コラム

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未来にも残すべシ 個人的には超好ミ 初心者でも読めル

連載! 田中ロミオのクラウド書斎

作者はもう……死んでいる

ネタバレあり

ドゥーンは稲中、ディーンはロックバンド、デューンはSF超大作。

 今回紹介する本ドゥーン。

 小学生だったか中学生だったか。この小説は当時本屋に行けばわりと積まれていて、自分としても「これからはSFも読まねば」と闘志を燃やしていた時期であったからごく自然な現象として気がつけば入手していた。気まぐれで買い求めた本だけにさほどの期待もなかったわけだが、実に忘れがたい作品である。

 権謀術数が渦巻く惑星アラキスが舞台である。
 主人公のポールはアラキスを治めるアトレイデ公爵家の子だったが、皇帝の陰謀に巻き込まれ、砂漠に落ち延びる。そこに住む砂漠の民フレメンに受け入れられ、やがて救世主として立ち革命を成功させるといったメインプロットだ。もちろんこのメインプロットだけを見てもさほど魅力は伝わるまい。本作の滋味は、様々なサブプロットや魅惑的なガジェット群に含まれている。

 アラキスは宇宙でも最重要とされている。その理由は、メランジという戦略物資を唯一得ることのできる惑星だからだ。メランジを摂取した者は老化を免れ、中には未来予知能力を目覚めさせる者もいる。その力は宇宙航行に不可欠なもので、メランジなくしては戦争も流通も成り立たなくなるという。だから様々な組織がこの星を注目している。
 なぜ恒星間移動にわざわざ予知能力を?
 それはこの世界が、一度機械知性に滅ぼされかけたからだ。その反動で、人工知能のたぐいが一切排除されてしまった。かわりに洗脳奴隷や改造人間を使役する暗黒時代風の社会が訪れたというわけだ。
 最先端科学を参照しつつ書かれたSFは、技術解説寄りの内容になりがちだ。そういう作品の使命は少しだけ時代を先取りすることであるし、その時代ごとに読まれることである。よって現在と地続きの技術が描かれなければ説得力に欠けてしまう。こういった作品の多くが短命な傾向にあるのは、性質上当たり前のことである。
 デューンは骨太のSF貴種流離譚であり、先端科学を歴史に押し込めたことで、いつ読んでも一定の鮮度で読むことができる作品だ。事実この作品は50年以上読み継がれてきた。なにやらミノフスキー粒子的な話である。

 ミノフスキーで思い出したが、そろそろ映画版の話をしないとである。
 このデューンには映画版がある。書評なのに映画の話で恐縮である上、悪く言うようで追い恐縮なのだが、これは多くの面であまり良い映画ではない(傑作であるという人もいる)。それでもデューンを最後まで楽しむためには見てもらわないとならない。重要なピースなのだ。
 よろしくない理由はいろいろある。それはモチベーションが下がるので書かない。ただ全体としてはいまいちでも、見所はたくさんある。以下に箇条書きにする。

・主人公の宿敵たるハルコンネン男爵が2019年現在でもインパクト勝負で勝っている(いい死に方もする)
・ヤザン激似の男が出てくる(いい死に方もする)
・美術は頑張ってる
・小道具はどれも素敵
・全てのゲームクリエイターにサンドウォームの概念を授けた

 他にもいろいろあるが、このようなところを無邪気に楽しむ映画だと思う。
 本作はたくさんのクリエイターに影響を与えた作品の筆頭で、あちらこちらでデューンにインスピレーションを受けた表現を目にする。そのあたりを見つけながら眺めるもまたよしである。かくいう私もこの作品からインスピレーションを受けました。ただ残念なだからまだ持ってくることはできていない。早く持ってきたい(メランジまわりの設定が好みです)。

 さてさて、ここまで来てようやく素直に楽しい映画を紹介できる(書評サイトなのにすいませんね)。

『ホドロフスキーのDUNE』

 ほとんどの人にとって、今回挙げた中では一番楽しめる作品なのではないかと思われる。
 未完の超大作デューンを読み、あんな条件付き傑作映画まで見ておいて、これを見ないという選択肢はない。砂の惑星を旅した者に与えられるデザートのようなものだ(砂漠だけに)。あるいはこの映画こそが我々にとってのメランジなのかもしれない。

 アレハンドロ・ホドロフスキーは『エル・トポ』などで知られる元祖カルト映画監督だ。当初、映画版デューンはホドロフスキーが撮る予定だったのだが、紆余曲折の果てしなき流れの果てに見事に流れた。この紆余曲折をドキュメンタリー映画にしたものが本作だ。
 私も物書きなのでよく企画が座礁に乗り上げるということを体験するが、こんなドラマチックな没は経験したことはない。

 共にデューンを撮る仲間をホドロフスキーは魂の戦士と呼んだ。スピリチュアルウォリアーである。なりたい。どうしたらなれる? ホドロフスキーに認められるしかない。
 魂の戦士を探しに行く。そう宣言し、ホドロフスキーは旅に出る。
 関係者へのインタビューと、残された絵コンテなどから、ホドロフスキーの戦士集めを回想する映画だ。
 戦士認定されたメンバーは豪華だ。サルバトール・ダリ(本人)がいたりする。そんな中に平気で息子もぶちこむ。大丈夫。息子には二年に亘る戦闘訓練を施してあるから。
 何の実績もないのに認められる者もいれば、実績はあるのに「おまえは魂の戦士じゃない!」とぶった切られる者もいる。
 戦士候補の中にはダン・オバノン(エイリアンの脚本家)もいるのだが、ホドロフスキーは彼に手土産としてマリファナを渡し、意気投合するという話があった。「やはりホドロフスキーは映画をヤクとしてとらえていたのだな……」と妙に納得してしまったシーンである。『エル・トポ』もポップコーンがわりにマリファナ吸引が推奨されるような映画だったし、そもそういう人でなければ「映画による意識の覚醒」とか「魂の解放」とか「世界の変革」的なことは口走らないだろう。
 この狂騒の坩堝のようなドキュメンタリーには、一見の価値がある。

 ということで今回はこれまで。最後に書籍版の購入ガイドをば。
 この小説、未完のまま作者は亡くなっている。
 そのうえ新訳版は三冊だけが出ている状態で、続編は絶版となったままである。例によって古本屋様にお頼りするわけだが、そこまでしてシリーズ全てを読む必要はなく、新訳版の三冊のみで十分ではないかと思う。読みやすいし、物語もひときりついている。
 続編については新訳版はなく(今後出るかもしれないけど)、訳が古くて読みにくい。ちなみに発売当時でも読みにくかった。
 どうしても気になる方は、続編の砂漠の救世主から試してくだされ。文章はともかく、物語は衝撃的ではある。

 ちなみにデューンは作者の死後、息子が続編を書いている。
 読んだことはない。こっちはもうデザートまで食べたあとだ。どうしようか、今でも迷っている。


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コメント(1)

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snooperQ

snooperQ さん

コードウェイナー·スミス“人類福祉機構”のマストアイテム、「サンタクララ錠剤」はメランジのヴァリエーションだったですね。獣人との格差が照明されましたが。╱寿命は超富裕層でも大差ない、という常識がくつがえった社会の階級対立は。トルストイの、素朴な信仰を持った庶民は死を恐れず穏やかに死んでいく、プラグマティズム的キリスト教の有用性認識。╱ファーマー『リバーワールド』世界の地球では、人類の大半が死する暴動と異星人が語って…。

 

返信 - 2019.07.13 01:33


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