特別監査の実施と事件の露呈
それを確認するや、このメールを印刷したペーパーには「取扱厳重注意」と「配付者限り」のスタンプが押され、日本年金機構の水島藤一郎理事長に報告されている。
その後の水島理事長と年金局の動きは、メールの隠蔽と都合のよい説明を作りだすための工作に費やされている。順を追って見ていくことにしよう。
'18年1月5日に水島理事長は、年金局と今後の対応策を協議。翌6日の土曜日には、抜き打ちでSAY企画への特別監査を実施した。
この時、SAY企画の切田精一社長は、契約に違反して中国大連市のデータ処理会社(大連信興信息技術有限公司)に「申告書」の入力作業を再委託していたと、あっさり認めている。
「申告書」の入力業務は個人情報を取り扱うため、機構では再委託を禁止している。にもかかわらず無断で、しかもよりによって中国への再委託をおこなっていたことに、水島理事長と年金局の幹部たちは震え上がったはずである。
特別監査から4日後の1月10日には、「機構の情報セキュリティー対策」を担当している日本IBMに依頼し、SAY企画へのさらなる立ち入り調査を実施。作業室やサーバー室などのシステム面を調べあげたのち、駆け足ながら2泊3日で中国の再委託先をも訪問させていた。
大晦日の「通報メール」から約3ヵ月後の、'18年3月20日、機構は謝罪会見を開き、SAY企画が「申告書」を中国に再委託するという不正を働いていたと公表した。
この謝罪内容を、政党機関紙の「しんぶん赤旗」が前日の19日にスクープし、NHKと共同通信も示し合わせたかのように報じたため、20日の朝から国会は混乱した。
「申告書」が中国に再委託されていたことを知って、年金受給者の個人情報が流出したのではないかと心配する国会議員の質問があいついだからだ。