ただのヤバい人が怪人になっちゃった話(仮)   作:ランバージャック

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?月?日21時から22時半の間位?

 花菱ショッピングモールの屋上で、俺は一旦人に戻っていた。

 

 「毎回靴のサイズ忘れんだよなー……アァッ!滅びろUS規格!」

 

 眼下に黒く広がる田畑に向かって、サイズ違いの靴を投げ飛ばす。盗ったばかりの靴が弧を描きながら、闇の中の点となって、泥の中に落ちる滑った音を聴くと、愉快な遊びを思いついた。暫くの間俺は、飛んだ靴の飛距離、描いた弧の優美さ、落下音の間抜けさを総合的に評価する、一人靴投げ選手権に没頭した。

 最後の靴を投げ終え、残った靴を改めて収めていると、夜中の田舎道を凄まじいスピードで突っ切る装甲車が見えた。こっちに向かって来ている様だ。……そう言えば見覚えがある。俺が野生生活を満喫している頃の記憶だが、あそこから出て来た銃を持った連中に、散々追い掛け回されたのだ。 

 最も、銃持ちの連中はそこまで脅威ではない。問題は装甲車に鎮座する機銃だ。アイツに撃たれると、鱗が吹き飛んで多少肉を抉られた覚えがある。何とも苦い記憶だし、日本も物騒になったモンだ。

 相手すんのも面倒だ。そのまま俺は、二つのバックパックを持って再びトカゲ君へと変貌した。骨が太く延びていく感触が堪らなく、気持ちいい。そうして、駐車場に停めてあるクッションに向かって、真っ逆さまのダイブを敢行した。

 

 

♦︎ ♦︎ ♦︎

 

 

 「ねぇ、アンタがリザード?」

 

 俺がそんな声を聞いたのは再び人間へ戻り、平川沿いの工場街をだらだらと歩いている時だった。もちろん無警戒に歩いていた訳じゃない、何しろ裸で歩いていた訳だし誰よりも慎重だった。にも関わらず、その女は突然生えてきたかのように俺の前方に出現した。158センチ。幼さの残る顔立ちに重めのボブ、そして重要点として人間の匂いはしない。

 

 「そんな呼び名は知らねぇけど、俺は藤堂海斗。多分怪人一年生だ」

 「ちょっと!何で裸なの?信じらんない!」

 「別にいいじゃねーか。ここら辺は人通りが少ないし、裸で歩いてもバレやしないって」

 

 女は溜息と悪態を同時に出したような声を上げ、携帯を取り出した。何処かに連絡をするようだ。 

 ところで、俺は結構穏やかな心持ちだった。この女の不自然な登場の仕方と十代の風貌の割に、人の匂いがしない点に、思わず舌を出しかけたが、同類という可能性を考え保留したのだ。敵意も特に感じないし、これから来るであろうこいつの仲間の下で、シャワーぐらいは浴びられるかもしれない。

 

 「なぁ、お前名前は?ジョシコーセー?」

 「……相坂奏音、歳は17。って言うかホントに野良だったんだね」

 「野良?」

 

 確かに俺は今まで路上生活者同然だった訳だが、また別のニュアンスのようだ。

 

 「えぇっと、アタシたちみたいな連中って基本的にチームを組んでるって言えばいいのかな」

 「怪人同士のコミュニティがあるって感じか?つまり、これから来る連中に俺は何らかの形で保護されて……、代わりに仲間に加われって?」

 「そ、悪い話じゃないと思うよ。住処も提供するし……。あっ、来たっぽいね。じゃあ今はコレ渡しとくね」

 

 ひょいと投げられた携帯をキャッチする。俺用ってことらしい。電源もバッチリ点いて、アンテナもビンビンだ。怪人って携帯契約も口座開設も出来るのかね、無敵じゃん。

 そして女の言葉通りにバンが来た。真っ黒くてスモークガラスまで完備の、銀行強盗か誘拐犯御用達の素敵仕様だ。躊躇う事なく開けたドアの内側から皮脂と煙草の、ロクでもねぇ男のクソみたいな臭いが漂って来て、思わず顔を顰めた。

