やはり俺の相棒が劣等生なのはまちがっている。   作:読多裏闇

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今回は比較的早く書けました・・・。


九校戦編24

~平塚side~

 

 

 

 

 あいつは批判されることでしか目立てないのか?

 いや、今回ばかりは批判のみ、とは言えないか。

 

 比企谷の競技が開始すると間もなく試合終了のブザーが鳴り響き、それによって現場が包み込んだのは混乱だった。

 無理もないだろう。今から競技が始まると思ったら唐突に試合が終わったのだ。見ている側は肩すかしを食らったようなものだ。それ故に終了ブザーは”誤報”だと会場のほぼ全ての人間が思ったことだろう。

 ブザーがなった極数秒間は。

 この会場の混乱は段階を経て理解と疑問が重なり、私の目から見ても運営側ですら混乱しているように映った。だが、明確に。揺るがぬ結果として"勝者が比企谷である"という現実が示されている現場に、勝敗を判定する立場として運営は対処しきれずにいた。

 

  この、”綺麗なまま、ただ空中に浮き上がった氷”にどう言った理由で勝敗を伝えるのかを。

 

 

「平塚先生。これ、お兄ちゃんが勝ってるっぽいのは分かるんですけど、いまいち勝った理由が分からないんですけど・・・。」

 

 運営を哀れんでいたところで同じ競技を見ていた教え子の一人でかつ、この問題を起こした張本人の妹が理解しきれない疑問を投げてきた。見る人間が被ったので見に来ているであろう比企谷の妹の所属するグループと合流しておいたのだ。自分の兄の仕出かした事とはいえ、解説がないならある意味当然の疑問か。

 

「お前の兄、比企谷は勝ったんじゃなく、相手を負けさせたんだ。」

 

「・・・あー、なるほどそう言うことですか。

 先輩らしいって言うか、出来ることも凄いですけど」

 

 一色は察したらしいが最後まで解説するとしよう。

 

「アイスピラーズブレイクの勝利条件は相手の氷を全て破壊すること。

 逆に言えば全ての氷が破壊されると負ける。

 だが、競技である以上破壊にルール上の定義として、”この状態になったら破壊された”とする判定が存在する。」

 

「・・・もしかして、空中に浮いてる氷って破壊された扱いだったりします?」

 

 この段階で概ね察したらしい。流石は実の妹だな。

 

「その通りだ。正確には地面を離れてはいけない、と言うルールだが。

 元々は”自分の氷を利用して相手の氷を砕く魔法”で使用した氷が破壊されていない氷として扱わない様にするために出来たルールだが、目を付けるところが良いというか、目敏いというか・・・。」

 

「ですが、判定がなかなか出ませんね。

 八幡兄様が勝利なのは間違いないのですよね?」

 

「桜井、それはおそらくだが・・・今回の敗者判定したのが機械だったせいだろうな。人間では氷が浮いてるかどうかを確認するのは難しいからな。

 そこで事実確認と諸々が手間取っているのに加えて、前代未聞な結果だからな。発表に準備が要るんだろう。」

 

 全会一致で運営に対する同情の中、勝敗判定の放送が始まった。

 

『大変長らくお待たせいたしました。

 只今の試合は相手の氷を全て破壊判定状態に追い込んだとして第一高校、比企谷選手の勝利です。

 九校戦の歴史上、例のない勝利方法であったため判定が遅れたことに心よりお詫び申し上げます。』

 

 働きたくない、頑張りたくない、さっさと終わらせて帰りたい。

 この魔法はそういう不真面目さから生まれたであろう事が容易に想像がつく身として、これによって波及する問題に頭を悩めている人達を哀れに思う。

 

 

 

 

 

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~鈴音side~

 

 

 

 

『大変長らくお待たせいたしました。

 只今の試合は相手の氷を全て破壊判定状態に追い込んだとして第一高校、比企谷選手の勝利です。

 九校戦の歴史上、例のない勝利方法であったため判定が遅れたことに心よりお詫び申し上げます。』

 

 想定していた通りであり、予定通りである結果であるものの、もたらされる結果は劇薬が過ぎるのではないでしょうか?

 そう思ってはいたものの、”歴史が変わる瞬間に立ち会えるかもしれない”という欲に勝てなかった結果がこの運営からの放送。

 この放送と放送までに説明した勝敗の理由に関しての補足で会長、委員長は状況を把握しつつも、納得しきれない顔をしている。

 

「確かに、これで目を離してはいけない理由と、私が八幡君の練習風景を見れなかったのも分かったわ。試合時間数秒じゃ構えてないと見れないし。

 けど、防御を捨てての速攻で魔法の範囲は氷全て。相手の情報強化とかの対抗魔法の前に勝負を決めてしまう・・・そんなの”言うが安し”の典型よ?」

 

「情報強化なんかは事象改変を伴わないから魔法発動が圧倒的に早い。圧倒的なスピードでもない限り無茶した分だけ出遅れるだけだぞ?リスキー過ぎる上に、一回限りの作戦だ。

 読まれたら以降使えないからな。」

 

 当然の様な指摘の嵐ですが、この場で出てくるような指摘は私でも思いつきます。

 

「当然、と言いますかこれで終わるのならば私はこの戦術を止めていますし、使うにしても切り札として温存する事を指示します。

 かく言う私も同じ様な指摘をして、比企谷君に説明をされて納得したので大きな口では言えないのですが・・・。

 まず第一に、この戦術が良くできているところは”情報強化を用いない選手”は基本的に対応不能であるという点です。」

 

