インド洋の世界

 

(この記事は晩秋どん @debut_printemps の求めに応じて、2017年2月14日の記事を再録したものです)

旅客機が発達する以前、船が大陸間をつないでいた頃は、インド洋は「危険な海」で有名で、三角波が多いとか、暴風の日が多いという理由かといえば、反対で、あまりにベタ凪の日が続くので、乗客が倦んで、船から投身して自殺してしまう人の数が多いので有名だった。

あるいはインド洋の海底は、伝説のアトランティスそのまま、海に沈んだ大陸が初めて科学の力で発見されて、モーリシャスの最も古くても900万年前でしかない地層に、そっとくるまれるように見つかった30億年前のジルコン(ZrSiO4)塊の謎が解明されて、インド洋があるところには、大昔には大陸があったのだということがいまでは判っている。

日本との関連でいえば、太平洋戦争初期、まるでさすらいの盗賊団の趣があった大日本帝国海軍機動艦隊は、スリランカのコロンボまで遙々でかけて空襲して、このときマジメに作戦されたらイギリス東洋艦隊はいきなり壊滅だったが、南雲忠一らしく、「やりました」というだけの中途半端な攻撃で終わってしまったので、イギリス側は、「なんのこっちゃ」と思いながらも、胸をなでおろすことになった。

閑話休題

ぼくの部屋、というか投資部屋の壁には世界地図があって、というよりも世界地図が映し出されているでっかいスクリーンが二枚あって、ひとつは伝統的なユーラシア大陸と北米大陸が爪先立ちでのびあがって、塀ごしにキスしてるような、例のあの地図で、もうひとつは、インド洋がちょうどまんなかにあって、左端が西アフリカ、右端にニュージーランドがやっとひっかかっているくらいの位置関係の地図です。

この地図によれば主役はインド洋に面している諸国で、インド、インドネシア、イエメン、イラン、サウディアラビア、ソマリア、オーストラリア….というような国が並んでいる。

もうひとつ簡単に気が付くのは東南アジアで中国がやっていることは何か?ということで、タイランドに浸透しようとしていたり、メコン川を支配しようと努力していたり、要するにナチ・ドイツがダンチヒ廻廊を取り戻して北海へのアクセスを確保しようとしていたようにインド洋へのマラッカ海峡を経由しないですむアクセスが欲しくてたまらないもののようである。
中国が無理矢理な強引さでSpratly Islandsに要塞と飛行場を建設しているのは、インド洋への直截アクセス戦略の展開が芳しくないので、ここに軍事根拠地を建設して、日本で言う「シーレーン」を確保しようということでしょう。

大西洋から始まった近代経済世界は太平洋に焦点が移行して、いまはほとんどの投資家はインド洋を中心にした経済世界に視点が移行している。

地図をじっと眺めていてわかるのは、インド洋世界は、太平洋世界と異なって、特にわかりやすいものを挙げれば例えば石油において資源的に自足している。
金融をみるとシンガポールが中心に座っていて、今日の世界では無視できないムスリム圏の、宗教規律のせいで西洋の概念とはまったく異なる概念のムスリム金融が急速に発達している。

そして、このブログに何度も繰り返し書いたように2050年を越えて、まだ世界が存続できるかどうかの、最もおおきな鍵を握っているアフリカ大陸がある。
いまソマリアやイエメンで起こっていることは、チョー荒っぽいいいかたをすれば日本の戦国時代と同じで、現実には、社会の人口と生産性が高まって、社会内部の成長圧力が強まった社会がおおかれ少なかれ経験する動乱期であると見ることが出来るとおもいます。

中東もおなじで、こっちは別稿を設けて、そのうちに書くとして、「パルミラの破壊なんて、野蛮でお下品な」みたいなことをマスメディアは述べるが、日本で言えば、
日本の古城破壊や廃仏毀釈や鎮守の森破壊は、規模だけから言っても比較にならないものすごさで、単に「お上がやることは仕方がない」国民性が南方熊楠を数少ない例外として記録させなかっただけで、読んでいるとISISなんてうぶいじゃん、と呟きたくなるくらいの酷さだった。

