蛆むき

テッテレー♪
テッテレー♪
テッテレー♪
私が大をもよおして公園のトイレに入るとまさに緑の生き物が股間から便器に蠢くものをびちょびちょとひり出しているところだった。

実装石。

私もその名前は知ってはいたが、公園によくいる大きな害虫、くらいの知識しかない。
こんな間近でみるのは初めてのことだ。
親は全ての仔を産み終えたのか、慌ててパンツを履くと私の足元にまとわりつきまるで言いたいことでもあるかのようにデスデス鳴く。

便器の中を見ると、大きな虫のようなものが何匹か蠢いている。

「ママはやくベタベタ取って欲しいレフ~ニンゲンサンでもいいレフ~」
「ニンゲンサンレフー蛆チャいきなり飼い蛆レフ~?」
「蛆チャとってもいい子なんレフーニンゲンサン飼ってくださいレフ~」

肌色の顔のある虫が何匹もレフレフと鳴きながらお世辞にも清潔とは言えない便器の中でウネウネと動いているのは本能的生理的な嫌悪感がある。

それがゴキブリやナメクジでもそうするように、私はなんのためらいもなくこの虫たちを流そうと水洗レバーに足をかけたがそれを押し下げる前に正面に貼ってある貼り紙に気付いた。
「実装石をそのまま流さないで下さい 下水詰まりの原因となり大変困っています」
「とくに服は腐敗に時間がかかるため、流すときは服は剥ぎ取って横のゴミ箱に入れて下さい」
「体のほうは小さいものはそのまま流して結構です」
そのあとに簡単な図入りで対応方法が記載されていた。
「市民の皆様のご協力をお願い致します」
こういうもって行きかたはこざかしい。市民として協力をと言われて無視するのはまるで不道徳者のようではないか。
幸い便意はそれほど急ではない。少しお付き合いすることにしてみよう。

ふと気付くと親の実装石が私の足をポフポフ叩きながらデスデス騒いでいる。
まさか私の足が何をしようとしているのかがわかる?生まれたばかりの仔の危機を感じているのだろうか?
こういう場合のことも張り紙に書いてあった。
「大きい個体がうるさいときはこれを読んで下さい」
そのあとに文字が書いてあり、発音記号が振ってある。
はるか昔の学生時代の記憶しかない発音記号の読み方には自信はなかったがとにかくそれを読む。
「デスデース↓。デスデェェデスウゥゥゥン」
親実装はそれを聞くとはっとしたような表情をし、「デスデース!」と明るい返事をすると仔を便器に残しそのまま個室の外に出ていった。

便器の中の蛆どもがいっせいにこちらに腹を向けてレフレフ鳴いている。1,2…数えると6匹もいる。
2匹ほどのけ反って痙攣している。まさか興奮しているのか?一体何に?吐き気を催しそうだ。
1匹は自分から便器から這い上がってきそうだ。恐ろしく気持ち悪い。
早く市民の義務とやらを果たしてしまわなくては。

「聞いたレフ~?すごいレフ~」
「ニンゲンサン蛆チャに早くプニプニしてくださいレフ~」
「プニフ~!プニフ~!」

備え付けられていた大きめのピンセットのようなトングで一匹の首根っこのあたりの服を摘み上げる。
摘み上げられた蛆は鼻をピスピス鳴らし、興奮しているらしく激しく体をくねらせる。
この肌色の蛆がくねる感じがトングから伝わってくると背筋に何かが走って折角つまんだ蛆を落としそうになる。
直に触っているわけではない。気をしっかり持たなくては。

