「突然、馬乗りになってカッターを首に」“ススキノ首狩り殺人” 逮捕のひきこもり娘(29)が豹変した“狂気の瞬間”「家では娘の天下」「許せないことがあった」
文春オンライン / 2023年7月29日 6時0分
事件の舞台となったラブホテル ©文藝春秋
〈 《ススキノ“首狩り親子”逮捕》「何かを隠したかった」ロングヘアの引きこもり娘(29)と有名精神科医の父(59)に事件後起きた“異変”「容疑者はバンドにも力を入れ…」 〉から続く
北海道札幌市の繁華街ススキノのラブホテルで、恵庭市の会社員Aさん(62)の首なし全裸遺体が見つかった事件は、親子3人による“家族ぐるみ”の犯行だった。
事件発覚から約3週間が経った7月24日、北海道警は職業不詳の田村瑠奈(29)、その父親で精神科医の田村修(59)を死体損壊などの容疑で逮捕。翌25日、母親の田村浩子(60)も同じ容疑で逮捕されている。
女の子を油断させるために女装
「浩子は『娘がその男(Aさん)とトラブルになっていた』といった趣旨の供述をしている。逮捕前、修の父親(瑠奈の祖父)にも同様の説明をしていた。瑠奈がススキノで知り合ったAさんに『騙されて暴行された』と両親に打ち明けてきたと。殺害されたAさんの言い分を聞くことはできないため鵜呑みにはできないが、両者間で何らかのトラブルがあったのは間違いないと思われる」(捜査関係者)
Aさんは、週末の夜、ススキノの街を回遊する“女装家のトモちゃん”として、一部では知られた存在だった。知人には「女装はするけど、女の子が好き」と明言。結果、トラブルの火種が潜在していたのも事実だ。
「女装していて、一人称も『私』。でも、出入りしていたクラブなどでは、酔った女の子の体を触ったり、キスをせがんだりするし、LINEを交換すると、しつこくデートに誘ってくるので、よく苦情も聞いていた。女装は年季が入っていたから、女性の恰好をすること自体は好きなんだろうけど、女の子を油断させる目的もあったと思う」(知人)
両親は一人娘を溺愛 過保護な一面も
Aさんとハプニングバーで知り合ったという別の知人は、こう明かす。
「経済的な意味もあったと思います。女装していると男性料金より安く入れるので。お店では女の子によく声をかけていたし、クラブで知り合った女の子を連れてお店に来たこともありました。お店は本番禁止なので、意気投合した女の子やカップルとは店を出てホテルへ。トモちゃんとは一緒に複数プレイをしたこともありました。ただ、女の子が嫌がることは決してしなかったので、乱暴なことをする印象はなかったんですが……」
奔放な素顔を女装でコーティングしていたかにみえるAさん。瑠奈の祖父は、両親が一人娘を溺愛していたと明かした上で、小誌にこう語った。
「俺から言わせれば、ちょっと過保護なんだよな。(瑠奈にとって)許せないことがあってね。そうなると歯止めが利かないんだよな。修はその許せないことを知ったんだよ。浩子は修任せ。瑠奈がやったことも、修がやったことも知っていた」
制御不能となった瑠奈の恐怖を振り返るのは、小学校時代の同級生だ。
「小5の時に同じクラスで、ある時、瑠奈の服装を『アニメのキャラみたいだな』と茶化したら、急に筆箱からカッターナイフを持ち出して、追っかけてきて。馬乗りになられて首にカッターを突き付けられたんです。そこで周りの友達が止めに入ってくれたけど、瑠奈は『次言ったら刺すからな』と。本気で刺されると思いました。今でも鮮明に覚えています。
普段の瑠奈は、独特の世界観を持った子で、物静か。僕は話をする方でしたが、医者のお父さんをリスペクトしてました。でも、我がままなお嬢様タイプで、家では天下を取っているんだろうなと感じていました」
田村家の浴室でAさんの頭部が発見される
瑠奈が直面した「許せない」トラブルの決着をつけるため、親子は結託して一線を踏み越えていったのだ。3人の役割分担について、前出の捜査関係者はこう解説する。
「犯行当日、Aさんと待ち合わせてラブホテルに入ったのは瑠奈1人。浴室で無防備なAさんを刺殺し、頭部を切断して持ち去っている。瑠奈はホテルの出入りの際、手袋をしており、室内には指紋が残っていなかった。
犯行前後、瑠奈を車で送り迎えしたのが父の修。父娘は事件前、近くの量販店でスーツケースやのこぎりなどを購入しており、事前に入念な殺害計画を練っていたことが窺える。そのため、殺害の実行犯ではないが、修は共謀共同正犯と見なした。
母の浩子は計画段階から把握していたと思われ、殺害後に自宅でAさんの頭部を保管していたことも認識。後日、父娘と同じ容疑で逮捕に踏み切った」
Aさんの頭部は、札幌市厚別区にある田村家の2階浴室から見つかったという。
「腐敗が進行しており、歯型から身元を確認した。事前にのこぎりなどを購入していることから、身元特定を遅らせるため、Aさんの殺害後に頭部を切断して持ち去ることも織り込み済だったのだろう」(同前)
浩子は映画愛好家が作成した自主制作映画に、女子大生役で出演
事件後も、朽ちていく頭部とともに20日余を過ごした3人家族の狂気。最後の1人として逮捕された母の浩子は、修が医大生時代を過ごした旭川市で育った。趣味は絵画。旭川美術館に勤務していた独身時代、地元の映画愛好家が作成した自主制作映画に、女子大生役で出演したこともある。
「お父さんは元公務員で、絵や陶芸が得意な人でした。お母さんは20年以上前に脳溢血で亡くなり、実家にはお父さんが1人で暮らしていたのですが、晩年は娘さんが嫁ぎ先の札幌から車で月に1回くらいのペースで様子を見に来ていました。お父さんも7、8年前に亡くなりましたが、家族思いのいい娘さんでした」(実家近所の住民)
浩子の父親の元同僚が語る。
「あまり家族のことを話す人ではなかったが、自慢の娘だった。教育大だったかな、しっかりした学校を出ていて。生前、数日家を空ける時がありましたが、『札幌の娘のところに行っていた』と話していました」
医師として命の大切さを説いてきたはずだったが…
一方、大黒柱の修は、もともと紋別郡遠軽町の出身。地元の友人が振り返る。
「中学の頃から勉強ができてギターが趣味。教員だったお父さんの自慢の息子でした。社会人になってからもバンドを組んで音楽活動を続けていた。誘われてライブを見に行ったこともあります。
それと2016年だったかな、中学生向けの講演に医師として出た際、たまたま会場で地元の友人と再会したらしく、自分の中学生時代の写真を使った講演の名札を『懐かしいだろ』と送ってきたことがありました」
修は医師として命の大切さを説いてきたはずだった。2021年11月、札幌市内で行われた「過労死等防止対策推進シンポジウム」では「若者の過労自殺防止」をテーマに基調講演。音源を聞くとその中で修はこう言及している。
「ご家族と同居していても、心配かけたくないからとして、相談しない、できない。あるいは、直前まで元気に装うケースも多いので。よく自殺をね、家族はね、どうして見抜けなかったんだみたいな話をする人がいますが、家族にこそ心配かけたくないから、直前まで元気だと装うケースは多いようです」
逮捕後、瑠奈はこう供述したという。
「自分の中には何人もの人格がある。(犯行は)そのうちの1人がやった」
専門家の修が見抜いたのは、我が子の内面で猛り狂う復讐者の人格だったのだろうか。
◆◆◆
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