コラム

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評価0 最悪!

未来にも残すべシ 個人的には超好ミ 初心者でも読めル

連載! 田中ロミオのクラウド書斎

ジャンプを取り戻せ!

ネタバレあり

私の年れ……レベルは46である。レベル46の男だ。
 もうそろそろクリアも視野に入る。そんなお年……おレベル頃である。実際はまだまだ視野に入ってきてないので、冒険は続く気配がしている。というかそんな早死にしたくない。まだクリアしてないサブクエが、たくさんあるんだ(死に際の名台詞)。
 このくらいの年……レベル帯だと、ちょうどジャンプ黄金期世代にあたる。我々が10レベル代だった頃、連載していた漫画がどれも名作だったからそう呼ばれている。
 同世代の飲み会ともなれば、とにかくジャンプ話に花が咲く。
 もちろん私も会話を楽しむ。
 でも実はそれは演技で、私だけまったく話についていけていないのだ。
 だって知らないから。当時、読んでいなかったから。
 唯一、熱心に読んでいた作品はドラゴンボールである。
 中学生の時だったか、ドラゴンボールはちょうどフリーザ編に突入し、最高の盛り上がりを迎えていた。さすが名作の名エピソードだけあり、毎週心待ちにして読んでいた。
 そしてドラゴンボール以外、ほとんど読んでいなかった。
 当時、読み逃した有名作品にはこういったものである。

『北斗の拳』(人間が破裂するのが苦手だった)
『きまぐれオレンジ☆ロード』(ラブコメには興味がなかった)
『魁!!男塾』(濃すぎた)
『聖闘士星矢』(読まなかった中では好きな作品)
『ジョジョの奇妙な冒険』(ツェペリさん真っ二つまでは読んでいた)

 友達からジャンプを借りる時、ドラゴンボールだけを読んだ。様々な物品を借りて済ませる男、カリスマと呼ばれていた私だが、ジャンプ次に回すの超早い男としても有名だった。
 ところがレベルを食ってくるに従い、なにやら自分が損をしていたのではないかという思いに囚われるようになってきた。だからジャンプを取り戻そうと思った。大人になってから名作をひととおり読破したわけだが、どれも完結済作品ばかりで、当時のライブ感を味わうという面ではいかんともしがたく、乾きが癒えたとは言いがたかった。
 本当の意味でジャンプを取り戻すためには、今の作品を読まねばならない。ジャンプを持ってきてもらわねばならない。もちろん進撃の巨人は後半も抜群に面白い作品ではあるのだが、今の私に必要なのはジャンプなのだ。
 ということで、黄金期を飛ばしてしまったオッサンにもおすすめできる、取り戻し系ジャンプ作品をいくつか探してみた。

鬼滅の刃 1(残酷)

鬼滅の刃 1(残酷) 著者: 吾峠 呼世晴

出版社:集英社

発行年:2016

 ミッションコンプリートだった。
 探す必要なかった。この一作品だけで全部取り戻してしまった。取り戻し指数が85を越えていた。やっぱり今絶賛ブレイク中の名作が放つコンテンツ力には、比類なきものがあるということか。最悪今の高校生と会話が合う可能性もある。
 これは文句なしのジャンプでありながら、オッサンジャンパーが読んでも抵抗が少ない作風なんじゃなかろうか。けなすところはないが、今更これみよがしに詳しく紹介するような作品でもないと思うので、紹介はこのくらいにしておく。

地獄楽 1

地獄楽 1 著者: 賀来 ゆうじ

出版社:集英社

発行年:2018

 ヒロアカに手を出そうかと思っていたところ、長すぎたので、コミックス巻数の少ないこっちを摘まんだが、結果としては良かった。ヒロアカってついこないだはじまったばかりだと思っていたら一瞬であんな巻数になってて、とても不思議。
 こちらは江戸時代が舞台。不老不死の仙薬を探しに化け物だらけの島に死刑囚たちを送り込む、という設定がいい。鬼滅もそうだったが、戦いにともなう残酷表現(死んだり切断されたり)がちゃんと描かれるので、きれいな死の表現があまり好みではない自分にも違和感がない。北斗の拳にビビッてた頃とはレベルが違うんですよレベルが。
 取り戻し指数75はある作品。

 上ふたつも思いの外良かったが、特に面白かった。
 ジャンプ漫画らしからぬところがある作品かもしれない。
 もし私が集英社の編集者で、ジャンプ持ってこいと作家に告げ、これを持ってこられたら……どんな反応をするのか想像がつかない。ただイチ読者として読むととても楽しい。
 メインプロットはシンプルで「悪魔の力で悪魔と戦う」というもの。それでいて一言で評価するのが難しいひねり具合だ。取り戻し指数は70を切るだろうが、こんだけ面白かったらそんなのもう関係あらへん。
 チェンソーの悪魔と契約したデンジ少年は、とても変な主人公だ。
 さっぱりしたチンピラのようなキャラクターで、世界を救うとかそういう高邁な目的は持たない。無学で常識がなく、状況に流されてはだいそれた決断をしてしまったりする。
 デンジはマイルストーン的に小さな目標を更新しながら生きている。それはたとえば「女の胸を揉む」とか「ジャムをぬったパンを毎日食べる」とかその程度のものだ。たったそれだけの小さな野望をうまいこと戦う動機に変えて、デンジは悪魔に立ち向かっていく。こうした場面は作中に何度かあるが、そこには本作のもっとも美しい図式が立ち現れているように感じる。
 主人公が野卑でもストーリーに支障がないせいか、デンジの成長をレベルアップ的に描こうという熱意はあんまり感じない。このあたりジャンプ主人公の類型からは少し外れているように思うが、だからといって悪いということは全くなく、独特な魅力に繋がっている。
 ストーリー展開はハイテンポかつドラマチックで、予想も期待も裏切られることが多いが、そこに妙な爽快感がある。魅力的なキャラクターが多数登場するが、驚くようなタイミングで死んでしまうことがあり、読者は気を抜けない。緊張しながら読めるいい漫画だ。特に六巻のレゼ編は、ここだけ映画脚本のようなストイックさがあって唸った。
 今回ジャンプ取り戻せ運動は漫画喫茶で実施されたのだが、紙のコミックス版を手元に欲しくなってしまった(ちなみにこの原稿も満喫で書いている)。
 今日紹介した三作は、死んだり切れたり系ジャンプバトル漫画の御三家といえる。きれいなジャンプは苦手だよという人にこそ薦めてみたい。

 ジャンプは取り戻した。もうジャンプ黄金期トークになっても我が物顔で「ジョジョ何部好き? 俺は五部」とか語ってやるからな。
 次はマガジンでも取り戻してみるとするか。


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コメント(1)

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浜谷太一

浜谷太一 さん

とってもラッキーマンとかジャングルの王者ターちゃんとかもオススメ

 

返信 - 2020.05.01 19:28


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