まぁ、難解にしてるので100%私が悪いのですが。
と言うわけで大変長らくお待たせししました。
俺はジンクスという言葉が嫌いだ。
人間は思い込みや決めつけによってあらゆるジンクスをさも予言のように扱い、それに逆らう人間をさも悪かのように忌避してきたが現実にはそんなものまやかしにすぎない。
曲がり角で女の子とぶつかってもロマンスが発生するには条件として『ただし、イケメンに限る』がついて回るし、食パンが落ちたらバター面が下になるのは確率論的に正しい事だと論文によって証明されている。
『俺、この戦いが終わったら結婚するんだ。』等、悪者キャラが良いことを言ったら死ぬなどの所謂"死亡フラグ"でさえ、今から殺すキャラに少しでも良いところを見せたいという作者の愛から生まれた幻にすぎないのだ。
だからこそ、我々は有り得ない予知に振り回されてはいけない。
全ての事象は俺達が決めてたどり着いた帰結であり、自らが干渉していないことは偶然でしかないのだ。そしてその偶然すらも誰かが動かした必然でしかない。・・・まぁ、人の心が分かる訳じゃないから実質偶然とも言えるが。
だから何かが起きたってジンクスを無視した誰かのせいであるなんて事は絶対無い。
もちろんとある人間がいつもと違う行動、そいつらしくないことをしたとしてもそれによって良くないことが起きるなんて事は眉唾だ。もしも、そうもしもの話だが、普段から怠け者な人間が寝不足を理由に部屋での休息を許可されて公認的に惰眠を貪ったからといって、それによって何かしら悪いことが起きるなんて事があっても俺のせいではない。そう、ないのだ。
『八幡、少し来てくれ。渡辺先輩が競技中に事故にあった。
おそらくだが何らかの妨害工作が行われたと考えられる。検証がしたい。』
「おい、事故ってなんだよ?てか、妨害工作?
洒落にしては笑えねえんだが・・・。」
昼過ぎとは言え寝起きドッキリは心臓に悪いんだぞ?・・・まぁ、されるの初めてだから初めて知ったんだが。
確か今日は昨日の徹夜が原因で今日はゆっくりと寝るようにって会長に凄い剣幕で念を押されたから、これ幸いと夕方まで惰眠決め込もうと思っていたのもあって、今は既に九校戦3日目の昼過ぎ。
このまま熊のように冬眠できないかと考えていた所に掛かってきた達也からの連絡だ。
正直無視して寝たかった。いや無視しようとしたんだが、達也が”つながらない電話をもう一度掛け直すことは滅多にない”。
得てしてそう言ったときは重要案件であることが多い。・・・ついでに面倒事であることも多い。もうやだ、寝たふり出来ねえかな・・・バレるんだけど。なんて考えつつ取った電話は、案の定の面倒事。しかもかなりヤバめだし。
『わざわざお前を叩き起こしてまでこんな不謹慎な洒落を言う趣味はない。
人間、らしくない事をすると何かしらしっぺ返しがくると言われるが、公認サボりのしっぺ返しは思いの外大きかったな。』
再度言うが、俺はジンクスが嫌いだ。
勿論俺と今回の事故に因果関係は無いだろう。無いはずなんだが・・・なんか俺が悪いみたいじゃないですかね?