「蛆チャ選ばれたレフ~!セレブ蛆レフ~!プニプニ三昧レフ~!アマアマ三昧レフ~!」

貼り紙の図解によればこういう形の個体は蛆実装というらしい。
蛆実装の場合の処理法に従って、もう一本の備え付けのトングを使い髪を掴み引っ張る。
これで簡単に…

ブチブチッ

髪はほとんど抜けてしまった。何が「髪を掴んでひっぱれば簡単に服を剥がせます」だ。

「レヒィィィィ!蛆チャのキレイキレイの髪がぁぁぁ!いくらセレブでも禿げはイヤイヤレフ~!蛆チャの髪返ちてレフ~!」

仕方ないので、顔をトングで摘んで中身を引き抜くことにした。

レピュッ

頭は簡単につぶれてしまった。恐ろしく脆い。これほど難しい力加減の作業をこんな簡単な道具と貼り紙だけでずぶの素人にやらせようというのは無理がないか。
いかにも役人の考えそうなことだ。腹が立ってきた。

しかしなんとかつぶれた頭をそのままひっぱって中身と服を分離した。服は横のゴミ箱へ。中身は便器に捨てる。
一部始終をみていた便器の中の他の蛆どもが姉妹の死体を目の前に投げられ悲鳴のようなものを上げる。
それを聞きつけたのか個室のドアの下の隙間から無理やり親が覗き込んでまたデスデス騒ぎはじめた。
途中から大きな個体がまたうるさくなった場合。それも貼り紙にあった。このへんはよく考えられているようだ。
該当箇所の発音記号を読む。

「デス?デスゥゥ↓。デーーース↑」

親は「デス!」とまた明るく答えると、覗くのをやめた。外で個室のドアに寄りかかっているらしく「デププ…」という声が聞こえた。

次の一匹を掴もうと便器の中をみると、5匹はさまざまな反応をしている。
丸くなって震えているもの。
尺取虫のような動きで少しでも私から遠ざかろうとしているもの。
依然うれしそうに媚びて来るもの。
ひどいのになると今頭を潰された姉妹の死体に噛り付いている。
こいつらには一体知能があるのかないのか。信じられない。考えたくない。

「怖いレフ怖いレフ蛆チャチニたくないレフ助けてレフ」
「レフレフ早く逃げるレフこのニンゲンはギャクタイハレフ」
「オニクオイチイレフ~」
「ニンゲン早く蛆チャ選んで下さいレフ~蛆チャお手伝いがんばるんレフ~蛆チャとってもいい子にするレフ~」

さっきの失敗を反省して、今度はこちらに尻尾を向けてどこに逃げるつもりか知らないがノロノロと逃げようとしている一匹の尻尾をつまみあげる。
尻尾からぶらさげ、下向きに髪を引っ張れば抜けやすい髪でもなんとかなるのではないかという寸法だ。
しかし尻尾の服の部分だけ掴むというのは案外難しく、尻尾の肉の部分を少し摘んでしまった。
服の中でそこがつぶれてしまった痛みか、それとも前の一匹がどうなったのかわかっているのか、摘み上げた蛆が激しく暴れる。
この蛆が身をよじり暴れる感触がトングを通して伝わってくるのがひどく気持ち悪い。早くすませたい。

「しっぽイタイイタイレフーイタイイタイしないでレフー!蛆チャチヌのイヤイヤレフー!ゆるチテレフー!」

こんなに暴れていては髪だけ掴むことなどできるわけがない。
仕方ないのでとにかく暴れているのを止めるつもりでもう1つのトングで体の真ん中辺りを押さえた。

「レピィィィィィィィィィ!!!」

ピチュッという感触と共に蛆の体はトングではさんだ体のまんなかあたりで潰れ、上半身部分がずるっと滑り出す感じで服から抜け、便器の中に落ちた。
体もこんなに脆いことに驚いた。
服の中に中身が半分ほど残ってしまっているが…自分なりに努力はした。素人仕事ということでこれくらいはご勘弁願おう。
下半身が残った服をゴミ箱に捨てた。

思っていたより難しいので、だんだんと意地になってくる。
うまくスルっと剥こうとすることに無理があるのかもしれない。こいつらの体はあまりに脆く、慎重に扱っているつもりでもこれまでの2匹は結局どこか潰れてしまっている。
逆に考える。素人に完全な仕事はどうせ無理だ。だとすれば計画的にある程度潰すのを許容することで比較的うまく剥くことはできないだろうか。
何か閃いた。
便器の手前でこっちに向いて半立ちになってアピールしている?1匹。こいつで試そう。
その1匹の前にかがみ、2本のトングで同時に両耳のような部分を深く摘み、そのまま持ち上げる。
こいつは前の2匹とは違い全く暴れない。こんな生き物でも個体差があるというのだろうか?

