魔法科高校で変な本ばかり読んでる女の話   作:ねをんゆう

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【変な本達】

「……実技の授業、いる?」

 

「そりゃいるでしょ、酷い点数しか出ないのは分かってるけど」

 

放課後、廊下を歩いている詩織とエリカ。

今日も今日とて実技の授業は壊滅的だった詩織。2科生であるが故に誰かに強く言われるということも早々無いのだが、そうは言っても同じ作業を繰り返すのにも労力はいる。

疲れた顔をしている彼女はレオ達の様に何かしらに特化している訳でもなく、得意な分野がある訳でもない。つまり、実技の授業で良い思いをしたことなど一度もない。だからこそつまらないし、面倒にもなるし、本当に自分に魔法は向いていないのだなと自覚もさせられる。

 

「そもそも、あんたどうして魔法科高校に来たのよ。他のところの方が落ち着いて本でも読めたんじゃないの?」

 

「ここでしか読めない本がたくさんあるから」

 

「ああ、そういう……」

 

「変な論文とかあるといいなぁと思って」

 

「ある訳ないでしょそんなもの」

 

「いくつか見つけた」

 

「あるんかい」

 

「これとかお勧め。"100日間、魔法使用可のルールで本気でハイイロカンガルーと戦ってみた結果"」

 

「……論文なのよね?」

 

「うん。対象はオーストラリアの大草原地帯を縄張りにしている、最も気性が荒く強い個体。対するは過去に第一高校に在籍していた、1科生の中でもとても優秀な生徒。所属はマーシャル・マジック・アーツ部で、勝った方がその日の夕食が貰えるというルールで行った」

 

「馬鹿と天才は紙一重なのね」

 

「結果だけ言うと、100日後に最強のカンガルーが爆誕した」

 

「なにそれめちゃくちゃ気になる」

 

「全体的に読みやすくて面白い、個人的に傑作だと思ってる。読む?」

 

「私でも読めるの?」

 

「うん」

 

「ふ〜ん……まあ気が向いたら読んでみるわ」

 

そんな風におすすめの論文の話なんかをしていると、2人は校門の辺りまでやってくる。詩織は部活動には入っていないし、エリカもそれほど真面目にテニス部に通い詰めている訳でもない。このまま帰るのもなんだか味気ないというもの。

 

「……ねえ詩織、今からアンタの家行っていい?」

 

「ん、大丈夫。本しかないけど」

 

「いいわよ、色々あって面白いし」

 

「クライアンを迎えに行ってからね」

 

最近は昔のように文字の本に対しての妙な抵抗感も少なくなり、詩織に勧められたものであれば自然と眼を通すようになったエリカ。変われば変わるものである、人間は友人の影響というものを受けやすいらしい。

 

そこから大狼のクライアンを迎えに行くところまでは省くが、やはりというかなんというか、そのペットが通っているスクールを間近で見てみれば、エリカはこの女が普通に金を持っている部類の人間なのだと思い知らされた。

エリカとて千葉家の人間、生活に困っているということはない。しかし個人で活用できる額がどれほどあるかと言われれば、そこはまだ一般人の範疇だろう。

だがこの女は全ての金を自分で稼ぎ、自分で消費することが出来る。そうなるとやはり小さく細かな部分にさえ、自分達との違いを感じてしまうものだ。

こうなるとむしろ何故ペットスクールまでは徒歩なのか不思議にも思ってしまうが、彼女にとってはこれが1日の中で唯一の運動時間と言ってもいいため、口にするのはやめておいた方がいい事柄なのは間違いない。

 

「ってか、やっぱり大きいわね、こいつ。何食べたらこんなになるのよ」

 

「わふっ」

 

「たくさん食べる、食費だけで毎月30万円くらいする」

 

「嘘でしょ!?新卒の給与なら溶けてんじゃない!」

 

「ふるるっ」

 

「賢いし、優しいし、強い。それくらいなら安いほう」

 

「……まあ、価値観の相違なのかしら」

 

「スクール費とか他全部含めてもメイド1人の給与と同じくらいだから、むしろ妥当」

 

「むしろそっちの方が気になるんだけど!?そんなに待遇良いの!?アンタのとこ!?」

 

こうなったら、もし行く末に困ったら彼女の家で働くのもいいのではないかとすら思ってしまうエリカ。しかしもしその実情を知ってしまえば、彼女は直ぐに音を上げてしまうだろう。ただ待遇の良いだけの仕事というのは、コネ採用などを除けば、基本的にはないのだから。それは雇主への一定の敬意があれば、尚更に。

 

 

「グルルルッ……」

 

「あ……やばい」

 

「え?な、なに?あたしなんか変なこと言った!?」

 

エリカが声大きくツッコミを入れた瞬間に、これまで聞いたこともないような低い唸り声を上げながら歯を剥き出しにしたクライアン。自分より遥かに大きな獣の巨大な牙に、思わずエリカは詩織の服を掴む。

 

「………エリカ、下がって」

 

「だ、だからいきなり何なの!?」

 

「……ごめん、巻き込んだ」

 

「え?」

 

そこで気づく。

広くはない路地、少しだけ薄暗い。

夕焼けの空、人気はない。

……いや、人気が無さすぎる。

それはむしろ静か過ぎるくらいで、クライアンの背中から降りて来た詩織がエリカを守るように前に立った。更にそんな2人を守る様に大きな尻尾で包みこみ、威嚇を続けるクライアン。

 

こうまで条件が整えば、エリカとて何が起きているのか想像が出来る。

いや、むしろそういったことは、エリカが前に立つべき案件だ。こんな力のない、小さな少女に前に立たれるなど、千葉家の人間として許されることでもなければ、自分自身許せる展開でもない。エリカは詩織の肩に手を置く。

 

「……詩織、任せなさい」

 

「エリカ……?」

 

「知らないの?こういう荒事は私の得意分野なのよ?」

 

「…………危ないよ?」

 

「上等よ、その子も手伝ってくれるんでしょ?」

 

「わふっ」

 

エリカが取り出したのは、形状記憶棍刀と呼ばれる千葉家が作り出した武装一体型のCAD。警察でも正式採用されているそれは、正しく彼女がどの様な戦い方をするのか示した様な物である。

 

(さて、そうは言ったものの……)

 

言葉で発したほどに容易い状況でないことを、エリカは知っている。

 

(敵が見えない、人払いをされているのは分かる。なんの変哲もない一本道、何が目的かは知らないけど、挟み撃ちをされてないなんてことは先ずないでしょ。つまり敵は複数人)

 

耳で足音らしきものは聞こえるが、それも微小な物。視界には何も映っていないし、クライアンも恐らくは嗅覚でそれを察知したのだろう。狙いは詩織か、はたまた彼女の持っている本か何かか。どちらにしても、後手に回らざるを得ない状況に居るのは確かだ。

 

「大丈夫、任せて」

 

「?」

 

しかしこの状況においても全くの冷静でいた詩織は、どこからどう見ても戦闘には何の役にも立ちそうにない詩織は、むしろここで自信を持って前に出る。……1冊の本をその胸に抱いて。

 

「詩織、なにする気?」

 

「タイトル、『魔装兵器ダグリオンは鮮血のお風呂に入りたい』」

 

「へ?………ひやぁあっっ!?!?!?」

 

クライアンに持たせていた鞄の中から取り出した比較的大きなその一冊を、詩織は地面へと粗雑に放り投げる。彼女にしてはあまりに珍しいその光景は、地面に衝突した瞬間に重苦しい重厚な金属音を立てると同時に、とんでもない地獄へと生まれ変わった。

 

「GO、魔装兵器ダグリオン」

 

「な、な、な、な、なにこれぇえっ!?!?」

 

突如として、本の中から金属製の細い脚が6×2の計12本現れる。するとそれに呼応する様に奇妙な赤い眼玉が2つ剥き出しになり、凄まじい勢いで床を走り始める。壁を登り、時には跳び、まるで鋼で出来た大蜘蛛の様にすっ飛んで行くそれ。カチカチカチカチと高速の足音を立てながら、見ているだけでも悍しい軌道で見えない何かに近付いていくその姿。エリカがかつて見たことのある特撮ホラーにも、なんかそんなものがあった気がする。

