ヒューレット・パッカードエンタープライズ(HPE)が提供するクラウドサービス「HPE GreenLake」が、多くの日本企業から支持されている。同サービスがデジタルトランスフォーメーション(DX)にまつわる課題に解決策を提供しているからだ。執行役員クラウドサービス事業統括本部長の吉岡智司の話をもとに、HPE GreenLakeがもたらす新たなクラウドエクスペリエンスに迫ってみたい。
日本企業がDXを推進しなければ、2025年からの5年間、最大で年間12兆円の経済損出が生じる──。経済産業省の「DXレポート」で示された「2025年の崖」は日本企業に強い衝撃を与えた。これを受けて数多の企業がDXを推進しているが、同時に老朽化やブラックボックス化によるシステム移行の難しさ、人材不足などの課題も山積している。HPE GreenLakeはそれら課題に「最適解」を提供し、支持を集めているのだ。
吉岡はHPE GreenLakeの普及するスピード感に驚きを隠さない。
「ここ2、3年で、HPE GreenLakeが日本法人の売上の20%を占めるようになりました。これは、予想よりもはるかに早く、全世界の2倍のスピードでサービス化が進んでいることを示しています」(吉岡)
吉岡が「パブリッククラウドとオンプレミス環境の良いところ取りした、理想的な環境」と表現するHPE GreenLake。まずはその特長を見てみよう。
パブリッククラウドとオンプレミスのデメリットを補う
現在、自社サーバーでシステムを構築するオンプレミスから、パブリッククラウドへの転換が世界的な潮流となっている。オンプレミスはカスタマイズしやすく、クローズドな環境にすればセキュリティ強度も上げられる。一方で、ITインフラを自社で所有するための多額なコストがかかるうえ、システムを一から構築するため本稼働までには期間を要する。
パブリッククラウドは、クラウド事業者が提供するサーバーやシステムなどをサービスとして利用できるため、導入後すぐの稼働が可能だ。従量課金制のために初期コストも抑えられるが、他企業と共同利用するため、カスタマイズ性が弱く、セキュリティを懸念する向きもある。
HPE GreenLake はオンプレミスなのでシステムを自由にカスタマイズしながら、クラウドのように「使った分だけ」料金をを支払う課金体系を採用しています。つまり、オンプレミスとパブリッククラウドのデメリットをカバーしており、この点こそが吉岡のいう「理想的な環境」であると言える。
「最もHPE GreenLakeの魅力を感じていただけるのは、セキュリティ面かもしれません。ほとんとどのパブリッククラウドにはセキュリティの問題はありません。オンプレミスからパブリッククラウドへの転換がなかなか進まないことの要因のひとつには、各企業が独自に策定したセキュリティポリシーがあるからです。クラウドの場合、基本的にはクラウド事業者のセキュリティポリシーに従うことになり、自社のものとコンフリクトが生じる場合もある。HPE GreenLakeは、希望の場所にシステムやネットワークを設置するので、秘匿性の高い需要なデータを外部に出す必要がなく、ポリシーをクリアできるのです」(吉岡)
自動運転の研究開発の場でも活用
HPE GreenLakeを有効に活用している事例として、ボルボ傘下のスタートアップZenseact社がある。同社では、AIとリアルタイムインサイトを活用した自動運転の実現に向けて、研究開発を進めている。
ボルボの試験車には膨大なデータを収集するため大量のセンサーが搭載されており、試験車1台が1日に収集するデータは50TBにも及ぶ。Zenseact社はそれら膨大なデータを蓄積し、HPE GreenLakeで毎秒数万回のシミュレーションを繰り返して、アルゴリズムを生成しているのだ。
「これはHPE GreenLakeが誇る高い可用性と並列処理能力がなせる技ですが、もう一つ重要な点は、膨大に増加するデータ量に応じて拡張できる柔軟性にあります。稼働状況が精緻にモニターできるため余裕を持った拡張が事前に可能となり、必要なリソースをすぐに稼働させることが可能です。増加する膨大なデータを処理する作業には最適と言えるでしょう」(吉岡)
Zenseact社の例に限らず、たとえば新規事業の立ち上げといった必要なデータ量やストラテジーが未知数なケースは、スモールスタートでコストを抑えられる柔軟性の恩恵にあずかれる。
ITインフラを整理し
優先度の高いDXに人材を集中できる
クラウドサービスが一般化した現在、ITインフラをオンプレミスに限定している企業は少なく、多くの場合は部署や業務内容に応じてパブリッククラウドとオンプレミスを使い分けるハイブリットクラウドという環境を選択しているだろう。
一方で、企業側は契約しているクラウドサービスを誰がどれくらい使っているのか把握できず、データを移行する際に膨大な請求額に直面するケースも少なくない。
「HPE GreenLakeを開発する際、相当の労力を注いだのがモニター機能です。メモリやCPU、仮想環境など、あらゆるものを計測することで、システム全体を可視化します。そうすることで、自然発生的に利活用が進んでしまったパブリッククラウドの全体棚卸しを行い、最適なハイブリッドクラウド環境への移行が推進できると考えます」(吉岡)
このモニタリングは、部門ごとのリソースやソフトウェアライセンスなどの利用状況・課金状況にまで広範に及ぶ。HPE GreenLakeがモニタリングで高い優位性を誇る現状は、HPEのルーツが計測機器メーカーであったことに由来する。
もうひとつ、HPE GreenLakeが日本企業に与える大きな価値が、IT人材の業務・リソースの集約だろう。
「日本には、簡単にクラウド環境に移行できないワークロードが7割残っているともいわれており、企業のIT部門を含めて多くの人材が日々悩みながらシステムを設計し、運用しています。つまり、共有基盤と言われる社内用の環境を維持、改変するために、膨大なマンパワーとコストをかけているのです。HPE GreenLakeでは保守・運用はHPEが担う事も可能です。IT人材が不足しているといわれる現況では、企業にはDXが不可欠な分野にリソースを集中し、推進を加速すべき。私は、HPE GreenLakeの先に、DXによって国際競争力を取り戻した日本企業の姿があると信じています」