「ニンゲンサン強すぎレフーおミミイタイイタイレフー蛆チャのおミミはとってもデリケートなんレフーーレフ?ひょっとして蛆チャがほんとにいい子か試しているんレフ?蛆チャがんばるレフー!」

両耳を頭巾ごとトングで強くつまみ、左右に剥く感じで力を加える。服はどうせ捨てるだけなのだから、裂いてしまえばいいのだ。これはなかなか名案と思ったのだが。
思っていたよりこの服が強くて裂けない。なるほど下水が詰まるというのも納得できる。
少しずつ力を加えていくと、それまでなんともなかった服が突然ピリッという感触がしていきなり大きく裂けた。
力が結構掛かっていたのでその瞬間に服はほとんど真っ二つ。
この勢いで両耳が頭から千切れた肌色の中身が ちゅるんっ と甲高い悲鳴と共に真上に飛び出す。

「レピィィィィィィィィィィ!」

ほとんどまっすぐ上に飛び上がったので、危うくこの血まみれの気持ち悪い虫と接吻するところだった。
もしそうなったら一生のトラウマものだったが、幸いなことに私の鼻先数cmところでこの放物線は頂点になり、そのまま中身は ぽちゃん と便器に落ちた。
なかなかいい案だと思ったのだが、服が案外強く急に裂けるのは予想外だった。これでは力加減が難しいことに変わりがない。

「レフェェェ蛆チャおミミとオクルミなくなっちゃったレフ すごいイタイイタイレフ でもがんばったんレフ ニンゲンサンほめてほしいレフ……」

「たいへんレフたいへんレフ怖いレフ怖いレフ逃げるレフ逃げるレフ」
一匹は必死に恐ろしいニンゲンから遠ざかる方向に蛆なりに急いでいた。
しかしそちらの方向には…

チャポン

(蛆のサイズ的に)深い水が溜まっているところがあるだけだった。
水に落ちた蛆がもがく。

「ケポッ レヒーーーー!蛆チャ泳げないんレフー!カポッ ママー助けてレフーニンゲンサン助けてレフーー! コポポッ」

水に落ちた蛆は体を激しく弓なりにくねらせながらもがいている。
それは決して見目良いものではなく、見つめていなければならないこともないのだが、虫にしては大きな体がのたうつ姿は怖いものみたさで目を釘付けにしてしまうものがあった。
そういえば殺虫剤をいくらかけてもなかなか死なないゴキブリも水に落ちるとあっという間だっけ。こいつはどうなのかな。
そんなちょっと童心に帰ったような興味も沸く。

「ケポポッ ママ…ニンゲンサ…」

やはり水はダメなようで、すぐに動かなくなった。

あんなところに落ちたのを拾うのはイヤだなと思ったが、みると断末魔の運動で頭巾のような部分が脱げてしまっている。
これなら拾い上げれば簡単に剥けそうだ。いい子だな。

姉妹の死体にかじりついていた一匹の尻尾をトングでつまんで持ち上げる。…と、しかしかじりついた死体を口から離そうとせず死体ごと持ち上がってしまう。
つまんだときにトングで尻尾を潰してしまったはずなのに、それでもお構い無しに死体に食いついている。まずはこいつを離させないと。
死体側をもう1つのトングで掴みひっぱる。やはり離さない。力を加えていく。どうやって食いついているのかよくわからないがやっぱり離れない。
更に力を加えていく。

