やはり俺の相棒が劣等生なのはまちがっている。   作:読多裏闇

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そろそろ細々してきそう・・・。


九校戦編22

 

 

 

~達也side~

 

 

 

 第一高校新人戦バトルボード予選午後の部。

 ほのかのレースは会場に瞬く閃光から始まった。

 これは、ほのかと事前に話し合って考えた作戦で、水面を光学系魔法で発光させ擬似的なフラッシュグレネードの様な物を発生させている。観客も含めて見ている人間からするとたまったものではないが、他の選手はさらにそれどころではないだろう。そういう俺達はきっちりと対応するためにサングラスを付けて備えていたのだが。

 だが、他の選手がそんな準備をしている訳もなく。放ったほのかはもちろん大丈夫だが他の選手は突然のに驚きボードの上に立つのもままならない状況だっただろう。結果として閃光が明けたレース場はレースの体を成しているとは言い難く、ほぼほのかの独走を眺めるだけのものと化している。

 

「ルールには違反してないけど・・・。

 これ、達也さんが考えたの?」

 

「ルールに抵触しない方法は俺が考案したが、閃光魔法を使えないか、と言う案そのものは八幡から出た。

 ”得意魔法を使わない理由がない”と言う発想で生まれた戦術だな。」

 

 そもそもバトルボードは水面以外への干渉で他選手の妨害をすることはルール違反となる。逆を言えば水面を干渉するための物ならそれが妨害になったとしても特に問題にならないと言うことだ。

 過去にもこのルールにおいていろいろな手法が試されたが、際立っては水面を凍らせて妨害するなどの方法があったらしい。だが、これらの重大な怪我が発生しかねないものとして以降禁じられており、それ以降妨害と言っても水面を荒らす様なものが一般的だ。

 だが、今回のほのかの戦術は水面そのものを全て凍らせるなどの明らかな危険行為ではなく、最悪でも選手が自らバランスを崩して水に落ちる程度なので大きな危険にはならない。

 何よりも、その後の作戦に繋がるしな。

 

「・・・ほのかの様子がおかしい。」

 

「何かあったのか?雫。」

 

 ほのかの戦術がほぼ完璧な形でハマり、順調そのものともいえる状況のなか、雫の表情は芳しくない。この戦況が覆るのは普通ではないし、実質勝利が確定して消化試合になりつつある試合で何か問題があるとすれば通常ではないものしかないだろう。

 妨害か・・・?

 

「ほのかは始まる前は緊張するし危なっかしい様に見える。けどいざ始まってしまえば結構図々しいって言うか、肝が据わって来るんだけど・・・いつもより真面目過ぎる様に見える。

 と言うか、ちょっと怒ってる?」

 

「怒る・・・?ここからじゃ流石に表情までは見えないけど・・・。」

 

 深雪の言うとおり流石に距離がありすぎる。表情までは見えない。

 

「何故、そう思ったんだ?」

 

「ほのかがもし九校戦で初めて競技にでるなら、作戦が上手くいったら喜ぶし、表情もゆるむ。

 けど、根が真面目だからミスしないようにしっかりと確認しながら作戦をしっかり全うしようとするから・・・結果的に周りから見てると凄くそわそわしたように見えるんだよね。

 まぁ、そう言う時のほのかは調子がいいから大丈夫なんだけど。」

 

 そう言う観点で見てみれば確かにいつものほのかと少し違う雰囲気がある。失敗がないか一切の油断を許さない様に周りの確認を怠ってない。

 この圧倒的な戦況においていささか前のめりが過ぎる。現状必要な真面目さとは言い難いだろう。

 

「怒ってる・・・にしても競技に持ち込むのは、あまりほのからしくないような・・・。」

 

「うん。だから少し変だと思って。」

 

 おそらくだが、レース前に何かあったのだろう。

 今回、レース前に控え室を覗く予定だったが、スピードシューティングの上位三位独占が会長にとってはあまりにセンセーショナルだったらしく、会長以下怪我で暇な渡辺委員長や作戦スタッフの市原先輩と共に弄り倒される事態に加え、例の”八幡製のCAD”にいたく気に入ったらしく詳しく解説を求められる謎事態が併発。昼食も込みで長話を強いられてしまったため、時間がなくなってしまった。

 何か問題が起きても八幡ならば対処は可能だろうと思っていたのが裏目に出たか?

