EU、英抜きで再拡大へ バルカン諸国の加盟交渉で合意
【ブリュッセル=竹内康雄】欧州連合(EU)は24日、バルカン半島に位置するアルバニアと北マケドニアと、EU加盟に向けた交渉に入ることで合意した。交渉入りに慎重だったフランスなどが、加盟手続きの見直しに一定の前進があったとして態度を軟化させた。1月末に英国の離脱という初めての縮小を経験したEUは、拡大路線を維持する方針を堅持した。
24日にEU各国の欧州担当相らがテレビ会議を開いて合意した。26日にEU首脳がテレビ会議を開いて、この方針を確認する見通しだ。EUのバルヘリ欧州委員(近隣・拡大政策担当)は記者会見で「大きな一歩だ」と評価した上で近く第1回会合を開くと表明した。
「決定の遅れは我々のせいではないにしろ、素晴らしいニュースには違いない」。合意を受けて、アルバニアのラマ首相は地元メディアに語った。EUの欧州委は2018年に交渉入りを加盟国に勧告したが、フランスやオランダ、デンマークが難色を示していた。
表向きは「拡大手続きが不透明」「EU内部の改革が重要」といった理由を挙げていたが、バルカン諸国がEUに加わると、移民が西欧に入りやすくなるとの不安があった。移民排斥を訴える急進政党が支持を伸ばしかねないとの懸念がある。
欧州委は2月、フランスなどに配慮して加盟手続きの見直し案を公表した。交渉が始まった後でも加盟候補国の改革が後退したとみれば、加盟国にストップできる権限を与えるのが柱だ。欧州委は「法の支配」「市場経済」などの分野でEU基準を満たすための改革が進んでいるかを年ごとに評価し、各国に報告する。フランスなどはこの改革を受け入れたようだ。
EUに加盟した国は13年のクロアチアが最後。20年1月には英国が離脱して加盟国は27になった。加盟交渉は同じバルカンのモンテネグロとセルビアと既に始めており、EUはコソボとボスニア・ヘルツェゴビナを潜在候補国と位置づける。トルコとの加盟交渉は事実上停止している。
北アルバニア、マケドニアの人口はそれぞれ200万~300万と小さいが、バルカンはかつて「欧州の火薬庫」と呼ばれ、対立が繰り返されてきた要衝の地だ。中国やロシア、トルコが基幹インフラへの投資などを通じて影響力を拡大しており、EUとして両国を自陣営に取り込みたいとの狙いがあるとみられる。
英離脱という初の加盟国減少を経験したEUには「世界での存在感が弱まりかねない」(欧州委幹部)との不安が強い。実際の加盟には多くの改革が求められるため、5年以上はかかる見通しだが、今後もEU拡大に扉を開いておくことで、国際社会への影響力を保持したいとの思惑もある。