アフリカ、それも西洋に馴染みの深い北アフリカとヌビアンのアフリカだけでなくて、バンツー族が浸透していった「真アフリカ」と呼びたくなるアフリカの興隆はケニヤのIT産業くらいを皮切りに、進み始めている。

自足しているのと、世界の三大宗教がバランスされているのとで、インド洋世界は、最もおおきな可能性を秘めている。
問題は政治の安定ということになっているが、考えてみると、さっきの例でいえば結局は日本全体の生産性が飛躍する淵源になった戦国時代にしても、イギリスやフランスが介入していれば、メチャクチャなことになって、当の日本は搾り滓にされて、ただ日本人同士の憎悪のなかに置き去りにされていたはずで、あれやこれや、
いろいろな例を見ていくと、「要するに欧州とアメリカが余計な口出しをしなければいいだけなんじゃないの?」と言いたくなってくる。

投資家というのは儲かってしまったあとでは、ヒマをこいて、いろいろなことを述べ始めて、甚だしきに至っては「投資哲学」とか口走りはじめるが、要するにもうかりゃいいのよで出だしをはじめる種族なので、暢気でマヌケな種族であるマスメディアや政府人よりも世界を冷静に眺めている。
読みがええかげんだと、口座からぞろっとオカネがなくなって、二回くらい読み損なうと投資タイプによってはおとーさんになってしまうので、よっぽどのバカでもなければ新聞記事を丸呑みに信じたりしません。
陰謀説おっちゃんたちに耳を貸しているヒマもない。

では何をやっているかというと、データデータデーターあああの毎日で、例えばわしならば「ねえええーニュージーランド観光にくれば?ね?ね?航空券代も全部こっちで出すし、わしゲストハウスに泊まりなさい」と人をだまくらかしてニュージーランドに来させて、生の声を聞くためのインタビューを繰り返すことを別にすれば、データを眺めて、そこから現実を読み取っていきます。

その結果、現今、投資家たちがなにをやっているかといえば、北朝鮮とのパイプを強くして、シンガポールに移住して中国圏と英語圏の接点で両岸を眺めて、あるいはイランのひとびととのネットワークを作ったりしている。

その結果できあがった世界地図を眺めようとおもうと、インド洋のまんなかくらいを地図の中心にして、世界の未来を眺めることになって、ここまで読んできて勘がいい人は判るとおもうが、
例えば2050年の「インド洋がまんなかにある世界」を考えると、なんと、なああああーんと、ヨーロッパも北アメリカもいらないのよ。
邪魔っけなだけです。
向こう行け、しっしっ、です。

多分イランの宗教勢力が倒れて、「イスラムよりもペルシャ」の伝統にイランが帰るとき、インド洋世界は大興隆時代に入るとおもわれるが、もういまの時点でも実はインド洋世界に属する諸地域がすくすくと伸びて、大西洋と太平洋の二世界がさまざまな齟齬を来しだしているのは毎日のニュースを観ていても一目瞭然であるとおもわれる。

ときどき、ちびちび酒をのみながら、グーグルマップの中心をインド洋にあわせて、じっと世界の様子におもいを巡らすことは、きみの一生をおおいに助けることになると思っています。

ほら、地球が、世界が、違ってみえてくるでしょう?
なんだか意味不明な文脈で世界が変化していくように見えるのは、太平洋をまんなかにした、きみの思考のせいなんだよ。
世界を捉える文脈が間違っているのだとおもう。

視点は、なにも観念のなかにだけあるわけじゃない。
物理的な地図のなかにも眠っているのね。

人間が現在だと思っているものは、たいてい過去が夢見た未来であるにしかすぎないという。
いまの要点を欠いた、調子っぱずれの「西」世界を見ていると、
ほんまだよなあーとマヌケな感想を持ちます。

古い地図で、新しい航海に乗り出すわけにはいかないんだよね、きっと。



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