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医療の現場では「誰でも顔認証」という事態が…「暗証番号なし」マイナ保険証の“危うさ”とは

文春オンライン / 2023年7月28日 6時0分

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©iStock.com

 朝令暮改の「マイナンバーカード政策」で、「暗証番号なしカード」というものが11月から出るようです。

 7月4日、松本剛明総務大臣は、認知症などでマイナンバーカードの「暗証番号」を覚えられない高齢者などを対象に、「暗証番号」を設定しなくても使えるカードを交付する方針を示し、11月頃から運用が開始される予定です。

 つまりマイナ保険証に「暗証番号」がなくても、「顔認証」や目視で本人確認をするということです。

 しかしいま、医療の現場では「誰でも顔認証」という、とんでもない事態が発生しています。

男性のカードで、女性の顔を「認証」

 千葉県にある某病院で、こんなことが起きています。

 事務のA子さんが、顔認証付きカードリーダーの性能を確認しようと、同僚男性のマイナンバーカードを読み取り機に乗せ、自分の顔をカメラに向けました。

 当然ですが、他人のカード、それも男性のカードですから、女性である自分の顔が認証されるはずはないと冗談のつもりでやってみました。ところが驚いたことに、カードの持ち主である男性本人だと認証されてしまったのです。

 この病院では以前、患者の顔をカードリーダーが読み取れず、大騒ぎになったことがありました。そのメンテナンス時に、業者が顔認証の精度を下げた疑惑が浮上しています。

顔認証の精度をゆるゆるに?

 折しも、河野太郎デジタル大臣が「顔認証の安全性」を盛んにアピールしていた時期で、ここでもしトラブルを起こしたら、富士通ジャパンのように名指しで非難されるかもしれないという恐れがあり、顔認証の精度を「ゆるゆる」にしてしまった可能性があります。

 つまり、河野大臣が「顔認証」の安全性を強調すればするほど、業者はトラブルが起きることを恐れて、認証の精度を下げていくという逆のことが現場では起きているということです

 結果、「顔認証されない」というトラブルは減っていますが、いっぽうで、老若男女、誰の顔でも「顔認証されてしまう」という、とんでもないことが、医療の現場では起きています。

 もし、カードをカードリーダーにかざし、「暗証番号」も必要なく「顔認証」もゆるゆるだったら、どんなことが起きるのでしょうか。

 マイナ保険証は窓口での手続きが顔認証付きカードリーダーで自動化されているため、なりすましやカードの悪用が容易になるかもしれません。

 そうなると怖いことに、カードを持つ本人の医療情報に他人の医療情報が混入されることになります。

窓口は、機械と目視の二重手間に

 たぶん、こうしたケースが増えると、政府は「暗証番号」もなく「顔認証」も信用できないので、窓口での目視を必須とするようなルールなどを作るのでしょう。

 そうなれば、「簡便」が売りのマイナ保険証ですが、従来の保険証にない二重手間をかけなくてはならなくなり、従来の保険証の方がスピーディーな事務手続きができるという本末転倒な事になります。

 疑問なのは、政府が法律まで変えてマイナ保険証を義務化した目的は、「個人ID」として使わせるだけでなく、医療情報の利活用(DX・デジタルトランスフォーメーション)なのに、「個人ID」としても使えず、医療情報も他人のものとまざる可能性があるというなら、そもそもカードを持たせる意味がないということです。

「目視」と「顔認証」で医療機関に二重の負担がかかるだけでなく、政府も新たな制度を導入するために税金を使うことになります。

 マイナ保険証の悪用やなりすましの可能性が考えられ、医療機関にとっては二重手間になり、なおかつ税金も使うとなれば、今の保険証と比べるとマイナスばかり。

 これでは、ますます現場を混乱させ、どんどん「便利」や「安全」という本来の目的から遠ざかっていくことになりそうです。

(荻原 博子/文春新書)

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