ただのヤバい人が怪人になっちゃった話(仮)   作:ランバージャック

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7月2日18時。サンライズコーポ金輪

 翌日、俺はマジで無為に過ごしていた。昨日繰り広げられた怪人バトルの影響で芙蓉町は厳戒態勢が布かれ、あの一画は全面立ち入り禁止。花菱市への幹線道路でも効果が有るか不明の検閲が行われる等、泡を食った大騒ぎだ。流石の俺でも暫く隠れた方が良さそうってなモンで、本日は元気一杯に目覚めた後は筋トレとニュースなんかを漁っていたが、一通り終われば殺風景な部屋に俺が一人、暇なんだ。マジで。

 

 俺が川に送り出した女達は、昼には引き揚げられ、夕方には一人残らず氏名が割れていた。ソファに寝転びながら見てたテレビで、小さなニュースが流れた。婦女監禁暴行後殺害。冷静に並べてみると、まぁワイドショーでは扱えそうに無い内容だ。

 

 アイスを頬張りながら、昨日を回想する。子供なんかそんなに欲しい存在か?奴ら狂った様な奇声を突然出すし、店の床で寝転ぶし、養う為に金もあほ程掛かるわ、マトモな形で産まれるか、マトモな人間に成るかも不明の爆弾みたいな連中だぞ。俺を見てみろ、何度母親から『産まなきゃ良かった』って言われたか分からない。こればっかりは俺も彼女に同意してたし、同情もした。けど、自分らが作ったガキにそれ言っちゃお終いじゃん、と気付いてからは、母親を殴ることを覚えたからどっこい……いや、俺が母親の首を絞める遊びを覚えたのがそもそもの始まりだったっけ?そこら辺すっかり忘れちまったな。聞こうにも、もうこの世に居ないのが悔やまれる、マジで役に立たねぇなアイツら。

 

 アイススティックをゴミ箱に突っ込むと、がちゃりと玄関ドアが開く音がした。酒瓶が詰まった箱を抱えた髭面と目が合った。誰だっけ、コイツ。

 

 「高田か」

 

 「……お前かよ」

 

 高田太、二十八歳。太った豚だ。汗臭さとタバコ臭さのミックス、典型的なまでに独り身感の強い奴だ。どっかに消臭剤は無いのか、コイツに頭から振り掛けてやりたい。根本的に洗濯ってヤツを知らないんだ。

 

 「花菱で随分と派手にやったみたいだな。お陰で卸先が一つ無くなったぞ」

 

 「そりゃ悪かったな。でも、こういうのが新しいビジネスに繋がるかも知れないだろ?ポジティブに捉えろ」

 

 「気楽で良いな、働いてないヤツは」

 

 高田は、言うだけ言って酒をリビングに運ぶ作業に取り掛かった。

 

 「今はお前らの為に働いてるだろ?金くれよ。昨日服を駄目にしちまったからな」

 

 持ち帰った服は、一晩明けて更なる激臭を放つ様になっていた。適当なビニールに突っ込んで窓の外に放置してあるが、夏の太陽を浴び続けてとんでもない存在へ進化しそうだ。

 

 「……昨日は何人殺した?芙蓉町を巻き込んで、次は何処だよ。意識が無い獣だった頃の方が、まだ可愛げあったよな?お前は根っからのイカレ野郎だよ」

 

 胸倉を掴まれ、向き合う形となった。昨日から臭いモンに縁があり過ぎる。

 

 「全くその通り。だけど中途半端に人類の味方気取るなら、とっとと自分で首括れよ。その方が為になると思わないか?俺は何だかんだで楽しくやらせて貰ってるけどな」

 

 此方を掴むぶくぶくと醜く太ったハム腕を握り返してやると、ぼきりと音が響いてヤツの手首が砕けた。握力の高まりを感じるな。

 蹲って手首の再生に百面相を見せる高田を置いて、もう一度ソファに座り直す。またシャツが駄目になった。

 

 「なぁ、お前らってガキ作りたいとか考えるワケ?」

 

 「……何だよ。急に」

 

 「平川の下流で女三人の死体が揚がったっての見たか?アレ俺が流したんだよ。……そんな顔すんなって。連中、死ぬよりヒデェ目に遭ってたから楽にしてやっただけだ」

 

 高田は黙って俺と視線を合わせたままだ。真面目なコイツの顔は、吹き出しそうになる。

 

 「澤田竜二と愉快な仲間達に監禁されてたって話だよ。アイツどうにも子供が欲しかったらしいぜ?……で、どうなの?お前子供作りたい、繁殖したいとか考えるワケ?」

 

 「……そんな事が……、そうか……」

 

 一転して悲痛な面持ちとなった高田は、頭を振ってガシガシと頭を掻いた。おもしれぇな、コイツ。顎の肉が揺れるから、どんな表情しててもギャグになるんだもん。

 

 「俺には如何して母親が俺を産んだのか、とうとう理解出来なかったよ。親父が突っ込んだから産まれたって、単純な理由は無いだろう?特に今は、妊娠を防ぐ遣り方なんか無数にあるし、妊娠してても殺す方法もあったワケだろ?その金が無いなら棄てるのもあったワケだ。労働力や家名を継がせるみたいな理由も無いのに、如何してガキなんか作る必要があるよ。……お前らはどう思う?お前らのいた世界ではどうだったんだ?」

 

 高田は珍しい生物でも見る様な目で俺を見てくる。

 

 「……誰だって、自分の子供を欲しがるものだろ。家族を作るってのはそういう事だ。愛情が有って……俺たちにも結婚って文化は有ったさ。お前らにも有るんだろう?」

 

 「親父は母親を殴ってたぞ。思えばアレが転機だったな、母親を殴る楽しみは親父が教えてくれたし、そこから親父を殴る楽しみも生まれたからな」

 

 「お前は両親さえそんなのかよ、マトモなガキが育たないワケだ」

 

 もう一度、玄関ドアが開く音がした。どたどたと音を立てて相坂がやって来た。見事なまでに眉毛が逆立ちしている。

 

 「よっ、お前も一緒にお話ししようぜ。女攫ってでも子作りしたい澤田の考察だ」

 


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