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(ひとり)このホラーマンガがすごい! 2019

私はけっこうホラーを嗜む。
 世の中に数多ある「このホニャララがすごい」系の企画では、読者投票によってベストオブベストを選出しているようだが、私には必要ない。ひとりで決めてしまえる。
 さっそく一位の発表です(三位まで選んだがいずれも電子書籍化されてなかった……)。

死人の声をきくがよい

死人の声をきくがよい 著者: ひよどり祥子

出版社:秋田書店

発行年:2012

 大賞です。おめでとうございます。
 書店関係者の皆さん、もしよければ「このホラーがすごい! 2019大賞受賞作」とかつけて売ってみてください。もしかすると、うまいこといくかも。

 真面目にやります。

 このマンガはおもしろい。間違いなく。
 すごくおもしろいのだが、うまく言葉で魅力を伝えるのは難しい。そんな作品でもある。これは買って読んでもらうしかないなあ、と本コラムの主旨を覆すようなことを言いたくもなるが、そういうわけにもいかんのでできるだけ購買意欲を煽っていこうと思う。

 ざっくり説明すると、これは恐怖を与えることをメインとした本格ホラー作品ではない。オカルト・ホラー・ギャグ・マンガ(OHGM)なのだ。
 どうしてこんな言葉をでっちあげるかと言われれば、このジャンルのホラーマンガというのが世にはけっこうあるからだ。
 「ハイスコアガール」で伝説を生んだ押切蓮介の「でろでろ」や、笑って良いのか怖がるべきなのか悩ましい伊藤潤二の作品群、いやそれ以前の古典作品の中にもOHGMは数多くある。ホラーとギャグ・コメデイの相性はこの上なく良いのだ。理由はわからない。とにかく良いとしか言えない(素人)。「呪怨」の監督もインタビューでそんなことを言っていたし。
 そして今OHGMでもっとも面白い作品。それが本作だ。大賞受賞は伊達じゃないのである。

 まず早川さんが愛くるしい。
 早川さんはこの漫画のヒロインだが、物語開始早々死んで霊になってしまっている。
 毎回表紙に出ている少女がその早川さんだ。
 生前の早川さんはよく喋り、表情もくるくる変化する、一般的には可愛らしい少女だった。霊になった早川さんは喋ることはない。無表情で、主人公に伝えたいことがある時は、身振り手振りを駆使する。霊らしい陰気さを常にまとっていて、考えていることはまったくわからない。
 そんな素敵なキャラクターだ。
 アンニュイな雰囲気の少女霊が守護霊として憑いてくれたなら最高の青春になるなんてことは、別に私が指摘せんでもホラー者なら誰にだって理解できることだと思う。
 早川さんの物語における立ち位置は、いわば霊的ドラえもんである。早川さん判断に従っていれば間違いはないのだ。
 そういう頼もしい存在が憑いてくれているので、どんな危機的状況でもどこか安心感というものが出てくる。多少のグロ描写は出てくるから人を選ぶことがないとは言えないが、単にホラーがなんとなく苦手という理由でこのマンガを読まないのは非常にもったいないことだ。人生の九割損してるよ。

 次にお話がダイナミック。
 毎回結末が予想できないところにオチていく。毎回ハードランディングしている。普通こうはまとめないだろうというところに突っ込んでいくので、驚かされる。たまに引いたりもする。
 でもプロット作りに悩んで頭がコチコチになっている時にこういう奔放なマンガを読むと、とてもいい気分転換になるのである。
 映画の「フロム・ダスク・ティル・ドーン」ってあるでしょう。全話あんなノリである。

 ヒロインが多い。
 あとがきにも書かれている通り、本作に対する編集指示は「女の子がたくさん登場する、ライトノベル的な作品」というようなものだったらしい。
 おそらく編集者のイメージしたものは、実際の本作とはまったく違うものだったのだろう。
 でもこれは編集が悪い。そりゃ、こうなるよ。90%の作家は法律(お上の指示)の網の目を潜ることしか考えてないんだから。
 しかし雑な編集指示の功罪というべきか、魅力的な美少女キャラクターが多数登場することになったのは読者としては嬉しいポイントかも知れない。

 たくさん死ぬ。
 ホラーギャグ作品は、死人なしでは語れない。
 毎回ド派手に犠牲者が出る。万人単位で出る回もある。単純な死亡者数なら某コナン以上である。よく社会が維持できるなと思うほど壊滅的被害が出ることもある。
 レギュラーキャラが死ぬことはほとんどなく、その点ではイージーモードだが、初登場のゲストキャラがだいたい死ぬところもいい。
 誰が生き残るかとかの推理に頭を使う必要がまったくなくて、気楽だ。そういう次元にあるお話ではないのだ。レギュラーは生存するしゲストは死ぬ。それでいいのだ。こういうすがすがしさこそHGのいいところだ。

 まことに残念ながら、一話完結の作風からいつまでも続けられる内容と思っていたが、最近本誌では完結を迎えた。
 最終刊は12巻ということになるだろうか。
 潔く終わってしまった感がある。いつまでも終えた作品だが、全12冊……残念である。
 でも新規の読者にとっては超ちょうどいいはず。長すぎず、短すぎず。コミックスをかき集めるには手頃な冊数ではなかろうか。この機会に是非手に取ってみてはいかがだろうか。

 このような素晴らしいOHGMが、また現れてくれることを強く願っている。


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