 

「「「うわぁぁああっ!?!?!?」」」

 

「なっ、なんだこいつ!?!?」

 

聞こえて来る男達の悲鳴。

放たれる銃声、魔法。

見える混乱、感じる恐怖。

しかしそれも束の間。驚愕のあまり魔法を解いてしまい、漸く目に見える姿を現した拳銃を持った男のその身体に、全ての攻撃を避けながら謎の金属生命体は張り付いた。そして鋼の針の様な脚で全身を這いずり回りながら、何度も何度も脚で肉体を突き刺し、引き裂き、切り刻む。上がる悲鳴、飛ぶ鮮血、鳴り響く金属音。1人の人間が徹底的に凌辱されていく。エリカも含めて恐怖が伝達されていく。

 

「次。タイトル、『ペンは剣よりも強いと証明するためにアマゾンへ潜ったことは間違いだったろうか』」

 

「いやそれは間違いでしょ……って、ひあぁあっ!?」

 

先程のものよりまた一回り大きなその本を今度はクライアンの口に噛ませれば、それは即座に変型を始め、剣なのかペンなのかよく分からない大型の棒状の物体に変形する。クライアンはそれを使い慣れた様に噛み直すと、詩織の指示を待って体勢を作った。

 

「クライアン、GO」

 

「ガァウッ!!」

 

 

「なんかまた来たぁぁああ!?!?!?」

 

「な、なんだこいつ!?俺の魔法が吹き飛ばされ……ぐはっ!?」

 

「やめろおお!!もう刺すなぁあ!!痛い痛い痛い痛い痛いんだぁああ!!!!!」

 

 

 

「……なにこの地獄絵図」

 

「今日のおすすめ」

 

「こんなおすすめある?」

 

大きな棒を振り回し、魔法を使わせる暇も与えることなく男達を蹂躙するクライアン。一振りで成人男性を軽く数mは吹き飛ばし、規模の小さな魔法程度ならば強引に振り払って、消し飛ばす。

一方で謎の金属生命体は銃を持っていた人間達を中心に襲い、それを奪い取っては自身の中へと格納していく。そしてそれだけでは飽きたらず、まだ服の中に隠していないかと這いずり回り、鞄も荷物も全て突き刺しCADすら破壊し、徹底的に調べ尽くしているのだから最悪だ。刃物の様な12本の脚に突き刺され、被害者達は涙を流して許しを乞うている。

 

「う、うわぁあああ!!!!この野郎ぉおお!!」

 

「エリカ、お願い」

 

「はいはい……っての!!」

 

混乱の中、完全に思考を失い、刃物型のCADを持って詩織に襲い掛かって来た1人が居た。エリカはそれを容易く打ち払い、顔面に棍刀を叩き付けて気絶させる。……どうも、エリカの仕事はこれで終わりらしい。

全員が気絶したのを確認し、男達を1箇所に纏め始めるクライアン。一方で今もザクザクと男達の荷物を漁っている謎の金属生命体。詩織は何事もなかった様にそれらに近付いていくのだが、エリカとしては目の前でこんなものを見せられて、むしろ詩織を引き離したい気分だった。

……特にその金属生命体、それだけは明らかに普通ではない。クライアンが持っていた武器はまだしも、こっちは間違いなくこの世に存在してはならない異物だろう。というか存在して欲しくない。絶対に普及して欲しくない。同じ物が二つ以上存在していて欲しくない。

 

「『ああ良かった、今日もダグリオンのおかげで市民の平和は守られた。ありがとうダグリオン、かっこいいぞダグリオン、もう来ないでくれダグリオン。明日の君を、違う世界の誰かが待っている』」

 

「!…………ーーーーーー。」

 