 いや、確かに八幡ならば問題が発生して何らかの対処をすればほのかが怒るような事態が発生するかもしれない。だが、ほのかの性格的にそのまま怒りが継続するとは思えない。何より控え室には中条先輩が居たはずだ。彼女は普段おどおどしている印象こそあれど、こう言った場面での対応については十分に信用できる。中条先輩は否定するだろうが、本人が思っている以上に彼女は優秀だ。例えそんな事態になるようなことがあったとしても競技に影響が出ないようにフォローしてくれるだろう。

 だからこそ不自然だ。不自然なんだが・・・。

 

「競技に影響が出ているわけで無し、状況が読めない俺達では出来ることは少ないだろうな。」

 

「ほのかと話さないと分からないし、とりあえず終わったら控え室に行こう。」

 

 

 そう言って向かった控え室は有り体に言えば何もなかった。

 勝てたことを素直に喜ぶほのか。

 淡々と撤退準備を進める八幡と、それを手伝いつつほのかを労う中条先輩。

 終いには勝てた事を俺の功績かのように感謝し始めるほのかを見るに、先ほどの杞憂はなんだったのか・・・。

 だが、八幡が雫に何かこそこそと話していることと、八幡の表情を見るに何かはあったのは間違いないだろう。だが、俺に言ってこないと言うことは俺に出来ることおそらく無いのだろう。ならば、とりあえず俺の仕事は・・・。

 落ち着くまでほのかの話を聞くことか。

 

 

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~あずさside~

 

 

 

 雪ノ下さんが居なくなってからの部屋は先程ではないにしても少々重い空気でした。

 光井さんは真面目にレースへの準備を進めていますが、真面目過ぎて1ミリの失敗も許さないかのような切り詰めた表情をしています。

 比企谷君もそれを分かっているのでしょう。常時縮こまっていると言うか、光井さんに完全にイエスマンです。

 そういった苦労を乗り越えて実際に始まったレース。私達は選手を送り出した段階で仕事は終わっているのでやっと一息つけるタイミングですが、今回はいつも以上の疲労感がありますね・・・。

 

「お疲れ様でした、比企谷君。

 とりあえず一息ですね。」

 

「ウィッス。

 まぁ、ほのかの場合自力でも予選突破は確実なんで実質俺らお飾り程度の仕事しかできませんけどね。

 ・・・まぁ、別件で疲れましたけど。」

 

「雪ノ下さんの件ですね。

 彼女も悪い子ではないと思うのですが、比企谷君が絡むと・・・。」

 

 実際、彼女のバトルボードの調整を見ている私から見ても、真面目で必要な努力もしっかりとするとても優秀な子なのは分かります。ですが、比企谷君の前だと一変するので不思議です。

 

「いや、そっちは良いんですけどね。

 ほのか、気張りすぎなんで場違い感MAXで、いっそ死んだ方が良いのかと錯覚するところでしたよ。

 意識高い系はぼっちに天敵なんです。惨めになりますし。」

 

 その、意識高い系に嫉妬される程の技量の持ち主が何を言っているのでしょうか・・・。

 まぁ、驕らないところが比企谷君の良いところですか。

 

「CADについては比企谷君も意識が高いのではないですか?」

 

「いや、比べる友達とか居なかったんで、例え意識が高いと認識されたとしてもそれは自意識が高いんですよ。

 自己満足です。」

 

 凄いですね・・・。何をいっても恐ろしいほどの自虐で返ってきます。

 誉めれば誉める程自己嫌悪に陥りそうです・・・。

 ・・・話を変えましょう。はい、そうしましょう。

 

「ほのかさんあの状態で大丈夫でしょうか?競技に影響とか・・・。」

 

「それについては俺らにはどうしようもないんで、雫辺りに任せます。

 まぁ、いうて次の試合は明後日ですし、なんとかなるんじゃないですかね?」

 

 ここのところの付き合いで比企谷君のこういった一見適当そうな言い回しは、大きな問題がないか対処が終わってる場合しか使わない事が分かっていますのでおそらく大丈夫なのでしょう。時たま不思議な発言が出てくるので深雪さんに聞いたところ"言葉を額面通りに受け取らないのがコツ"と伺っておいて良かったです。

 では、私が出来ることはなんでしょうか・・・。

 とりあえず明後日。雪ノ下さんと光井さんがかち合わないように頑張りましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

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~将輝side~

 

 

 

 九校戦の下馬評は一校優勝で決まり。

 それが世間の目であり、事実一校の選手メンバーを見ればあながち間違ってるとも言い切れないだろう。

 七草、十文字の血縁者に加えて渡辺選手の実力は折り紙付き、そんなのを相手に勝てると言い切れる奴がいればそれは相当な自信家か周りが見えていない馬鹿だろう。

 だが、一校以外が優勝出来ないと諦めてただ座しているのか、と言われればそんなわけがない。

 確かに彼ら3人の出場する試合では優勝は難しいだろう。だが、それ以外はどうだ?同じ競技でも2位ならば取れるのではないか?