 

 「よォ、運転手さん。深夜までご苦労サン、ところでこの臭いはどうにかなんねーの?」

 「よぉ、リザード。何でお前裸なんだ!?」

 

 こうして俺は人類の敵として社会復帰を果たした。人生何があるか分からない。ホントマジでそう思う。

 

 「カノンちゃん笑ってー……おっし、いいねー」

 「ハ?ちょっと何撮ってんの?ソレ消して!」

 「記念日だよ記念日。こういうモンをキッチリ記録しとかねーと……。おっさーん、あんたも写すよー」

 

 

♦︎ ♦︎ ♦︎

 

 

 車内で散々服を着ろと言われたので最大限譲歩してパン1となった男、それが俺だ。

 

 「にしても、まさか一年経ってるとはな」

 

 携帯のロック画面に表記された日付は六月の二十八日、俺が野生化してから一月ちょっとか。なんて感慨に耽っていたら、よくよく見たら年数が一つ繰り上がっていて滅茶苦茶ビビった。マジかよ。通りで抵抗なく野生生物の踊り食いが出来るのか。

 

 「ふーん。意識がないまま一年間野生で過ごしてたかー……、そんなのありえんの?ねぇ、高田さん」

 「オレも聞いたことないけど……。なぁ奏音ちゃん、コイツやっぱ危ねぇって。深山地区を血祭りにしたのもコイツだろ?それに素っ裸で夜道歩くヤツがまともな訳ねぇって」

 「コイツがまともじゃないのは散々知ってるけどさぁ、城戸さんの頼みなんだよ?」

 「深山……、深山……。あぁ!なんか住宅街をメタクソにした記憶があるわ。あれ深山なのか!」

 

 俺が目覚めたあの宝橋を渡ると、深山地区へと至る。深山地区には、俺が元気に通学していた大学の他に、山の斜面沿いに複数の住宅が並び立つ場所がある。その区画ごとかなり計画的に建てられ、道路の素材からして、しみったれたアスファルトなんかと違う。だから、高級住宅街なんて呼ばれ方もされたりしている。しかし、彼処か……。

 

 「五、六人殺った。違うか?」

 「三十八人だよ。深山の高級住宅街十八棟を襲ってお前はそんだけの人数を殺した」

 

 俺はピューと口笛を吹いた。そう言われてもここ一年の記憶は酷く曖昧なのだ。確かに深山の高級住宅街と思しき場所で、子供の頭を舐めしゃぶりながら家々の壁を破った記憶があるが、三十八なんて半端な人数を殺したかどうかは覚えていない。

 

「お前ホントはオレ達が殺してたんだぜ。城戸さんが言うから保護ってコトになったけどよォ、お前のお陰で金輪町にも部隊が派遣されて迷惑被ってんだ。好き勝手暴れて、記憶にございませんで許してくれってのは話が通じねぇぜ」

 「ちょっと高田さん」

 「誰が許してくれなんか言ったよ。人間サマの社会に後から勝手に現れて勝手に暴れてんのはテメェらも同じだろ。これからテメェらのアジトで楽しい人間ごっこのルールでも教えんのか?勘弁しろよ」

 「ハイ!二人ともおしまい!」

 

 パン!と両手を叩いた相坂はぐるりと車内を睨みつけて、そう宣言した。

 

 「アンタのやったことは擁護できないけど、それはこれから返してもらう。これからはアタシ達のルールに従ってもらう。着いて来たってのはそういうコトも呑まなきゃなんないでしょ?……高田さんも、大人気ないよ」

 

 最後は呻くように言って相坂は黙り込んだ。イイ感じに車内の空気は最低だ!法定速度をさらに越えた車は夜道をかっ飛ばして行く。




文字数を少しずつ、少しずつ増やしていければなぁ……(願望)

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