法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『オッペンハイマー』との悪趣味クロスオーバー「#Barbenheimer」へ『バービー』公式広報がのっかったとして、実際の作品を見ずに批判していいのだろうか?

 もちろん批判していい。

 シリアスな核兵器開発者の史実映画『オッペンハイマー』と、ポップでフィクション批評的なメタ映画『バービー』という、公開時期の近いヒット2作品をクロスオーバーさせてギャップを出す。そのような悪趣味なネットミームに、バズねらいで公式の広報アカウントがのっかったという方向でダメなパターンらしい。


 ハッシュタグ「#Barbenheimer」を批判する「#NoBarbenheimer」というハッシュタグ運動もおこなわれ、とりあえず広報アカウントの該当ツイートは削除されたようだ。
 ここで、さまざまな作品広告が「炎上」した事例の多くとちがって、実際の作品を見て評価しようという意見は見かけない*1。むしろ『バービー』を見る気がなくなったという意見をよく見かけるし、その意見への否定ももちろん見かけない*2
 やはり広告というものは、原則として作品などの宣伝として不完全な表現であると同時に、望まなくても見てしまうことがある表現として単体で評価されるものなのだ。同時期の『月刊ガンダムエース』の声優インタビュー記事の文章削除が物議をかもしたのも、削除理由を説明するページを読者以外にも公開してからだ*3
 広告を批判する時にできるだけ作品も確認しなければならないとすれば、その広告は作品の価値を毀損しつつ商業的な広報としては成功になってしまう。その意味で、広告はそれ単体でも批判できなければならないし、その広告をおこなった広報担当に対する態度から制作者を批判することもできるのだ。そして、たとえ作品に罪はなくても受け手は作り手の罪をかさねあわせてしまうことがある。


 ちなみにキノコ雲をポップアイコンのように利用した表現として2004年のTVアニメ『妄想代理人』のOPが知られている。これは基本的に日本人が制作して日本国内に向けた表現で、OP自体も本編も悪趣味さをむきだしにしたホラー作品だから成立している。

 あるいは悲惨な歴史を茶化して陰惨さを塗りかえようとする作品もありうる。代表的な原爆テーマ漫画『はだしのゲン』も忘却にあらがうためポップアイコンになることを公式があえて選択したように。
 一方で『バービー』の制作や広報が当事者とは考えづらいし、悪趣味なミームをひきうけられる強度の作品という評価は実際に視聴した人々からは聞かない。
 そして仮にミームをひきうけられる背景が作品にあったとしても、なお批判することもできる。被差別者があえて差別的な呼称を自称する時と同じだ。

*1:ただ、過去に劇場映画の上映前の予告映像がさしかえられた時も、実際に本編を鑑賞しようという動きは見かけなかったので、映画という媒体の特殊性はあるかもしれない。

どちらもそれなり以上に楽しんで見た感想としては、どちらもポップな悪趣味さがあるので相性は悪くないのでは、と思わなくもなかったが。 hokke-ookami.hatenablog.com hokke-ookami.hatenablog.com

*2:ついでにフィクションの登場人物やLEGOのキャラクターは「非実在」だという主張も見かけない。逆に原爆が非実在にあつかわれているというツイートは見つけたが。

なお、「フィクション」と「バービー」で検索するとフィクションなので批判しないという意味のツイートは複数あるが、フィクションであっても批判すべきことはあるという意味のツイートより多いようには見えない。

*3:g-witch.net こちらはその説明そのものにつたなさがあり、文章削除の時点で生まれた不信感を収拾しない内容だったことが重ねて批判されている。作品本編において初回では台詞にした要素を最終回では明確な台詞にせず、指輪などの記号的な表現だけで見せることになった理由はよくわからないが、それと同じ理由でインタビューから文章を削除したのだとして、いくら間接的な表現でも「解釈の余地」があるようには思えなかった。また、文章削除の理由が差別と疑われていたならば、削除を維持しつつ差別を批判する説明も選べただろう。同性愛を題材にした自作を差別に利用された漫画家が、差別をはっきり否定したように。