(社説)ビッグモーター 信じがたい悪質な不正

[PR]

 中古車販売大手「ビッグモーター」で、自動車保険の保険金水増し請求が発覚し、創業者社長が引責辞任すると表明した。社内にはびこっていた悪質な不正の全体像は、なお明らかではない。実態の解明と契約者の救済を急ぐ必要がある。

 25日に記者会見した兼重宏行社長は、自らは不正を知らなかったとしつつ、「トップとしての私の責任だと極めて重く受け止めている」と述べた。

 ドライバーで車体をひっかく、ゴルフボールを入れた靴下を振り回してたたく、ヘッドライトのカバーを割る――。同社の特別調査委員会の報告書が明らかにした不正は、言葉を失うものばかりだ。

 工賃を増やすために顧客の車を意図的に痛めつけており、報告書は「器物損壊罪にも当たり得る」と断じた。不要な修理や塗装の例も相当数あるという。これまでに判明した不正は1300件近くにのぼり、板金・塗装を手がける全国の整備工場約30カ所で見つかった。

 報告書は、会社の本部側が不合理なノルマを工場に押しつけていたのが原因だと指摘した。目標未達の工場長は会議で厳しく問い詰められたという。

 きのうの会見で社長は「組織的ということはない」と主張した。だが、社長の息子の副社長らが工場長を一方的に降格させる処分を乱発し、社内からの不正告発には取り合わず、調査もしなかった。最大の責任が経営陣にあるのは明白だ。

 しかも同社は、会社法が求める取締役会を開かず、議事録も残っていないという。全国260店舗、従業員6千人、売上高5千億円以上の規模を持ちながら、会社の体を全くなしていない。不正の悪質さとあわせて考えれば、会社としての今後の存続は消費者の審判に委ねられていると言うしかない。

 不正の被害者は、不要な修理で保険の等級が下がり、高い保険料を払わされる契約者だ。同社と損害保険会社は、巻き込まれた契約者の救済に最優先で取り組まなければならない。

 損害保険ジャパンなど損保大手3社は、事故に遭った契約者に修理工場としてビッグモーターを紹介していた。社員を出向させ、保険代理店の業務などを支援していたという。互いに客を引き合わせる構図が、不正の拡大につながった面はないか。徹底的に調べるべきだ。

 国土交通省は、道路運送車両法違反の可能性があるとして聞き取り調査をする方針だ。保険業法を所管する金融庁も事実関係の確認を進めるという。自動車の修理や保険への消費者の信用にかかわる問題でもある。厳正な姿勢で臨んでほしい。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

今すぐ登録(1カ月間無料)ログインする

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません