都を相手取り、「大深度法」の違法性や危険性を訴える「東京外環道訴訟」で、原告代理人を務める武内更一(こういち)弁護士は、昨年11月24日の原告集会で、外環の事前調査不足について、こう報告をした。
「大深度工事の指針である国交省の『大深度地下使用技術指針・同解説』は、100~200m間隔でのボーリング調査(掘削する土の強度などを測る地質調査)が目安と記載するのに、外環では平均992m間隔でしかない」
筆者はこの真偽について小泉委員長に尋ねると「住宅密集地では難しい」と認めた。
「これと同じ問題をリニア工事も抱えている」と強調するのは、「住民の会」と共闘する市民団体「リニア市民ネット・東京」(以下、市民ネット)の奈須利江さんだ。
「JR東海の資料では、ボーリングは、大田区と世田谷区ではルート直上では約400mおきしかしていない。つまり、ルートの地盤の状態がわからないまま、掘削しようとしているんです。これでは振動も陥没も起きる可能性は否定できません」
陥没事故が起きた調布市つつじケ丘2丁目の住民の一部は「もう引っ越したい」との気持ちを抱いている。だがその願いを叶(かな)えるための金策は難航するかもしれない。
陥没現場の近くに住むHさんは「以前は毎週、『不動産査定します』のチラシ投函があったけど今はゼロ。もう資産価値ゼロね」と苦笑した。
では、NEXCO東日本が買い取り補償をするのか。これはまったく不透明だ。
昨年12月20日、住民説明会で、住民の「資産価値が低下した。買い取り補償はするか?」との質問にNEXCO東日本側は「それを説明できるものを用意してない」と不明瞭な回答をするだけだった。
会場から出てきた女性は「家を売って、高齢者施設に入る将来設計が崩れた」と落胆していた。このNEXCOの姿勢に「リニアも同じだ」と顔を曇らせるのは、リニアのルート上に住む川崎市のAさんだ。
「18年の住民説明会で『資産価値低下の補償は?』と尋ねたら、JR東海は『資産価値は社会情勢で変わる。リニアが原因とはいえない』と突き放されました」
実は、すでにリニアのルート上では不動産価格の下落が始まっているところもある。山梨県南アルプス市某地区では、数十m近くがリニアの予定ルート(高架)だとわかると、その騒音や日照の悪化を恐れ、800万円の南西の角地の売買契約が解約された。
同地区の不動産業者は「その後100万円単位で値下げして、450万円でやっと売れた。近所にはまったく売れない土地もある」と嘆いていた。この不動産業者は「シールドマシンの発進でルート上の資産価値は軒並み下がる」と予測している。
リニアは品川から名古屋までの286㎞のうち、大深度区間が約50㎞ある。このエリア直上には何万軒もの家屋があり、筆者の調べでは首都圏だけで保育園や小中高校が12施設あった。ルート上の住民の多くは、自宅直下でトンネル工事が計画されているのを知らない。
有識者委員会(前出)は21年3月末までに事故調査の「最終報告」を出す。その報告をリニア関連の市民団体は固唾(かたず)をのんで待っている。というのは、昨年11月20日、「市民ネット」など4つの市民団体がリニア計画を管轄する国交省鉄道局と協議に臨んだ際、「外環と同じ工法でのリニア工事の中止を」との訴えに、鉄道局は「外環の陥没事故の調査結果を待って判断する」と回答しているからだ。
奈須さんは「人命がかかった問題です」と強調する。果たして今年4月以降、シールドマシンは発進するだろうか。