ネズミたちだって必死に生きてるんだよォ
大昔、ガンバの冒険というアニメ作品があって。
鼻持ちならないクソガキ様だった当時の私は、キッズ向け番組を下に見てほとんどそれらを視聴しなかったが、ガンバだけはけっこう楽しんで見ていた記憶がある。キッズアニメながらどこか残酷さを感じさせる作品で、ネズミたちが文字通り命を賭けて生き延びている様が印象深かった。キャラクターがいつ死んでもおかしくない感じが好きだった。クソガキ様だからどうしてもそういうものに本物の質感を見てしまうわけだな。キッズの頃から高二病的なところがあったのかも知れない。子供もだませない子供だましはお呼びじゃないというか。まあ、そのクソガキ魂はいまだに残っているンだけども。
原作小説にも手を出した。
岩波少年文庫『冒険者たち ガンバと15ひきの仲間』。
読んでみると、アニメとはけっこうな違いはあるものの、原作に対するリスペクトの度合いはかなり高い。この手の児童文学の映像化は原作との差が大きくなりがちだが、慎重に調整されていて違和感がない。ノロイさんもちゃんとご登場なさる。この傑作国産冒険小説を、死ぬまでに一度は読もう。「このトシになって今更ガンバの原作を読むなんて……」とためらっている場合じゃないぞ。岩波中年になることを恐れるな。
アメコミ『マウスガード』も、ネズミたちが活躍する冒険作品だ。
同じ冒険でも、こちらは剣と盾の世界。
捕食者や厳しい大自然から身を守るため、ネズミたちは各地に砦を作り、そこに隠れて暮らしている。そうしなくては、蛇や獣になすすべなく食い殺されてしまうからだ。
だがそのままでは孤立してしまう。縄張りを守り、交易を助け、境界を巡視する勇気ある兵士たちが必要で、それがマウスガードなのだ。3匹のマウスガードを中心に、物語は紡がれていく。
全ページフルカラーのアートコミック。精緻な描写が素晴らしい。アメコミ特有の登場人物らによるイズム掛け合い(数ページかけてずっとコマがフキダシで埋まり続けるやつ)は控えめに、スッキリと読みやすくまとまっている。アメコミ初心者にも意外とイイのかも知れない。
アートワークはそりゃあもうアメコミだから凝っている。登場人物はリアル寄りに描かれる。ネズミたちは現実にいる姿のまま立ち、つまようじみたいな剣とわりばし細工めいた具足を身につけている。かわいい。出てくる蛇やふくろうも写実的。登場動物たちがリアル寄りだからか、個々人の表情変化は読み取りにくい。その分、場面ごとの雰囲気が背景色で表現されていて、それが効果的に使われている。特にネズミの反乱兵たちが行軍する場面では、どのページもくすんだ赤で染められていて、幻想的な気配を色濃くする。日本の白黒マンガにはない表現だ。こういうのが好きでアメコミを読む。
アメコミは日本のMANGAとは読み方が違う。そこにハードルの高さを感じる方は多かろうが、この作品は「カワイイ」起点で読める。アメコミというと男子率100%の男子校文化というイメージをしてしまいがちだし、実際それに近い状況だとは思うが、この本については女子とのシナジーを感じる。うまく言えないが、なんか、チャンスがある。ような気がする。
ガンバと同様「いつ誰が死んでもおかしくない」系統の作品ではあるが、無闇やたらに皆殺しにするような雑な内容では決してない。プロットは丁寧だ。
読んでいてふと思ったのが、どことなくテーブルトークRPGとかボードゲーム的なテイストがある。調べてみるとまさにその通りで、TRPG版のマウスガードがあるそうな。そういった文化圏から生まれたコンテンツなわけだ。へー俺の直感力ってすごーいとツイートしたいところだが、まあ誰でも気付きそうなことである。ともかくTRPG文化にどっぷりひたっていた人にも本書は具合がイイということになる。なんだマニアックなわりには、いろいろな人に勧められそうな本じゃないか。女子とのシナジーもあるしね。
こうして考えてみると、ガンバとの共通点というのは「どちらもネズミが主役」「シビアな世界」くらいしかない気がする。だけど二作品を結びつけて考える読者は多いに違いない。この二項目は重要な要素なわけだ。
どうしてこの残酷なセカイの片隅でネズミなんだろうか?
それはたぶん、小さくて弱いからだ。過酷な現実に立ち向かうには、大きくて強い人間よりも、矮小なネズミの方が良いのだ。まさかとは思うが、運命に立ち向かうような筋書きの物語を書く時、メインキャラクターをネズミに置き換えるだけで評価が一段階上がってしまうんじゃないだろうか? いや、そんな馬鹿な……まさか……。そこまでみんなの目が節穴だなんてボク思いたくない。
ちなみに1152年というのはどうも西暦らしい。12世紀!
映画向けの作品でもあると思う。「ネズミ版指輪○語ここに登場!?」みたいな頭の悪い煽り文句をつけて売り出したら、何かの間違いでマス人気が出たりしそうだ。いや実際のところ難しいと思うのだが良い作品だと思うので、なんとかうまいこと続いてもらいたい。
唯一の欠点は価格が高いことだ。判型が小さいわりには、大判のアメコミと同じような価格帯となっている。現在二冊が翻訳出版されているが、もし続刊の話があった際には廉価版を出してくれたら女子が喜ぶだろう(女子女子うるさくてスミマセン)。
どうしても手が出ないという方はリーズナブルな『冒険者たち』からどうぞ。