ただのヤバい人が怪人になっちゃった話(仮)   作:ランバージャック

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6月29日の深夜、そして朝

 風呂に入り、ほかほかでぴかぴかな体となった俺は、リビングルームに80’sステップを刻みながら突入した。そのまま冷蔵庫を開け、牛乳パックを取り出し一気だ。これが火照った体に最高に効く。さて、後は歯磨いて寝るだけだ。なんて考えていたら、ウンザリした顔で床を掃除していた相坂と目が合うハメになった。そういや、この部屋は誰が賃料を払っているんだろうな。とにかく、可哀想に、敷金くん。

 

 「ねぇ、手伝ってよ。アンタが原因でもあるんだからさ」

 「やだね。元はと言えば、あのイカレ女だ。問答無用で俺の腕溶かしやがって。カノンちゃんも、あんなヤベー奴が居んなら先言っといてくれよ」

 

 空になった牛乳パックをゴミ箱に放り込み、俺はとっとと会話を切ろうとしたが、相坂は立ち上がって俺のとこまで回り込んで来た。

 

 「薫さんのことは許してあげて、って言うか……アンタは薫さんに、一発殴られるだけのことをしてるんだよ?」

 

 コイツ何言ってんだ?……城戸の嘆きもちょっとは分かる気がした。

 

 「俺が黙って頰を差し出すM豚野郎に見えるか?アイツに言っとけ、ユキちゃんとやらを殺したのは俺で間違いない。今度からは名前を聞いてから殺す」

 

 俺は唖然とする相坂の横を通り抜け、血で湿ったソファに、どっかりと横になった。なんか歯磨きする気分じゃない、朝でいいや。何なら生え変わったばかりだしな。

 目を瞑った俺は、隣で態とらしく音を立てて掃除を再開した相坂を子守唄に、眠りに落ちていった。

 

 

♦︎ ♦︎ ♦︎

 

 

 翌朝、めちゃ健康的に七時に起きた。ぎゅんぎゅん体を動かして、冷えた血を温め、シャワー、歯磨き、朝食は……怪人の朝飯って何なんだ?

 

 「シリアル」

 

 相坂の答えである。昨日は此処に泊まっていた様だ。見回せば、食卓には相坂、俺、後イカレ女の布陣だ。楽しいねぇ。

 イカレ女、牧村薫に睨みつけられ、俺は肩を竦めた。昨日コイツの肝臓食ってやったけど、結構元気してるじゃん。肝臓って再生し易い臓器だったにしても、丸々一個食ったらさすがに再生もクソもないかと思ったが……。

 

 「昨日はあれからどうしたよ?朝飯食えんの?お粥にしとけば?」

 「アンタの腕食って、肝臓は治したわ。最低の味だったけどね」

 

 歯を剥いてきやがった。怪人の再生能力は思った以上に凄いらしい。と、同時に、コイツはコイツであの後、俺の切り落とした腕をもそもそ食べてたかと思うと、クソ笑える。

 

 「……えーっと、そう!アンタにやってもらいたい事があるの」

 

 剣呑な食卓風景に耐え切れなくなったのか、相坂は大声を上げ、俺に向き直った。

 

 「元々はアンタに原因があるんだけどさ、この所、花菱にいる連中が金輪に潜り込んで、人を攫ったり、アタシ達の仲間を襲ってるの」

 「花菱にも此処と同じ様な集まりがあるってか?」

 「もっと過激な連中だよ。澤田竜二か、『レイジ』っての聞いたことある?」

 

 澤田竜二は知らないが、『レイジ』は知ってる名前だった。多分、地元の人間なら知らない奴は居ないんじゃないか?オレンジ色の何かしらを身に着けるのがトレードマークの、一つも良い噂を聞かない連中で、部屋の中で植物を育てたり、女の子に簡単で稼げる職を紹介したり、マンションの一室にポーカーテーブルを設置して、人を呼んだり。まぁ、俺が知ってるのは全部噂だが、火の無い所に何とやら、って言葉もあるしな。

 

 「アイツらは捕まってないだけで、人間の犯罪者集団だろ?……待て、アイツらを取り仕切ってるのが怪人で、それが澤田竜二か」

 「ウン、正確には『レイジ』の幹部とかにも、怪人がいるってカンジかな。それが花菱で一番おっきな力を持ってるグループ」

 

 成る程、木を隠すなら森の中、怪人を隠すなら犯罪者集団。ウーン、これは賢い。

 

 「で、俺が原因とやらは?」

 「アンタが深山で暴れた所為よ」

 

 久し振りに喋ったと思ったら、地の底みたいな声出しやがる。やっぱコイツおもしれーわ。

 

 「……えっと、いい?金輪市に住んでる怪人は、此処の他にもいるんだけど、その大半は人間を襲おうとか、考えてないんだ。それに対して『レイジ』は納得してたんだけど、アンタが現れた。で、その影響で自衛隊の……『災害派遣』で、送られて来た人が花菱も金輪も巡回するようになった。ホラ、見たことない?装甲車が走ってるの。正直、市街地での戦闘が禁止されてるみたいで、効果が上がってるのかは分からないんだけど……。でもアタシたちも『レイジ』も、動きが鈍くなっちゃったのは確か。アイツらはそれをこっちの監督問題だ、ってことで圧をかけてきてる。……正直、アイツらの方が先に花菱で派手にやってたから、時間の問題だったと思ってるけど」

