『ミニ国家もの企画書』 作成者/田中ロミオ
■概要
はみ出し者が集まり、ミニ国家を建国しようとする物語(日本国内)。
現実世界のシーランド公国やワイ公国などの実例を参考に、独立宣言をきっかけに日本政府すら巻き込んで起こる騒動をユーモラスに描く。
■ジャンル
『独立国家コメディ』
■コンセプト
○軽く楽しめるコメディ作品
○珍しいもの、目新しいものを好むアーリー層を狙う
○恋愛成就ルートや国家崩壊ルート、独立成功といったバラエティ豊かな展開を描く
■あらすじ
ある日、主人公のもとに、名も知らぬ親族の死亡通知が届く。
その親族の財産である土地と建物を、主人公は相続できるのだとか。
財産調査のため、現地に向かう主人公。
片田舎に建つその数寄屋風の和館は想像を超えて立派なものだった。
これでは価値が高すぎてとても相続税は支払えないと思われたが、親族が生前に依頼した弁護士からは「価値は驚くほど低く、固定資産税を含めてフリーターでも支払える範疇」だと説明される。
しかも屋敷の相続人であるというだけで、田舎町の人々すべてからなぜか熱烈に歓迎される。
疑問に感じながらも、お試しでしばらく逗留することになる。
やがて主人公は、和館の地下に広大な木造地下街が存在し、少数ながら生活している人々がいることを知る。
住人によれば「ここは古代に栄えた未知の独立国家の最後の地であり、住人の多くがその末裔である」という。
さらには「国家を維持するため、主人公に物件を相続をして欲しい」と依頼される。
紆余曲折あり申し出を受ける主人公だが、それは日本国内でひそかに存続してきたミニ国家の頭領になるということでもあった――
(以下略)
……というノベルゲーム企画書を長きに渡りほうぼうに出してきたわけだが、残念ながら日の目を見ることなく二〇年近くが過ぎてしまった。
賞味期限はとっくに切れているし、さすがにもう無理だろうから、コラムのネタにして昇華してしまおうと思う次第です。
この企画にはふたつの大きなネタ元があり、吉里吉里人と逆噴射家族がそれ。
前者については後に紹介するとして、後者は邦画である。
家庭内紛争を描いたブラックコメディで、とても面白い。
買ったばかりの一軒家を舞台に、相互不信状態に陥った5人家族が互いに闘争状態に突入してしまうという内容。どこか破滅的ではあるが、爽やかであったけえ結末が待つ。
物語作りの基礎のひとつに「大切にしていた何かを失い、別の何かを得る」というものがあるのだが、この映画はそれを見事にキメている。
そういう感じを出してみたいとう欲求が原動力となって書かせた企画が上といってもいいくらい。
原案はいつ検索してみてもたいてい取り込み中(対人)なことで知られるあの御方。
原作本はないようなのでこのくらいにしておく。
他にも参考資料として手を出した本がいくつかあり、今回それらを紹介してみようと思う。
ネタ元その2といっていい。
井上ひさしの最高傑作なのかと問われれば悩んでしまうところだが(一週間という作品が強烈に面白い、12人の手紙もいい)、自分に最も大きな影響を与えた一冊は間違いなくこれで、特別思い入れが深い。上記企画にも大きな影響を与えている。
東北の村が日本政府に見切りをつけ、独立を宣言する。
主人公は別件の取材にやってきたちんけな三流小説家だが、独立運動に巻き込まれ、どういうわけか運動の中核的人物となってしまう。果たして独立は成功するのかどうか……といった筋書き。
こう書くと社会派小説寄りの印象だが、ちっともそんなことはなく、全編これ悪ふざけ小説である。下品で露悪的な小説を書いている時の筒井康隆などもそうだが、これからプロ創作の世界に飛び込もうという前途ある好青年(おれ)が、影響を受けない道理はなかった。
実本は聖書か辞書かという分厚さなのだが、内容がそれ以上に詰まっているというすごい本である。
主人公はのけぞるほどにしょうもない男だし、独立国家を成立させるための理屈や考証は無駄に大量に出てくるし、話の脱線も容赦なく起こるし、下品だし、申し分ない。筆力の魔力というほかない。大長編だが読んでいる最中は、常時脳内でじわじわ出る系の楽しく素敵な小説である。