さも俺が疫病神かのように誰かを不幸にしてしまった様な、そんな罪悪感を植え付けてくるから本当に嫌いだ。
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~幹比古side~
達也は第一高校において有名人だ。
二科生にして初の風紀委員であり、その実力は結果が示している。上級生を含めた一科生をその実力で検挙し、襲撃一歩手前の様な乱闘にも涼しい顔で対処したらしい。その実力は上級生にも伝わっており、学内でも発言権が強い生徒会長や風紀委員長といった大物に目をかけて貰らっている事を学校内で知らない者は居ないだろう。
更にはその実力を買われ、魔法大学附属高校において最重要イベントとも言える九校戦にてエンジニアとして出場する権利を勝ち取った。歴史上初の快挙であると学校がざわついたのは言うまでもない。
言うまでもない事だが達也は凄い。
そんな存在と同じクラスで、なおかつ友人になれたのは僕の長くない人生において数少ない幸運だろう。達也から学べることは多いし、今後僕が前に進むための何かをもしかしたら持っているのかもしれない。そう思わせてくれる何かを達也は見せてくれたし、何より可能性を提示できると先日の暴漢騒ぎの折り達也は明言した。鵜呑みには出来ない。だが、達也がなんの意味もなく暴言を吐く人間でないのは短いながらの付き合いで僕は知っている。
あの時は怒鳴り返してしまったが酷い失敗だった。あの指摘は僕を思ってのことでなければ、余計でしかない指摘だ。わざわざ友人を煽る為だとしたらやり方が低俗過ぎる。少なくとも僕の知る達也はこんな無駄な行動をしない。
僕の為の助言を友人として言ってくれたのなら、怒鳴ってしまった僕の方に余裕がなさすぎる。為にならない事かもしれないにしても、友人の助言を聞き入れる心の余裕もなしに誰が前に進めるのか。
次こそは真摯に受け止めよう、そう考えていた折り達也からメールで助力を乞う連絡が来た。せめて自分に出来る事をしよう、そう心に誓って指定された場所に向かった。
そうして呼ばれた場所はモニター室のような部屋。おそらくはエンジニアの調整用の作業室の一つと思われる部屋。中には呼び出した達也と五十里先輩と千代田先輩、そして比企谷八幡が居た。
呼ばれたのは僕と柴田さんで渡辺先輩の事故に精霊魔法が使用された可能性が高いことから、精霊魔法師である僕と精霊を知覚することが出来る柴田さんが呼ばれた様だった。
その後の説明や考察は殆どまとまった内容の整理に費やされており、達也の考察を聞きつつおかしな部分の洗い出しをする形で話が進んだが、そもそもその場で思いつくようなレベルの考察を達也が推論で提示するわけもなくほぼ達也への質問大会といった様子。僕の仕事は専門家として粗が無いかの確認といったレベルで考察そのものには力になれなかった。
唯一達也へ有効な議論をしていたのは比企谷八幡で、一番の問題となった大会委員によるCADの細工についての考察を議論を開始したときには達也がこの場に呼んだ理由が大いに分かった。
細工のタイミングと出来る範囲、それによってもたらされる効果と現実味。特に"それをして得をする人間が特定できない事を前提で次に取る手段とその対策"の話が始まった辺りで視野の広さに舌を巻く。
普通なら犯人探しから始まる筈の議論をすっ飛ばし、現実的に今必要な事を先に考える。出来ないことを考えずに出来ることを考えることがいかに難しいかをを知っているだけに尚更だ。
今も考察を重ねながら話についてこれていない柴田さんへの説明を交えつつ議論を深めている。
「・・・凄い。流石は学年次席って事なのかな。」
無意識に心の声が漏れていた。返事が来る想定はしてなかったが、予想外の所から返事が返ってきた。
「それはかなりの勘違いを生んでしまうよ?」
五十里先輩が苦笑いでこちらを見て言った。どういう意味だろうか?
「比企谷君は学年次席ですが・・・?」
「いや、そうじゃなくて。
彼を学年次席の基準にしてしまうと彼と同じ肩書きを持つ人は悲鳴を上げるんじゃないかな?少なくとも僕は遠慮したいね。」
「比企谷君が優秀なのは分かります。ですが、わざわざ注釈を入れるほどなのですか?」
五十里先輩は暗に比企谷君は化け物だから比べないで欲しい、といっている。五十里先輩自身も理論では毎年トップをとる程の秀才の筈だし、そこまで言わせる理由が分からなかった。
「私は啓の方が凄いと思うんだけど、あいつ実技も私と同じかそれ以上だから上級生の威厳もへったくれも無いのよね。
模擬戦で摩利さんに黒星一歩手前まで追い込んだって言うんだから、本当に化け物よ。」
千代田先輩がおよそ人間に向けないような目を比企谷君に向けつつそう補足した。五十里先輩は上級生として負けていることを恥じつつも実力をしっかりと受け止めているのに対して、千代田先輩は年齢関係なく能力を基準に見ているようだった。見るベクトルは違うものの、結論は同じ。新入生には破格過ぎる評価だ。
「・・・あの、聞こえる距離で人間を化け物扱いするのはやめて貰えませんかね?陰口は隠れてやるもんっすよ?」
達也と考察にいそしんでいた比企谷君が居心地悪そうな雰囲気でこっちを見ていた。その言い方だとまるで隠れてだったら陰口たてられて良い様に聞こえるんだけど・・・じゃなくて!!
