クルド独立の実現は慎重に
イラク北部のクルド人自治区で独立の是非を問う住民投票が実施され、賛成票が9割を超えた。
イラクやトルコ、イラン、シリアの4カ国に分かれて暮らすクルド人は「自分の国を持たない最大の民族」とされる。独立は悲願だ。その思いは受け止めたい。
ただし、一方的に独立に突き進めば、領内にクルド人を抱えるトルコやイランなど、周辺国の反発を招き、地域の緊張を高める。民族の夢は性急に追うべきではない。慎重に、平和的な手段で実現を目指すよう求めたい。
投票結果に法的な拘束力はない。しかし、クルド自治政府のトップであるバルザニ議長は「我々は新しい段階に入った」と述べ、イラク政府と独立に向けた交渉に臨む考えを示した。
クルド人は第1次世界大戦後に、大国主導で決まった中東の国境線の下で民族としての権利を制限されて過ごしてきた。苦難の末、手が届きそうなところにきた独立に熱狂するのは当然だろう。
だが、イラクのアバディ首相は住民投票は違憲と非難し、交渉を拒否する考えを示した。トルコやイランも住民投票を強行したことに反発し、自治区の封鎖など対抗措置を検討している。
クルド独立はイラクの分裂を招く。周辺国は自国に飛び火することを警戒する。クルド人に限らず中東には様々な民族が暮らす。自治や分離独立を求める動きが広がれば中東は一層、不安定化する。
米国も投票の強行に失望を表明した。米軍はイラクで、イラク政府軍やクルド人組織と協力し、過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討作戦を続けている。クルド独立の動きはこの足並みを乱す。
投票結果は尊重したい。ただし、拙速に動けば周辺国の介入を招き、独立の芽は摘まれるだろう。国際社会の理解を得る努力をもう少し重ねることが大切だ。
周辺国もクルド人の悲願にいつまでも目をそむけてはならない。互いに民族の権利を尊重しながら共存する道を探る必要がある。