 そうやってどうにか王者を崩すべく知略の限りを尽くしているのだ。

 そしてそれは俺も含まれている。

 俺達三校の先輩方からは「本戦の優勝は御三家が崩せない限り難しいだろう。だからこそ、新人戦が切り札だ。」と言われている。

 先程の言った通り彼ら3人が居ない競技に関しては勝率も飛躍的に上がるし、事実三校にはそれが可能な選手も多数居る。何より彼らは新人戦には出られないのだ。配点が半分とは言え全体で見れば全体得点の⅓にもなる。これは無視できない数字だ。本戦の戦いが難しいからこそ新人戦の点数は三校の総合優勝に直結するだろう。

 更に、今期新人戦に出る面子は例年から見てもかなりの人材が揃っている。俺もそうだが、ジョージ、一色さんや三浦さん。更に四十九院さんなどの古式に秀でた人まで居る上、他にもとがった才能を持つ人材が多い。

 これならば、と実際に思っていたし、事実総合優勝は届かずとも新人戦優勝は固いと高を括っていた部分が無い訳ではない。

 だからこそ、新人戦1日目を終えての現実の厳しさを思い知った。

 いや、想定の甘さ・・・か。

 

「将輝、一校のエンジニアのデータが手に入ったよ。」

 

「早かったなジョージ。

 ・・・司波達也、か。」

 

 三校の一年は今日の結果を受けての対策ミーティングが終わったのは今から2時間ほど前。想定よりも芳しくない戦績、思ったよりも上位進出が多いどころかスピードシューティングに至っては首位を独占されてしまっている。

 この状況に危機感を覚えるのは勿論として、早急に対応を考えなければならない。

 まず重要なのは押されている理由だ。

 いかに一校とは言え毎度優秀な人間が入学するわけではないし、こちらとて”当たり年"と言われる程度には良い人材が揃っている。となればそれ以外に理由が無ければ説明が付かない。

 この問題は比較的早い解決を得た。

 

 汎用型デバイスに照準補助をつける最新研究成果の利用。

 そして、明らかに市販されていないCADによる超高効率な魔法行使。

 

 じっくりと考えるまでもない。使っているデバイスの性能が違いすぎる。

 九校戦の試合は競技の規定でデバイスにある程度の制限を設けている以上、デバイスそのものにある種の限界がある。にもかかわらず圧倒的な技術格差を感じるのならば答えは簡単だ。

 エンジニアの実力が違いすぎる。

 それも凄腕なんて表現では可愛すぎるほどの、”化け物”と言って差し支えないほどの実力だ。

 ミーティングではその危険性を示唆する程度しかできなかったが、これに関しては作戦どうこうでどうにかなる話ではない。

 せめて相手だけは知っておこう。

 そう言ってジョージこと”吉祥寺真紅郎”は化け物の調査に向かい、その結果を食事中の話題として提供してくれた。

 

「名前こそ調べられたけど、情報が少なすぎてろくなものが集まらなったけど、すこし興味深い情報が手に入ったよ。

 彼、どうやら二科生らしい。」

 

「二科生・・・と言うと一校の補欠枠、だったか?

 おいおい、何かの間違いじゃないのか?」

 

 エンジニアの資質は魔法力に直結すると言って差し支えない。

 確かに努力で伸ばせる範囲が大きい分野ではあるし、競技などは運動能力やセンスがものを言う部分も多いだろうが、だからといって最低限の魔法力はあってしかるべき。

 魔法力と魔法への理解はある程度比例するものだし、そもそも理解できない魔法は扱えないのが基本だ。

 もちろん資質に欠ける人間が”魔法への理解”を要求されるエンジニアが務まるとはとうてい思えない。

 と、考えるのが普通だが。

 

「僕もそう思って何度も確認したさ。

 でも間違いない。それどころか理論方面ではダントツのトップらしいよ。

 エンジニアを任されたのはこの辺りが加味されたのかな?」

 

「だとしたらそれを評価した人は慧眼だな。文句なく最高のエンジニアだ。

 実際、そいつ相手には舐めてかかったら足元を掬われるだろう。」

 

 そう言いつつ、一校新人戦のエンジニアスタッフの一覧を眺めていくともう一人一年でエンジニアを担当している人間が居るらしい。

 エンジニアを一年がやっている段階で上級生より魔法への造詣が深いと言ってるのと同然だ。

 

「比企谷・・・八幡か?