「オニクとっちゃイヤイヤレフー!蛆チャのオイチイオニクなんレフー!絶対離さないレフー!ひっぱらないでレフー!」

ぢゅるん

そんな感触がしてなんと蛆の中身のほうが死体にくっついてまるごと抜けた。
「わぁっ!!」
あまりのグロテスクさに声をあげてしまう。
中身といっても、皮膚と筋肉?を服の中に残し口から骨格と内臓だけがかじりついていた死体のほうにくっついて抜けてしまったのだ。
一体どうしてこういうことになるのか到底理解できないが理解したくもない。
そしてこんなナメクジみたいな生き物に骨格と内臓があることに驚く。

緑色の服の中には皮膚部分が残っているはずだが、もう気にせずゴミ箱へ捨てる。

最後の一匹。この一匹は丸くなって小刻みに震えている。まさか姉妹に起きたことが理解できているのだろうか?
しかしこれでは服を剥くのは難しい。さて…

「ニンゲンサンどうしてこんなヒドイことするんレフ?蛆チャたち生まれたばかりなんレフ 何も悪いことしてないレフ もうゆるちてほしいレフ ママに会わせてレフ」

どうしたものかと思案していたらこの蛆がこちらを見上げレフレフ鳴きながら、短い手のような突起をチマチマと動かしてどうやっているのかわからないが服を器用に自分で脱ぎだした。
小刻みに震え目からは色のついた液体が流れている。こんな生き物に感情などあろうはずはないが、これがまるで涙のように見えて少し哀れなような気もしてくる。

「蛆チャたちのオクルミが気に入らないんレフ?ママにもらったタイセツなオクルミだけど蛆チャ脱ぐレフ そしたらゆるチテくれるレフ? ママに会わせてくれるレフ?」

自分で脱いでくれれば助かるな…と思っていたら、便器の中でまだ生きていた2匹が最後の1匹にたかってきた。
一匹は耳が千切れたやつ、もう1匹が下半身がないやつ。
ひょっとして最後の一匹が脱ぎかけた服の中に入り込もうとしているのか?

「オクルミあったレフー 返してレフー おミミも返してレフー おねがいレフー」
「蛆チャのオクルミレフー ママのにおいがするレフー かえるんレフー しあわせなんレフー…」
「レフェェェ!なにするんレフー?オネチャイモウトチャ無理しちゃダメなんレフー!これは蛆チャのオクルミなんレフ そんなにはいれないんレフ」

2匹は今や頭はすっぽりとはいってしまっている状態だが1匹でぴったりの服に3匹が無理やり詰め込まれた状態は苦しいのか、全体が痙攣している。
しかし2匹は尚もぐりぐりと服と肉の隙間に入り込んで痙攣しながらも奥へ奥へと進んでいく。
小さな袋に肉色の蛆がびちびちと詰まっていく様子はあまりに…気色悪すぎる。

「レフェッレフェッ…ク…クルチイレフ…イキできないんレフ…オネチャイモウトチャヤメテレフ…ヤメテレフ…お願いレフ…ニンゲンサンタスケテレフ…」

びちゅっ

小さな音がして3匹が詰まりに詰まった服の中の肉が互いの圧力で潰れ、3匹の区別などなくなった内臓と液の混合物となり噴きだした。

3匹が中でつぶれた緑色の服をトングでつまみあげると、中からぴちゃぴちゃと小さい内臓やら赤緑の汁が便器に落ちる。汁がだいたい落ちきったところでゴミ箱へ。
先に溺死した一匹をつまみあげて服を脱がしてゴミ箱へ。これは脱げ掛かっていたので案の定楽にできた。

なんとか6匹全ての処理がおわり、水を流してやっとズボンを下ろす。
ドアの外からまた
デプププ…
という声が聞こえた。

<おしまい>

引用元:実装石画像掲示板[保管]