 アイスピラーズブレイクにおいてなんらかの防御手段は必須ではあるものの、方法は様々。氷自体を移動、ないし魔法による改変によって相手の魔法の発動条件を満たせなくさせたり過剰に攻めることで相手に攻撃の隙を与えない戦略も珍しくない。

 実際、ここの所の試合は最初に速攻の攻撃魔法で氷の数的有利を取ってから防御する戦略が多く、今回の比企谷君の相手選手もそのパターンであった。完全に良いカモと言ったところでしょう。

 それに加えてあの魔法発動スピード。早打ちに秀でてない選手ならばデバイスの差もあって勝負に土俵にすら立てない可能性もあるでしょう。

 

「確かにそうだが、比企谷の発動スピードあって初めて成り立つ戦術だ。

 にしたって速いな・・・。汎用型であの魔法発動とは。」

 

「それは違うわ、摩利。魔法を撃ったのは右手に持ってるCADじゃなくて左手の袖に入ってる奴よ。

 恐らく特化型なんじゃないかしら?」

 

「正解です。今持ってるCADはブラフらしいですよ。

 正直、あの速度なら騙し討ちなどせずとも良いと思うのですが、「もしかしたら使うかもしれない。」との事です。」

 

 にしてもよく気がつきましたね、会長。これが愛のなせる技、なのでしょうか?本人は絶対認めないでしょうけど。

 

「それで、リンちゃん。どうせ情報強化されても大丈夫な秘策があるんでしょう?」

 

「もちろんです。それが2つ目の理由ですね。

 比企谷君は"情報強化等で防がれる前提"でこの戦術を考えていました。言い換えれば今回試合は彼にとっては前座で終わってると言えます。

 参考までにですが、彼の練習試合での勝率は深雪さん以外に全勝です。」

 

「・・・逆に言えば、司波はあれに勝つのか。いや、種が割れているならなんとかなるのか?」

 

「勝敗に影響していない、とは言いませんが。実際の試合を見た者として言えるのは、そんなに甘い物ではなかった、とだけ伝えておきます。

 なにせ、深雪さんは有効エリア全域に領域干渉を仕掛けたようなものですから。」

 

 信じられないものを聞いて無言で是非を問うこの光景も、九校戦が始まってからかなりの回数を重ねてきていますね。もちろん嘘偽りはないのですが。

 

「八幡君は今に始まった事じゃないけど、深雪さんも深雪さんで大概ねぇ・・・。逆にそこまで言う深雪さんの試合も気になるわ。

 予定通りみにいきましょうk・・・。」

 

「すみません、第一高校の生徒さんでしょうか?」

 

 突然会長に話しかけたのは見知らぬ女性。恐らく年も変わらない・・・もしかしたら年下かもしれませんね。

 

「はい、そうですが。

 どうかなさいましたか?」

 

「突然ごめんなさい。さっきの試合を見ていたんですけど、なんかごちゃごちゃ揉めててどうなったのかよく分からなくて・・・。」

 

 なるほど、確かにかなりごたついていたのでついていけていない人も多いでしょう。

 制服なので目に留まったのでしょうか。

 

「なるほど、そうでしたか。

 試合そのものの詳細は省きますが、勝敗は第一高校の比企谷八幡君が勝利した形ですね。

 勝敗が特殊なものとなったので運営の対応が遅れてしまったようです。」

 

「そうだったんですか。ご丁寧にありがとうございます。

 そっかぁ。比企谷君頑張ってくれてるんだ・・・。」

 

 比企谷君と面識がある・・・?

 

「比企谷君と面識があるんですか?」

 

 会長も同じ疑問を持ったようですね。

 

「比企谷君は後輩だったんですよ。

 そこまで親しかった訳ではないんですけど、色々事情があって。

 今日は第一高校に入学したって聞いたのでもしかしたら・・・って思って見に来たんですよ。

 もしかしたら重い物を背負わせてしまったかもしれないので・・・。」

 

 訳ありな事情がありそうな比企谷君の知り合いの女性、ですか。しかも比企谷君の先輩で、見た目は会長とは方向性が違う美少女ですね。口振りから深い仲ではない風ではありますが、明らかに因縁が深そうな辺り・・・なかなか面白s・・・いえ、大変な事態ではないでしょうか?

 ここで逃がすのは惜しいですね。助け船を出しましょう。

 

「よろしかったらこの後、この試合の解説込みで見て回りませんか?次、比企谷君の従兄妹が出る試合をみる予定なのですが。」

 

「せっかくですけど、ごめんなさい。

 この後中学時代の恩師に合う予定なので・・・。」

 

「そうですか・・・それではまたの機会に。」

 

 丁寧にお礼をしつつ別れる。逃がした魚は大きいかもしれません。

 

「・・・そう言えばお名前を聞き損ねましたね?」

 

「そ、そうね。聞いておけば良かったかもしれない。

 なんか、またどこかで会いそうな気がするのよね・・・。」

 

 その理由がまだ自覚しきれていない辺りこの先の道は険しそうですね。

 

 

 

 




ここにきてキャラクター増やしていくぅ・・・。
まぁ、そろそろ色々準備しないとね?
さて、心理描写を今回は入れていませんが、誰か伝わるでしょうか・・・?



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