ただのヤバい人が怪人になっちゃった話(仮) 作:ランバージャック
俺は途方に暮れていた。何しろ服を一つも着ていないし、一体全体どうしてこんな場所に居るのかも思い出せない。金輪市の市中を流れる一級河川、平川に架かる宝橋、そのちょうど真下に俺はいた。
湿って、薄暗くて、あほな言葉がスプレー書きされたこの場所から橋を見上げると、この上を通って、通学していた日々の方が夢だったかの様に思えてしまう。信じて貰えないかもしれないが、酒でやらかした事は一度だってないし、勿論薬もやらない健康優良児な俺だ。業の深い性癖を持ち合わせているって訳でもないが……、このままだとちょっと怪しいかもしれない。
夕陽がきらきらと反射する平川は綺麗だけれど、それだっていつまでも現実逃避の手段として機能する訳じゃない。もう知らん、とばかりに仰向けに寝転がり、柔くなった太陽光に全身を晒してやれば……、確か、局部に太陽光をブチ当てる健康法があった筈だと、あほ丸出しの考えが頭に浮かんだ。……尻の穴だったか?
そうやって無駄な時間を浪費する間に、俺はふと気づく事があった。こうやって寝転がっている割に、コンクリートや草地に体が接している様な感触は無いのだ。何かが、俺と地面を隔ててくれていた。
気づいた俺は速かった。だが、こいつがまたしても疑問を生むのだ。何故なら、俺が座り込んでいたのは、どう見ても馬鹿でかい爬虫類の脱け殻だったのだ。
「マジなんだこりゃ」
昔、これと同じような物を山で見かけた事があったが、もっと小さかった。木に引っかかって風にびろびろ吹かれるやつ、そっちは恐らく蛇で、高橋が俺に投げてきて本気でキレた覚えもある。だけど今俺の尻で踏んづけてるのは、そんなの問題にならないくらいデカイ。一人用ベッドとして充分機能するサイズ感で、いくらブラジルだろうが、お目に掛かれない事間違いなしだ。だけどここは日本で、未確認生物すら湧いてこない一般地方都市だ。
出来る事も無く暇な俺は、得体の知れない皮を少しばかり千切って夕陽に透かしてみたり、上から下まで撫でて感触を楽しんだが、直ぐに飽きた。俺は爬虫類専門のペットショップ店員でもないし、生物を専攻してる訳でもないんだ。それに学友の、ヒデェびっくりドッキリの可能性もあるのだから。
立ち上がって、大きく伸びをし、深呼吸する。もうすっかり陽も落ちてきて、冷え始めた空気でたっぷりと体中を満たすと、嫌な快感へと繋がった。このまま露出狂を目指しても悪くない。なんて、緩んだ頰に張り手一発、正気へ戻す。振り返って、果たして俺が踏んでいた爬虫類皮は、公民館に飾られてる熊皮みたいな有様だった。何が言いたいかと言うと、この皮は蜥蜴のものだ。腕も脚もあった。
そいつを認識した途端、俺の体を走った感覚は何と言えばいいのか……、ようやっと噛み合ったパズルのピース、スキー場でするションベン、ハーフコート外からのスリーポイント、暗い部屋に明かりが灯った様な……。そのどれとも違い、全て合わせても届かない。
頭に星が降ったとかじゃない。頭蓋骨を割り捌いて、無理矢理星空に継ぎ足した挙句、弾けるアイスをブチ込んで、血液なんか全部抜き取られて、代わりに炭酸飲料とスーパーボールを山ほど詰め込まれた様な衝動が、全身を襲ったのだ。
気づけば俺は、全身暗褐色の鱗に包まれた立派なトカゲ人間だった。
(タイトル、タグ付、サイト機能、話の作り方、漢字!)わからない