知っ得・なっ得コーナー


【原爆(核兵器)と通常兵器・広島と長崎の原爆の違いは?】

広島に落とされた原爆は、外見から通称「リトルボーイ(かわいい少年)」、長崎は通称「ファットマン(太っちょ)」と言われた。しかし、その親しみを感じる名前で、もたらされた残虐さを消し去るわけにはいかない。
原爆がそれまでの兵器と違うところは、超強力なエネルギーを生み出す核反応(原爆は核分裂反応)を利用しており、破壊力がケタ違いに大きく、いつまでも被害が続く「核兵器」であることである。爆発による威力は、広島原爆は1発で通常の1トン爆弾12500発分、長崎原爆は22000発分だったと言われる。破壊力では長崎の方が広島の約2倍あるが、死者数では落とされてから1年以内に広島で約14万人、長崎では約7万人であり、広島の方が約2倍多い。これは、長崎では町の中心部を外れた場所に落とし、かつ両側に300m程度の山があって爆風や熱線がある程度防がれたのに対して、広島は人が多く居る中心部に落とし、かつ平らな土地で防ぐ物が少なかったことが大きな要因である。
長崎は、当初は小倉という別な町に落とす予定だったものが、当日の小倉上空の天気が悪く、長崎に変更になったことによる悲劇であった。
長崎原爆資料館に展示されているファットマン模型
長崎原爆資料館に展示されているファットマン模型


【放射線の怖さ】

前述したように核兵器は、核分裂の凄まじいエネルギーを利用した兵器である。それは強烈な爆風・熱線・放射線を出して人の体や建物などに大きな被害をもたらす。
核兵器が他の兵器と決定的に違うところは、目に見えない、臭いもしない、触れても分からない放射線を出すところである。核兵器だけではなく、原子力発電所の事故でも出る。より正確には、核兵器や原発から出る放射性物質から放射線が出続ける。
原爆の被害者は「被爆者」と表し、放射線による健康被害を受けた場合には「被ばく」とか「被曝」と表す。
放射線は外から浴びる外部被ばく、空気や飲食物から放射性物質が体の中に入って、そこから出る放射線で体の内側から徐々に被ばくする内部被ばくがある。
人間の体は、細胞がつながることで出来ている。細胞には遺伝子があり、遺伝子は正常な体の働きに重要な役目を果たしている。放射線が細胞に当たると、遺伝子を切るため、異常が発生して病気になりやすくなる。特に子どもの場合、大人の数倍から数十倍の影響を受けることが多い。そのため、子どもでも髪の毛が抜けたり、血を吐いたり、重い病気にかかって亡くなった。運良く生き延びた被ばく者でも、病気で苦しむ人が多い。


【被ばく者は広島・長崎だけではない
(ビキニ事件、核実験、劣化ウラン弾、原発事故)】

広島・長崎以外にも核兵器の被害者・被ばく者は大勢いる。
広島・長崎原爆から9年後の1954年には、南太平洋のビキニ環礁で日本のマグロ漁船『第五福龍丸』が、アメリカの水爆(原爆の数倍から数百倍の破壊力を持つ核兵器)実験に巻き込まれたビキニ事件がある。放射性物質を大量に含んだ「死の灰」を浴び、大量に被ばくしたことで無線長久保山愛吉さんが亡くなった。近年の調査により、実際には他にも1000隻くらいの船が被害を受けたことも分かっている。日本人に3回目の核兵器犠牲者が出たことで一挙に人々の批判が広がり、翌年から原水爆禁止世界大会がはじまった。これ以外でも世界中で行われた核兵器の実験に巻き込まれて被害にあった人が世界中にいる。
近年では広島原爆と同じ原料のウランを用いた「劣化ウラン弾」が中東などで使われ、使われた現場から出る放射線による被ばく者も多数いる。
また、核兵器と同じ核反応で動く原子力発電所の事故でも核兵器と同じような健康被害が生じている人がいる。1979年のアメリカのスリーマイル原発事故、1986年のソ連(現ウクライナ)のチェルノブイリ原発事故、そして日本国内でも1999年の東海村臨界事故、2011年の福島第一原発の事故によって大勢の人が被ばくしている。
以上のように被ばく者は、広島・長崎だけ、日本だけではない。これからは、こうした幅広い意味で被ばく問題を考えていく必要がある。
福島原発事故 爆発後の3号機原子炉建屋の外観
福島原発事故 爆発後の3号機原子炉建屋の外観(撮影年月日:H23.3.15)
「出典:東京電力ホールディングス」


【核兵器は北朝鮮だけの問題ではない!】

「核兵器の脅威」と言われて、まず何を連想するだろうか?恐らく、まず広島と長崎の惨状が思い浮かぶだろう。それに次いで多いのは、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の核開発や核実験ではないか?
確かに近年の北朝鮮の核開発・核実験は被爆者が許せるものではない。北朝鮮に対し、世界の大国は厳しく批判し、制裁も加えている。日本被団協も北海道被爆者協会も、当然だが、北朝鮮の核実験には厳しく抗議し続けてきた。
しかし、以下の数字を見ていただきたい。これは、2019年6月現在の世界各国の核弾頭保有数である(長崎大学核兵器廃絶センター調べ)。

2019年6月現在の世界各国の核弾頭保有数
広島県産業奨励館と爆心地付近
以上のようにロシアとアメリカの2国だけで北朝鮮の数百倍、全世界の9割の核弾頭を持っている現実があることを忘れてはいけない。核実験の回数も、ロシア(旧ソ連を含む)とアメリカは北朝鮮の100倍を超える回数の実験を行ってきた。これらの核兵器を持つ国は、まずは自分たちが持つ核兵器を大幅に減らすべきだろう。
被爆者は、核戦争の最初の被害者として、北朝鮮だけではなく、アメリカやロシアをはじめとする世界中の核兵器を無くすことを訴え続けて、世界中のどこの国の核実験にも抗議し続けてきた。核兵器に「良い核」はない。大規模な殺人や破壊を目的としたものでしかないことを、あの惨状を経験した被爆者は誰より身に染みて分かっている。


【核兵器禁止条約って?】

最盛期には、全世界で50000発の核兵器があったが、今は14000発弱まで減少した。 この理由は、核兵器を持つ国にとって危険でお金がかかることも否めないが、被爆者を先頭に人類滅亡の危機を感じた世界中の人々の批判が大きな役割を果たしたことも間違いない。2017年には、世界中の国の代表が集まる国際連合(国連)で、「核兵器禁止条約」が196ヶ国中122の国と地域の賛成で成立した。核兵器を使うことだけではなく、造ること、持つことを世界のすべて国で完全に禁止することを義務にするものだ。実際に使わなくても、核兵器を持つことによって脅かすこと(威嚇)も禁止にしたことは、とりわけ意味があることである。
国連に入っている国のうち、核兵器を持つ国を中心に何ヶ国かは反対したが、大多数の国が賛成した。国連で賛成した国が、その国内でも条約を認める手続き(批准)を50ヶ国以上で済ませば、その90日後に反対した国も含めて、正式に世界中の国が守るべき国際法となる。新しい時代に入ったというべきである。[2020年8月9日現在批准国は44か国になっている。]
被爆者の想いを受けて活動したICANが核兵器禁止条約の成立に大きく貢献したとして、2017年10月にノーベル平和賞が授与された。
ところが、広島と長崎に原爆を落とされ、核兵器の犠牲者が世界一多い国なのに日本の政府は、この条約に反対している。極めて残念なことである。
国連

 
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