とうてい不可能と思える国内独立というゴールへと至る道筋として、なかなか現実的なプランが提示されているところもポイントが高い。さらなる資料調査の面でかなり参考にさせてもらったが、活かせる機会がなかったことは残念至極である。
これも若い頃の自分がすごくやりたかった作風のひとつで、自分の中に広く浅く影響を与えている。
企画書を書くに際し、一軒家が独立宣言する系の類似作品を探したが、なかなか見つからなかった。である時ふと、星新一が確かそんなのを書いていたなと思い出した。
ショートショートの一編で、自宅を独立国家と主張する男の話が出てくる。まさに類似作品といえる。よく他者作品をぱくった作者が苦し紛れに「無意識に影響を受けていたかもしれない」などと言い訳しているが、同じ言葉を垂れるしかない。む、無意識に影響を受けていたかもしれ……ない……。いや、その時まで本当に忘れていたんだ。本当さ……。
星新一はキッズだった自分がつまずくことなく読める数少ない小説家だったから、それはもう小学生の時期には熱心に読んでいたしね。
ちなみにホシを履修した後、中学にあがるかどうかくらいの多感な時期に筒井康隆に進んでしまい、脳を破壊するに至った。このくらいの年齢だとどうしてもブラックでエログロで過激な筒井の方に脳を献上しがちだが、人はやがてまたホシに還るのだろうなと思う。
四次元殺法コンビのコピペじゃないが、自分がやりたいことというのはだいたい先人にやられているもので、これはその最たるものだろう。
あれ? 電子版ないの? ないらしい。
じゃ紙ので。すまない。
国内独立ものではある。そうでないとは言えない。そんな作品。
1975年、N県が独立を宣言。独立政府はソ連と友好条約を結び、市内にはソ連兵が駐留することになる。日本側からの軍事的脅威に備えるためで、実際に在日米軍とソ連軍はにらみ合いの状態に陥ってしまう。主人公はそんな環境で育ち、やがて山に入ってゲリラとなる。そうして出会う、戦争に生きる人々の姿を描く。
興味深い筋立て。
見つけた時には参考になりそうだなと思って手を出したのだが、残念ながらそうはならなかった。これはあらすじから容易に想像できるようなエンターテイメントではなく、正しく小説だったためだ。だからただ読むだけではまったく足りず、咀嚼するという作業が必要になる。
それにこの物語では、戦争という状態は低くわだかまって維持されており、さほど活性化しない。一種の舞台装置として置かれている。
参考にはならなかったが面白い小説なのは間違いなく、著者の作品をしばらく追いかけることとなった。そう弾のない国内独立ものとしては外せない一冊ではないかと思う。
余談として読んだ方向けに個人的な解釈をひとつ述べるなら、「精神さえもてば」一日に何冊も行ける「頁の下半分がほぼ空白という情けない乱闘小説」を主人公は義務で読んでいると気取った主張をしているが、嘘である。主人公はそれらをけっこう楽しんで読んでいる。筒井の兵隊点呼ネタをシャレとして引用するような本読みが、ヴァイオレンス&セックスな乱闘小説を楽しめないとはとうてい思えないからだ。こりゃあ名推理だぜ。主人公の語りが晦渋すぎると感じる方は、こういう読み方をしてみてはどうだろう。誤魔化しているが、けっこうしょうもない主人公である。
こちらの著者の方もひところ、いつ検索してもたいてい取り込み中(対人)でびっくりさせられた。やはり創作にエネルギーは不可欠か。
ということで今回は以上。
ハードディスクの整理をしていたら、古い企画が参考資料メモとともに大量に出てきたので、こういう記事を書いてみた。
残った不発弾の数々はどうしようか今ちょっと悩んでいる。
ヒロル さん
電子書籍でもよいので不発弾をください。
返信 - 2021.04.10 22:17
habuman さん
田中ロミオ氏、奈須きのこ氏あたりで頭をやられて、物語じゃなくても書き物がしたくて文系学科に入り、図書館でたまたま見かけたのが佐藤亜紀氏「ミノタウロス」でした。現在オールタイム・ベストの一冊です。
返信 - 2021.04.25 23:22
madhulathasri さん
hi
返信 - 2021.06.10 00:31
砂糖太郎 さん
hi
返信 - 2021.08.17 20:20