詩織が発したよく分からない呪文の様なそれを聞いた途端に、自慢の脚達を仕舞い込み、元の本の姿へと戻っていく金属生命体。

詩織はそれを重そうに拾い上げると、元通りにクライアンの鞄の中へと仕舞い込む。クライアンが武器にしていた棒もいつの間にか本の姿に戻っており、クライアンが自分で鞄の中に仕舞い込んでいたらしい。利巧な犬だ。今はそれどころではないけれど。

 

「……あー、詩織?」

 

「ん?」

 

「色々聞きたいことはあるけど……一先ず、これでもう大丈夫なのよね?」

 

「うん、そうみたい。ありがとうエリカ、助かった」

 

「これ私別に要らなかったでしょ。……それより」

 

危険が去ったのなら、聞きたいことも好きなだけ聞ける。

 

「さっきの、何……?」

 

「?どれのこと?」

 

「うん、そうね、ほんとどれのことから聞けば良いのかしら……とりあえずあれ、あのヤバそうな蜘蛛みたいなの。あれなに?」

 

今はもうクライアンの掛けている可愛い大きな鞄の中に仕舞われたそれ。しかし今もエリカの頭の中からはアレが動いていた時の光景が離れないでいる。あまりに衝撃的過ぎたからだ。正直、あれ一つで映画一本は撮れる。

 

「魔装兵器ダグリオン」

 

「うん、だからなにそれ」

 

「2000年代初頭にローカルな雑誌の中で掲載されてた微妙な漫画。あらすじは、主人公は古びた遺跡の中で魔装兵器ダグリオンと出会い、世界征服を狙う大組織デローンと激しい戦いを繰り広げる、って感じ。1年保たずに打ち切りになった」

 

「うん、それで?」

 

「これはそのダグリオンを忠実に再現した凄い物。原作にあった変形機能と優秀な人工知能を搭載してる」

 

「……人殺しそうだったんだけど」

 

「人工知能が優秀だから、そんなことはしない。原作通りに銃火器を集めていて、それを自分の整備や稼働エネルギーに回してる」

 

「それかなり凄い戦闘ロボットじゃない?」

 

「うん、それに正義の味方だから。銃型のCADも許さない」

 

「それあたしが持ってたらやばかったってことよね!?」

 

「うん」

 

「うんじゃないわよ!」

 

「これを持ってる日は汎用型しか持ち歩かない」

 

「アンタも制限されてんじゃない!!」

 

危うくあの男達と同じ目に遭っていたかもしれないと思うと、エリカは寒気がして来る。あんな気色の悪い生物に身体を這いずり回られるなど、普通に拷問である。完全に根絶しなければならないタイプの敵兵だろう。仮に最後に詩織が発した台詞が原作のものだったとしても、"もう来ないでくれ"とか言われている訳なのだし。他の世界への移動を望まれているほどなのだし。

 

「はぁ……もう一冊の方は?」

 

「ペンは剣よりも強いと証明するためにアマゾンへ潜ったことは間違いだったろうか」

 

「うん、だから間違いでしょ」

 

「それの売上100万部突破記念に作られた、この作品を象徴する武器」

 

「ごめん、なに?どういうこと?」

 

「ペンよりも剣よりも大きな棍棒の方が強いって、作者はアマゾンの中で気付いた。だから本が変形して棍棒になるこの武器が、この本の象徴」

 

「もう何言ってるのか全く意味分からないし、その強い弱いの基準が完全にアマゾン基準になってる時点で、人として劣化してんじゃない?」

 

「ペンや剣よりも大きくて長い棍棒の方が強いし、それと同じくらい本というのは素晴らしい」

 

「だから一緒くたにしちゃえってのは馬鹿の発想でしょ」

 

何はともあれ、事態は一件落着。

そして詩織はある程度自衛の手段を持っているということも分かり、エリカとしては安心した。後の問題は……

 

「こいつらどうする?そもそもなんで詩織が襲われるわけ?」

 

「お金?」

 

「ああ、まあそうね」

 

「貴重な本も持ってるから、仕方ない」

 

「仕方なくはないでしょ、異常だっての。……こうなったらうちの人間に連絡して、回収して貰うわ」

 

「大丈夫、後で回収して貰えるから」

 

