アジア

2023.07.30

外国企業で進む「中国離れ」 口先とは裏腹の現実

shutterstock.com

一連の捜査によって生じた不確実性だけでも、外国からの投資を増やしたいという中国政府の意向を妨げているが、それだけではない。新型コロナウイルス感染症のパンデミックとその余波の中で中国当局が特に厳しいロックダウンと検疫を実施したことで、中国経済の信頼性に対するそれまでの評判に疑義が生じ、外国投資の場としての魅力が損なわれている。

また、中国の賃金が先進国やアジア諸国と比べて急速に上昇している事実は、さらなるマイナス要因となる。ドナルド・トランプ前米大統領が導入し、ジョー・バイデン大統領が維持している対中関税も、中国の魅力をいっそう低下させている。

これら諸々が相俟って、諸外国の実業家や投資家の間では、説明のつかない治安捜査はもちろん、独自技術を中国側パートナー企業と共有するよう外国企業に求めるなどの中国政府の政策を容認しない風潮が広がっている。

こうした懸念は、中国で事業を行う米国企業やその他外資企業を対象としたアンケート調査にもはっきりと表れている。在中国米国商工会議所が最近実施した調査では、調査開始から25年目にして初めて、中国が好ましい投資先の上位から転落した。調査結果は、「投資を拡大する意欲と戦略的優先度は低下している」と総括されている。在中国欧州商工会議所が行った調査でも、同様の企業マインドの変化が見られる。

それに伴い、日本、韓国、欧米のマネーは中国以外の投資先を求めている。かつて独立性が高くリベラルな「特別行政区」であった香港では、中国政府の統制強化に反発した数十社がシンガポールなど他のアジア地域に拠点を移した。米物流大手フェデックスもそのうちの1社だが、多くは金融関連企業だ。

また、海運業界専門誌『Freight Caviar』の非公式調査でも、中国から他のアジア諸国、特にインド、タイ、台湾、ベトナムに事業を移す予定の企業が70社ほどあり、大手企業の韓国サムスン電子と米アップルも含まれていることが明らかになった。

サムスンは中国で携帯電話を生産していた大規模工場を完全閉鎖し、中国国内での雇用を大幅削減した。現在、インドに世界最大の携帯電話工場を建設している。アップルも、完全閉鎖まではいかないものの一部事業の拠点をベトナムに、時計とiPadの事業をインドにそれぞれ移転する計画だ。

事態は明らかに中国に有利には進んでいない。外国企業の再考や逃避の動きは、おおむね中国指導部の動向を反映したものであり、自業自得とも言える。個々の、または一連の政策決定が問題なのではなく、むしろ中国の権威主義体制の結果である。この観点からすれば、中国政府が事態を好転させる方法を見いだすとは考えにくい。

forbes.com 原文

翻訳・編集=荻原藤緒

タグ:

ForbesBrandVoice

RECOMMENDED

人気記事

経済

2023.07.21

米国の輸入先、中国が15年ぶりに首位を失う

Getty Images

米国の輸入相手国ランキングで、これまで首位だった中国が、メキシコとカナダに抜かれ、3位に順位を落としたことがわかった。わずか5年前には米国における総輸入額の20%以上を占めていた中国が、驚くほど急落したかたちだ。

米国勢調査局の最新データによると、2023年1月から5月までの期間において、中国からの輸入額が、米国の総輸入額に占める割合は13.35%だった。一方でメキシコの割合は16%、カナダも15%に達した。中国は、14年間連続で守ってきた米国の輸入相手国トップの地位を明け渡したことになる。

中国にとっては、中国からの輸入品にひろく追加関税を課すトランプ政権の政策に加えて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的なパンデミックによって、原材料と完成品の両方に関して中国に過剰に依存するリスクが顕在化したことが、ダブルパンチになった格好だ。

現在、コロナ禍によるサプライチェーンへの影響はおおむね沈静化したものの、バイデン大統領は、トランプ前大統領が課した中国への追加関税をそのまま維持している。

2022年には、米国の貿易額(輸出入額の合計。以下の数字を含めて財のみでサービスは含まれず)が史上初めて5兆ドル(約700兆円)の大台を突破し、輸入額が3兆ドル、輸出額が2兆ドルを超えてどちらも過去最高を記録したが、中国は、こうした状況のなかでも相対的な地位を低下させたことになる。

最新データを見ると、2023年1~5月の米国の中国からの輸入額は1686億3000万ドル(約23兆5280億円)で、史上最高だった前年同期の2228億4000万ドル(約31兆910億円)から減少した。マイナス幅は実に24.42%に達する。同期間の米国の総輸入額が、前年比でマイナス5.67%にとどまっていることと比べると、その落ち込みは際立っている。

中国からの輸入額が大幅減になったことで、輸出入の両方で米国にとって最大の貿易パートナーとなったメキシコは、さらにその地位を確かなものとした。さらに、米国の貿易玄関口として、メキシコとの貿易拠点であるテキサス州ラレド(メキシコとの国境で最大の内陸港)も、トップの座を確実にした。これまで、空港と海港を合わせた米国の国際貿易拠点の取扱額ランキングで長く首位の座を保ってきたロサンゼルスと、中国からの輸入品が多くを占めていたシカゴ・オヘア空港を引き離したかたちだ。
次ページ > 下落傾向が最も顕著だったカテゴリー

翻訳=長谷 睦/ガリレオ

タグ:

ForbesBrandVoice

RECOMMENDED

人気記事