 

 吐き捨てる様に言って、相坂は野菜ジュースを一気飲みした。

しかし、団子虫に蛇(推定)、男(アイツ結局名前訊いてねぇ)、城戸、相坂。城戸はその辺のチンケな連中には負けなさそうだが、兵隊がどう見ても足りねぇな。何処にも所属してない即戦力なら、喉から手が出る程欲しいのは、どんな業界も一緒だな。

 

 「じゃあその、『レイジ』をぶっ潰せば万事解決か。……お前らが俺に接触した理由はそこか……。いいぜ、殺しても何の問題もなさそうな連中だ。街の平和を守るのも怪人の仕事だな」

 

 二人からは思いきり嫌な顔をされた。しかし、あれは自衛隊だったか。機銃で鱗を剥がされた身としては、脅威を感じずには要られないが、市街地での戦闘行為が禁じられているなら……もっと情報を集めつつ、だ。北米の連中をやった軍隊の武装を調べても面白いかもしれない。ニュースサイトや新聞のアーカイブ、アホな翻訳サイトにぶち込んでも、大体のニュアンスが掴めればよし、或いは日本の軍事オタク君。漁れば出てくるよな?

 後は澤田竜二に『レイジ』。

 

 「『レイジ』なんて無くなっても誰も悲しまないけど、彼等には人間もいる。私達がやらなきゃいけないのは、現場を押さえて幹部を呼び出し、金輪に二度と入れなくなるくらい痛めつける事。……アンタ、また無差別に殺す気なんでしょ。昨日の、ニュースになってるわよ」

 

 牧村の投げ寄越した携帯には、どっかのニュースサイトが表示されていた。『真夜中の犯行。深山の怪人の犠牲者増える』『花菱ショッピングモールも被害に、監視カメラに映った凶行』。ところで、俺はこの携帯をバキバキに割って、この女のケツに詰める事を思いついた。イヌイットがやるって言うアレだ。いつかやる事の、チェックリストに入れとこう。

 

 「やるなら徹底的な方が良い。当事者が残らなけりゃ、禍根は残らない……そうだろ?」

 「今どういう状況かわかってる!?こんな状況でまた人死や行方不明者なんか出たら……!」

   

 俺は牧村の柔らかな脇腹に思い切り顔を押し付けて深呼吸した。

 

 「やめて!」

  

 椅子が思い切り引かれる音、牧村は青くなって床に転がってた。奇しくも昨日と同じ形だ。気づけば、相坂は立ち上がってこっちを睨みつけてる。

 

 「サイッテー……立てる?薫さん」

 

 相坂は床にへたり込んだ牧村に手を貸して、俺はそれを写真で撮った。

 

 「……ブッ殺される。そんなモンでいいだろ、俺達。それとも長く生きるのか?子供の顔すら見れねぇ体で」

 

 回答代わりの平手打ちを俺に見舞って、相坂と牧村は連れ立って出て行った。

 

 相坂と牧村がそれぞれ高校と職場に出かけた後、俺は城戸の部屋で、勝手にヤツのノートパソコンを弄っていた。予想通りだが、澤田竜二にはSNSアカウントが存在していた。画像系も呟き系も網羅してるし、どっちも実名のストロングスタイルだ。ついでに本業も判明した。今時如何かと思うが、地域密着系の風俗情報サイト運営に携わっているらしい。

 腕立てしながら、まずは画像系から閲覧していく。氷に突っ込んだシャンパン、飯の写真に女の写真、上から下までブランドの、ありがちで下品な自撮り。中々羽振りがいいみたいで何よりだ。さて、お目当の写真はあるかね?こうもテンプレ野郎だと、無い事が信じられないが……。

 

 「あった。ウゥー……」

 

 『仲間と』なんてハッシュタグ付けて、バーベキューの写真載せてやがる。ちょっと上手く行き過ぎて、胸焼けまでしてくる始末だ。どいつもこいつも、アホ面引っ提げて、元気なこった。複数枚の写真をダウンロードし、改めて画像編集アプリでオレンジ色の物を身に着けた連中にチェックを付け、そのまま加工画像を相坂にブン投げる。『こん中に知り合い居ないか周りに訊いとけ』の、メッセージと共に。

俺の方でも一応は見ておくか、さすがに俺の知り合いだったり元同級生に、こんなアホの集まりに参加する様な人間がいるとは思えないが……。

 

 「……あー、コレ浅田くんじゃん」

 

 中学の同級生がいた。高校の時引き篭もりになったって聞いたけど、元気そうじゃん。髪めっちゃ短くしたのね、ボウズよそれはもう。数年の時を経て再開した、浅田浩平くんはやっぱりタレ目だった。ちょっと口角が上がる。

 

 確認すべき仕事は終わった。トレーニングの汗を流して、金輪図書館に行こう。誰のか分からない原付が一台停めてあった筈だし、免許は無くしたが、取った事はある。盗品のサングラスを掛けて出発だ。

 





色々とガバい設定が続きます

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