「……誰に?」

 

「挟み討ちにならないようにしてくれてた人達」

 

「っ!」

 

エリカは振り返る。

自分自身でも考えたことだ、こういったシチュエーションならばまず間違いなく前後から仕掛けて来る筈だと。だからこそ、複数人が相手なのは間違いないと。

しかし実際には前方からしか敵は来なかった訳で、クライアンも後方については反応をしていなかった。そして詩織のこの反応、まるで最初からそうなることが分かっていたようで。

 

「……誰なの、それ?」

 

「言えない、契約だから」

 

「信用できるのね?」

 

「うん、大丈夫」

 

「……そう、それならもう聞かないわ」

 

相対した敵は5人、単純に考えて襲撃者はその2倍。全員が成人男性で構成されたチームで、拳銃や魔法により何らかの手段で人払いをしてでも襲い掛かって来た。

これが失敗したのは、単純に相手の情報不足だったのか、それとも今日詩織が持っていた対抗手段を相手が知らなかったからなのか。それとも、事前に敵の戦力が削ぎ落とされていたからなのか。

……少なくとも、1人の少女を狙うと考えれば過剰な戦力。それだけの価値が詩織にはあり、それだけの規模の相手に詩織が狙われているということに他ならない。そして詩織の背後には、それだけの相手に対抗出来る何かが居るということも。

 

「……詩織、明日から送るわよ」

 

「いいの?危ないよ」

 

「あのね、知ってる人間が毎日襲われてるってのに無視出来る訳ないでしょ。その子を迎えに行くまではアンタ1人なんでしょ?」

 

「うん、近いから」

 

「危ないでしょうが、どうしてこういう時に限って車使わないの」

 

「前に爆弾仕込まれたから」

 

「…………」

 

「…………」

 

ちょっと洒落にならない話が出て来た。

 

「でもほら、狙撃とか……」

 

「タイトル、『硝子(ガラス)越しの見えない君へ蟹を届ける日』」

 

「……なにこれ」

 

「持ってる人間が硝子やレンズ越しに見えなくなる本」

 

「だからどんな本なのよ……!!」

 

「他にも、タイトル、『スーパー・ライジング・サンダリオン6月号』」

 

「今度は何?」

 

「ここがテーザーガンになってる」

 

「それなら普通のテーザーガンの方がまだ小さ……ああ、銃型だとアレに襲われるのね。ちょっと頭痛くなって来た」

 

「これはタイトル、『Fragment -極星のテンタクルス-』。懐に入れておくと近くに発射された銃弾が何故かこれに着弾する様になる。主人公が章に1度は銃弾を受けて生き残ることが馬鹿にされてた作品だから、多分それが原因」

 

「ごめん、それ全然原因になってないから」

 

なぜそうホイホイと変な本ばかり取り出してくるのか。普段から10冊程度の本を持ち歩いているという詩織。何をそんなにたくさん持ち歩いているのかと思えば、どうやらそういう理由だったらしい。

 

「色々対策してるから、大丈夫。それに高校に入ってまだ2回目だから、そんなに頻繁にある訳じゃない」

 

それを聞き、てっきり毎日のように襲われているかと思っていたエリカは、少し肩透かしを食らう。しかし一度は口にしたこと、撤回するのは女が廃るというもの。

 

「いいから、あたしに送らせなさい。いいわね?」

 

「……うん、ありがとうエリカ」

 

「別に、お礼を言われるほどのことじゃないわよ」

 

「クライアンの散歩にも付き合ってくれるなんて」

 

「え?」

 

しかし直後、エリカはその自分の言葉を否定したくなった。

 

「毎日大体10kmくらい、20〜30分程度」

 

「え……あ、いや、その……」

 

「時速30kmくらいだけど、頑張って付いてきてね」

 

「いや!流石にそれはキツ……っ!!!」

 

この後、エリカが自己加速魔法を使いながら犬を追いかけて街中を走り回っている姿をクラスメイトに見られるなどしたが、一先ず、"毎日"一緒に帰るという話はなかったことになった。


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