 こいつも一年でエンジニアを担当してるみたいだが?」

 

「女子バトルボード担当してるみたいだね。

 試合の映像は見たけど腕はいいと思う。それにあの作戦がエンジニアからの助言だとすれば・・・。」

 

「相当に食わせ物の可能性がある、か。」

 

 一校新人戦バトルボードのフラッシュ戦術は全校で今一番の話題だ。

 スピードシューティングで首位独占されたことについては大きな問題だが、どうあがいても変えられない結果である以上、明後日にあるバトルボード決勝へ向けての対策の方が急務だ。

 終わったことより目下の大問題。今は各校のバトルボード関係者は一校対策で大忙しだろう。

 

「比企谷八幡も要注意なのは間違いないね。

 今更エンジニアチームをどうこうできる訳じゃないし作戦で上手く埋めないとジリ貧になりかねないk・・・。」

 

「あら、比企谷さんの写真ですね。

 彼はまだ競技に出ていなかったと思いますが、今から対策ですか?」

 

「一色さんは彼を知っているのかい?」

 

 どうやら俺の見ていた資料が後ろから見えたのだろう。

 しかし一校の技術スタッフと一色さんになんの関係が・・・。

 

「彼、妹の学校の先輩なのよ。

 加えて一色家の恩人でもあるわ。」

 

「もしかして一昨年辺りに少し騒ぎになったあれか?

 あれは確か・・・。」

 

「うん。

 一色家当主が一個人へ直々に感謝を述べたって少し話題になったよね。

 その彼が一校で技術スタッフをやってるのか。魔法的素養も高かったんだね。」

 

 魔法業界の人材発掘はナンバーズに所属する人間では重要課題。あの一色家の行動はそう言う側面もあったのかもしれないな。

 

「・・・ちょっとまって、技術スタッフ?それって調整エンジニアチームの事ですか?」

 

「そうだ。これは一校の新人戦エンジニアチームのリストだ。

 さっきの凄腕エンジニアをジョージが調べてくれたんだ。」

 

 

「でしたらその情報、間違っていませんか?

 比企谷さんは選手の筈ですよ?」

 

 

 ジョージの情報が間違っていた・・・?いや、そんな杜撰な調査をしないのは俺が一番よく知っている。ならば・・・。

 

「・・・何故、選手だと分かったんだ?」

 

「新人戦に次席入学者を出さない理由ってあると思います?」

 

 ・・・成る程。違いない。

 

「・・・今、一応再確認してみたけど女子バトルボード、光井選手の担当エンジニアは間違いなく比企谷八幡だ。

 それどころか本戦のエンジニア担当もしている。

 本戦女子クラウドボール七草真由美。エルフィン・スナイパーの担当エンジニアじゃないか!!

 司波達也に気を取られすぎて見落としていたよ・・・。」

 

「となると、比企谷さんは新人戦に出ない?一校は次席を出さずとも勝ち抜けると判断したのかしら・・・?」

 

 いや、一校スタッフがそんな甘えた事を考えるわけがないだろう。・・・ならば答えは単純だ。

 

 

「エンジニア担当と選手を両立出来る奴・・・と言うことなのだろう。

 にわかには信じられんがな。」

 

 

 一度クールダウンをしようと見渡せば、いつの間にか三校の食事スペースは全体が静まりかえっていた。無理もないだろう。三校の中でも有名どころが3人並んで議論しており、内容が余りに不穏なものだからだ。

 

「とりあえずそいつが選手として出てくるとしても、実力が分からない以上、目下問題は司波達也だろう。

 今後はその辺りの情報を密にやっていくしかないだろうな。」

 

 そう、どちらにしてもやることは変わらない。可能な限り皆を補助し、俺は勝つだけだ。

 

 

 

 




本格的に一条が参戦。

暴れるんだろうなぁ・・・。(かってに走られて困ってる作者←

そろそろ八幡本人の大仕事も入りますし、いやーやっぱり暴れるんだろうなぁ・・・。



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