「いや、比企谷君違うんだ!!陰口のつもりじゃなくて・・・。」
「幹比古の言うとおりだ。漏れ聞こえてきた内容的に八幡を評価してのものの様だぞ?」
決して悪意が無いことは伝わったのか達也がフォローしてくれる。正直途中から比企谷君が居ることを忘れ気味だっただけにありがたい。
「申し訳無い。少し表現が悪かったね。
まぁ、実際に学校で5本指に入りかねない実力を持つ新入生ってなると、そういった表現したくもなる気持ちを汲んで貰えるとありがたいかな?」
謝罪を交えたうまい言葉運びと、落ち着いた対応でそう補足する五十里先輩。比企谷君も怒っている印象はないのでおそらくは大丈夫だろう。
にしても"学校でも5本指に入りかねない"・・・か。ここまで言わせる比企谷君はどれだけ凄いのか。というよりは、この短い付き合いでは正直測りかねるものの、どうにも見た目の印象と評価が噛み合わないのは何故なのか。
先程の議論で知識と思考力の高さは分かる。学年次席も納得だと心から思った。だが、強者の貫禄や持つ者が出す風格が全くなく、前情報無しでは小者にしか見えない。というか、今日のこれがなければ学年次席である事に懐疑的だった自分がいる。
正直友人に抱いて良い思考ではないけど、どうにも腑に落ちないのだ。
それは達也にも言える。
あの実力。あの能力。あの実績。これで二科生(劣等生)なら誰が優等生なのか。
対して、その実力は示すものの、風格も貫禄もプライドすら感じられない学年次席。
チグハグにも程がある。非常に失礼ではあるが、二人の立場が逆の方がまだ納得できるんじゃないだろうか?
「ここの所の俺への過大評価ヤバすぎない?こっちは苦手分野を必死に誤魔化してるだけだってのに・・・。」
「苦手って・・・実際苦手分野なんてあるの?」
「そりゃありますよ。むしろ色々致命的な部分が足りてなかったりしますからね。
正直次席って聞いたときはここの教師の目は節穴かと思ったくらいです。
さも俺が凄いかのように言われて違和感しか感じないんですが、本当にすげえ奴って言うのは深雪みたいなのを言うんですよ。」
「比べる対象が高過ぎで大差がない様に見えるのは僕が凡人だからなんだろうね。
人の弱点を、特に魔法に関しての弱点を暴くのはあまりマナーがよいとは言えないから詳しくは聞かないとしても、達也君や八幡君にも弱点があるって事実は少し安心できるかな。
あまり万能すぎると手伝えることが無くなってしまうからね。」
五十里先輩の暗にそろそろ話を切り上げるべき、という意図を汲んで話自体は早々に打ち切られた。
その後もう一度比企谷君に謝罪したが、「ヒキガエル扱いに比べれば数倍マシ」という謎の理論で謝罪を受け入れて貰った。・・・昔の渾名なのかな?色々大変だったのは伝わったよ。
ついでに達也の計らいで八幡と呼ぶ許可も得られた。今後色んな意味で交流を深めていければと思う。
友人としてもそうだけど、達也が言うには僕が抱える問題の解決策に比企谷君・・・いや、八幡の力が役に立つらしい。
九校戦で忙しい彼らの仕事を増やすのは本意ではないので、今は脇に置くにしてもどこかで協力をお願いしてみよう。
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~???side~
交通事故に見せかけた自爆突攻に、試合中に何らかの介入をして優勝候補2人を危険に追い込む妨害工作。
随分と派手に暴れてるんだね、お姉さんびっくりしちゃった。
正直やり方も方法も原始的だし無駄にアナログなのは職業柄かなぁ。まぁ、足がついたところで私には関係ないから良いんだけど。
後はこのまま一校が大人しくなってくれたら楽でいいんだけど、真由美ちゃん達は優秀だからしれっと優勝しそうだなぁ。
まぁ、優勝自体は多分避けられないだろうし、なったらなったで問題ないかなー。"私の目的はほぼ完遂してる訳だし。"
後は経過観察だけ・・・と言うかそれがメインなんだけど、もうこっちは何もする必要はないからね。変に暴走されて誰かさんが怪我したら面倒なくらいかな?
まぁ、もう私がどうこうできる段階は超えちゃってるし、後はどんな蛇がでるかを期待して待ちましょっか。
今度はどんな風にお姉さんを楽しませてくれるのか、期待してるからね?
比企谷君。
次は待望の九校戦4日目になる予定(フラグ
やっと新人戦が幕を上げます。やっとってーか遅えよって声が聞こえるのも納得の遅さ(始まるまで20話って・・・自分で書いてて引くわ・・・。
とりあえず書きたかったところにかなり入っていくので謎の複雑さが唐突に生成されなければ楽しく筆が進むかと思いますので気長にお待ちください。
また、毎度恒例ですが感想質問ツッコミご指摘疑問いつでも募集中です。感想欄にガツガツ書いていただければ対応するので是非是非お願いします。