読まずに死にたい! 特選グロ小説
文章グロの方が映像グロよりもはるかに苦手だ。
子供の頃は逆だった気がするが、歳経ることで逆転してしまった。文章だと自分の一番嫌な形でイメージしてしまうせいか。タンスに足の小指をぶつけたという文章すら目に入れたくないし、書くのもちょっといやだ。もし「スプラッタ描写を重点的に」という依頼が来たら、相場より数段高いギャラを要求したい。
ただ厄介なことに自分の中で苦手という概念は「いつか向き合うべきもの」という義務感とセットになっていて、「グロ小説を読んでいかねば」という謎の感じに背を押され一冊一冊ぽたぽたと(血の滴る音か?)ていねいに読み込んできた。
私が挑み、戦い、調伏してきたグロ小説ここにご紹介する。
平山夢明はグロ小説界隈では知られた名だ。好き好んでグロ小説を読むような輩が、平山夢明には皆一目置いている。そんな作家がこの世にいるだなんて、ぼくこわい。
著作はいろいろあるが、中でもコミック化されている本作は、一番メジャーな作品だろうか。
序盤からハードトーチャーがぶっこまれてくるため、用心を怠り気味な一般読者はだいたいのけぞる。
設定は一風変わっている。客が全て殺し屋という殺し屋専門レストランが舞台だ。孤独のグルメ的な理由で、殺し屋たちは毎晩ここを訪れるのだなと察したが、だいたいどの客も店内で暴れる。どういうこっちゃ……。
人体破壊に関するくだりに入るたびに細目で読み飛ばしていたので詳しくはわからないが、その手の描写はふんだんにあった。その手の人にお勧めだ。
結末にかけては大きく盛り上がるので、分類上はエンターテイメント作品なのかもしれない。げにおそろしきことよ。
ちなみに同作者の本では『デブを捨てに』が好きである。内容がほどよく、何よりタイトルセンスが素敵だから。ただその手の人に言わせると、グロ面で少し物足りないらしい。その手の人にはただただ震えるばかりだ。
文庫型の悪夢である。読んではいけない(ぜひ読もう)。
すごい本なのは間違いない。
以前からすごいすごいとは聞いていて、後学のためと手を出してはみたが、読み切れず挫折してしまった。作者は頭がおかしいと思った。何年も経って再度手を出し、やっとで読了できた。この頑張りに対するコンプリートボーナスはないのかよと思った。グロ描写は読み飛ばしていくしかなかったが、妙に引き込む文章でついキツい部分まで熟読させられて、げぇ関羽。
コンプライアンス的には完全アウトと断言できる。もしこんなゲームシナリオを納品したら法務担当が来るだろう。人道に対する罪とかそういうのに抵触していそうな小説である。世界は美しいと信じる人に痛撃を加えるもっとも効果的なやり方は、本書を読ませることだとすら思う。
ある日、突然現世と地獄が繋がり、鬼たちが現世に現れる。
環境変化にも戸惑うことなく、地獄での職務であった拷問に精力的に取り組みはじめる。鬼は怪力かつ不死身の存在で、人類はまったく太刀打ちできず、片っ端から拷問の輪に取りこまれていく。
確か(再読していないのでうろ覚えなのだが)拷問されて死んでも、地獄の亡者扱いで死ねない。この設定のむごさたるやだ。確か天使が人類を見捨ててしまったからとか、そういう理由づけもされていた気がする。一度とっつかまったらもう逃れる術はなく、エンドレスでグロられる。自決の無効化って救いがなさすぎる。武士が効かねえ。こんなのもうなろう系主人公呼んでくるしかないぞ。と、これほど凄惨な内容なのに、ラストシーンはちょっと美しい感じで締められているのがまたニクい。ぜひ読もう(この嫌な気持ちを共有しろ)。
グロ小説トーナメントでは先にこの本を挙げた方が優勝する。優勝したい方はぜひ。
今回紹介する中では、もっとも肌に合った。
これは良かった。良かったよ。ロミオ感激。
矢部嵩という名前はちょくちょく耳にしており、なかなかすごい本を書いているらしいという前情報から、けっこう気になっていた。最初の一冊目としてこの本を選んだが、その時点ではこんなグロテスクな話だとは知らず、パッと見の印象で百合っぽいと感じたこともあって意表を突かれた。
設定はとても独創的で……って今日紹介した本は全部そうだ。決まり事か? 俺もグロ小説を書く時には意識した方がいいのか? いや、書かんけども。
本作では、映画のCUBEと似た状況に女学生たちが放り込まれたところからはじまる。ジャンルとしてはデスゲームもののパッケージに入る気がする。
まず基本設定として、石部屋が数珠つなぎに“果てしなく”続いている。
一部屋にひとりずつ、卒業を控えた女子中学生が放り込まれていて、眠らされている。
最初に目覚めたひとりが隣の部屋に続く扉を開くと、そちらの部屋に眠る少女がどういう仕組みでか目を覚ます。
同じやり方でどんどん先の部屋に進んでいけるが、そのたびに新たな少女が目覚めて人が増えていく。いくらでも増やして良いが、水食料等物資は一切なく、殺し合って最後のひとりにならないと卒業(脱出)をさせてくれないという悪辣なルールだ。
殺し合いなどで少女らが全滅すると、その次の部屋に眠る少女がひとりでに目覚め、次の物語がはじまる。
だからまあ、最初の扉を開けた段階で、まだ寝ぼけまなこの相手少女を殺害すれば、卒業資格を得ることはできる。実際、それを実行する少女もいる。いるが、その少女のエピソードは数行で終わってしまい、小説全体の中では存在感が乏しい。そのパターンでは生きのこりは卒業を達成しているのだろうが、そういう描写も一切ない。重要ではないからだろう。
濃密に描かれるのはそれ以外のケースだ。
何千人もの少女を起こして開拓団を作る少女らもいれば、一部屋も進まず自殺してしまう少女もいる。この基礎設定で、どれだけのパターンが思いつけるかの実験場めいた小説となっている。
連鎖密室で長く生きて老いる少女もいる。王になる少女もいる。奴隷制度なども生まれる。水も食料もないから、糞尿食や人肉食が横行する。しまいには人肉文明が築かれたりする。これは閉塞した固定状況から飛躍し、行けるところまで行く物語だ。ワイドスクリーンバロック的とも言える。草野原々の『最後にして最初のアイドル』とも近しいところにある作品だ。
グロ小説にはグロを描くこと自体が目的化した作品(獣儀式)もあるが、本作はそうではなく、状況自体がむごい。それでいて不思議とリリックで、かつ百合寄りである。百合好きの人はぜひ、とは口が裂けても言えない内容だが、SF者なら手を出す価値がある。……グロはこのくらいでちょうどいい。
ということで今回グロ小説を紹介したが、本当に苦手分野なんで「いやー田中ロミオさんもグロ好きなんですねー親近感わくなあ」などと距離を詰めてくるようなら手を頭の後ろで組んでひざまづけ!(ショットガンを構えながら)